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ツキシキ
2023-07-02 00:29:32
72006文字
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★刀剣乱舞・刀剣乱夢まとめ
7作品9振り。愛憎夢(刀さに)、死ネタ、ホラーなど。
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座敷牢の当番を勤める話(同田貫正国)
ホラー?のような少し不思議系。狂うに狂いきれなくて居心地が悪い同田貫正国視点。
____________
「今日の座敷番、忘れちゃだめだよ」
忌々しい順番がもう来やがった。つい舌打ちが漏れる。だが、相手は困ったように笑うことはしても、命を取り下げることはしやしない。
「不満なのはわかるけど。ね?」
「
…………
わぁーってるよ」
何を言ってもこいつは聞く耳を持たない。初めて座敷番に任命された時、いやというほど思い知った。だから俺も抵抗するのは諦めた。不満は隠しきれないが、まあこのくらいなら許されるだろ。
俺がしぶしぶ承諾するのを確認すると、相手は忙しそうに去って行った。朝は誰もが一斉に動く時間帯だから仕方ない。
一方、座敷番になった奴は一日暇になる。こちらとしちゃ手合わせだの鍛錬だのをしたいところだが、怪我や戦に繋がる行為はしないよう言いつけられてるせいでそれも叶わない。
手が空いた奴と喋って時間を潰すのも考えたが、そもそも俺は言葉にこなれている方じゃない。軽く場が盛り上がることはあるかもしれないが、結局それまでで、根本の憂鬱が晴れるわけでもなし。わざわざ誰かを捕まえにいくような気分にもなれなかった。
「寝るかぁ」
寝るのは夜でもできようが、あいにくあの座敷は狭い。広々手足が伸ばせるうちに、と、俺は太刀用に宛がわれた寝所に足を向けた。寝過ごす心配が頭の片隅をよぎったが、今から寝ればさすがに日暮れまでには起きれる、ということにした。
◇◇◇
初めて座敷の番になった時。当たり前だが俺は抵抗した。
どうしてそんな退屈なことしなきゃならねぇのか、理解できなかった。訊いてもあいつは笑んで誤魔化すばかりで、肝心要はちっともわからねぇ。
あの時も確か寝所にいたんだが、苛々してしまいには戸棚をぶっ壊しちまった。そのせいで後々、燭台切やら一期やらのお小言をくらったのも面倒だった。
何にせよ、俺が物に当たるほど歯向かったのも、あいつが頑として譲らなかったのも、あれが初めてで、戸惑っていたのを覚えている。気持ちのやりようがないというか、従いようがないというか。
それで、決着がつきそうにないのを向こうも悟ったのか、俺に向かって言ったんだった。
「どうしても拒むというなら
…………
あなたを折るしかなくなってしまう」
それに俺はなんと答えたんだったか。ああそうだ、冗談じゃねぇと叫んだんだ。
折れるなら戦の場でしかあり得ない。だというのに、たかがそんなことで折ろうとするのか、と。だが、相手にとっちゃ“たかが”で済まない大事な儀式らしくて、話は平行線のままだった。せめてその理由だけでも聞ければ、協力する気になれるかもしれねぇってのに、それすらだんまりのままだった。
何にせよ結局、刀解を引き合いに出されちゃ従うしかない。こうして俺も嫌々、この本丸の奇妙な慣習に従うことになった。
◇◇◇
バチ。と。
何の前触れもなく目が覚めた。誰に起こされたわけでもない。
どうも俺は目覚めの良い性質らしい。獅子王なんぞは寝穢いようで、起きてもぐずぐずと布団に包まっていることも多いが、俺は二度寝したいと思うことすら稀だった。目覚める刻限を意識していれば、自然とそれまでに目が覚める。なんというか、身体がそういう風にできているようだ。
起き上がって、見れば障子越しにうっすらと赤が射していた。昼餉の時間は過ぎたが、終日だらける身に活力などは必要ない。日が落ちきる前に離れへ向かうことにした。
ざく、ざく、ざく。
離れの周りは手が入れられていないせいで、雑草も生え放題だ。まだ暑さの遠い今なら平気だろうが、本格的に夏が来たら鬱陶しくなるだろう。
その時期になってもまだこの番は続いているのか、知りはしないが、できれば続いていなけりゃ良いと思う。
離れの入り口にはあいつが立っていた。
「あ、良かった。来てくれたね」
「そりゃ、朝あんたにわざわざ言われたからな」
そのうえやることも奪われちゃ、こっちも忘れようがない。相手はへらりと笑って、それもそうか、と言った。この柔和な態度のどっから座敷牢なんざ発想が出てくるのか、と呆れ半分で思う。
話もそこそこに、座敷の閂が開けられる。続いて、シュッ、と勢いの良い音がして燐寸が擦られた。
「じゃ、始めようか」
「
……
おう」
中に入るとすぐ、木材で組まれた格子が目に入る。格子の継ぎ目にある扉は空いているが、重苦しい南京錠が垂れ下がっていて、いやでも良い印象は抱けない。
それでも俺はここに入って夜を明かさなければならない。あぁ面倒だ。
靴を適当に脱ぎ散らかして、四つん這いになる。戸が低いのも嫌気がさす理由の一つだ。背後に人がいるってのに赤子みたいな体勢になるのはどうにも落ちつかねぇ。なるべく急いで牢に入る。そして戸の格子の真ん前でどっかりと胡坐をかいた。
「じゃあ、朝に迎えに来るからね」
「ん」
そして、戸が閉まり、金属音と共に錠がかけられる。そんなもん俺ら刀にとっちゃ意味無いだろうに、面倒なことしやがる。
ふ、っと灯りが消える。燐寸が吹き消されたらしい。そのまま足音が向こうへ去っていき、離れの入り口も、閉められた。
◇◇◇
真っ暗だ。
こうなりゃ目を開けておく必要すらなくなる。俺は瞼を閉ざして腕を組み、黙々と時が経つのを待つことにした。
出たらまずは柔軟するか。一日鈍った身体を動かすのに、手合わせ相手を探すのもいいかもしれねぇな。何にせよ、この牢の中は妙に狭苦しくて肩が凝る。
……
いいや、本当は、実際にはそう狭くない。戸は確かに低く作られてるが、座敷牢自体の天井はそう低くないから立ち上がるだけの空間もある。やろうと思えば仁王立ちで耐久だってできるはずだ。まあやる意味はねぇが。
奥行きも横幅もまあまああって、寝転がるのは無理だが、半端に足を伸ばすくらいならできる。
だが、それでも俺は畳のほんの一部を使って陣取ることしかできない。下手にくつろげない、落ち着けない。例え広さがそれなりにあったとしても、牢と言うだけで息苦しくなるもんだ。
目を瞑っているとそれ以外の感覚が鋭敏になっていく気がする。この牢のじめじめした空気、俺の呼吸と共に動く肺の動き。なんだか全てが煩わしいような心地になる。
人の身体はとにかく忙しない。心臓は止まらない、呼吸は止まらない、じっとしていても筋肉は細かく震え、暑ければ汗を流し、傷つけば血を流す。
俺が一振りの刀だった頃は、もっと己というものは単純で、常にどこかを動かし続けるような真似をせずとも成り立っていた。ただ俺は俺の切れ味でもって切り捨てることだけを求められていて、俺の中には切ることしかなかった。煩雑なものは何もなく、ある意味とても楽だった。
今の俺はずいぶんと変わってしまった。
戦に出れば、己のあちこちがうち震えて、熱の塊のようなものがいつの間にか腹の奥に溜まって、声をあげずにいられなくなる。気合いで一喝すると張り詰めていた身体がそれに応えて一挙に膨張し、何もかもが解き放たれるような心地がする。戦は俺のあるべきところで、この身がそれに歓ぶのもよくわかる。
それだけならむしろ良いことだ。だが、それ以上に人の身体は煩わしい。敗した時には唇を噛み千切りたい衝動に駆られ、やり場のなさに途方に暮れる。傷つき膝を折ってしまえば、いくら俺が動き続けたいと思っていても叶わない。
……
俺を喚んだあいつが言うには、睡眠と食事を必要としないだけでも、本来の人間よりは制限の少ない身体らしい。それでも俺はこれが煩わしくて仕方ないと思う。
瞼の裏で重なり合う、赤とも緑ともつかない妙な色の蠢き。
眠っている時でさえ、この身体は動いている。時々、刀であった俺に戻りたいとまで感じてしまう。
俺は、止まり続けたい。
鞘から抜かれるまでひたすらに殺気を研ぎ澄ませるだけの物でいたい。
俺は、動き続けたい。
この抑えがたい衝動を命尽きるまで燃やして壊れてしまいたい。
ただ切るだけで良かったはずの俺は複数になってはぐれてしまって、なんだかいつも苛々としている。一貫しない俺は俺らしくない。落ち着かない。暴れたい。黙っていたい。
────思考する俺はひどく煩わしい。なのに考えずにはいられない。ここを出るのが先が、気が狂うのが先か。いっそ後者のが楽かもしれない。
鋭くなった聴覚が、閂の音を捕まえた。
ようやくだ。ようやく終わる。
自然、深く深く息が漏れた。ずっと黙って座ったままだったというのに、一戦交えた時よりも疲れてやがる自分が、まるで弱いみたいで忌々しい。
「次、俺がこの番になったら、牢壊すかもしれねぇぞ」
不器用な手つきで南京錠を外すあいつに向かって、そう言った。皮肉や意地の悪い冗談ではなく心からの本音だった。やりたくてやるというよりは、俺自身を抑え込む何かがぷっつりと無くなってしまってそれは起こるんだろうと、なんとなく予感している。
俺の懸念を知ってか知らずか、相手は「うーん、それは困るなあ」と呑気に笑った。あんな淀んだ牢を進んで作りたがる奴だというのに、どうしても笑みは柔らかい。
こうも朗らかな面しか見せないと言うのは逆に────
考えかけて、辞めた。俺らしくない。
俺らしさって何だ。
脳裏の己に問いかけたが勿論答えなどない。ただ腹の奥で苛々と火種がくすぶるばかりだった。
<終>
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