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ツキシキ
2023-07-02 00:29:32
72006文字
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★刀剣乱舞・刀剣乱夢まとめ
7作品9振り。愛憎夢(刀さに)、死ネタ、ホラーなど。
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できない審神者と刀剣男士の鬱々とした朝 同田貫正国・困惑
女審神者(死にたがり、苛められっこ気質、痛々しい、口だけ、学習能力なし、無神経)。愛され嫌われより、蔑まれ要素が強め。出来の悪い上司みたいな奴が審神者になったら彼らはどう反応するのか、をコンセプトに短編連作の形式。
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力尽きた眼でふらふら歩いてる人間がいたもんだから亡者か何かかと思えば我らが総大将サマだった。そいつは俺を見ると、ゆるゆる口を開いて、
「あ
……
たぬき
……
」
と言った。俺の号は何ら狸と関係ないが、響きだけで気にいったのか、初めて会った時からこいつはやたらたぬきたぬきと連呼してくる。獣畜生だと言われるようで俺としちゃ不快で、何度も訂正するんだが、なかなか直ってくれやしない。
「オイ狸って言うんじゃねぇ同田貫だ」
「ヒッ、ご、ごめんなさい
……
」
何度指摘をして、何度同じやりとりをしたのか今となれば覚えちゃいない。だと言うのにこいつは毎度怯えては鬱々とし始める。
「またやってしまった、気を付けようとは思ってるんですけど動揺するとつい
……
気を緩ませてはいけない学んだ
……
」
その場にしゃがみ込んでぶつぶつと何か言う様ははっきり言って不気味だ。声が小さいせいで聞きとりづらい。とはいえ俺は経験上、この状態になったこいつは大抵うわ言を漏らしているだけで、聞きとれた所でさして意味は無いと知っている。だから聞き返すことはせず、用もないので立ち去ろうとした。
が、ふと、赤く擦れた目元が視界に入る。俯きがちで表情も見えづらいってのに、俺の目は妙に聡い。
女は泣くのを許される。中にはそれが武器だという奴もいる。けれども戦の世界で生きる俺はどうにもそれに馴染めない。だが気付いてしまったからには見て見ぬふりもできない。
「だいたい私は何かと学習意欲が足りない
……
安定も怒らせるしもっと日々の失敗を生かさないと駄目だと思って、思うから夜中に復習してるのになんでとっさになると頭真っ白になるかっていうそういう
……
」
独りごとが途切れるのを待っていたら朝になりそうだったので無理やり話をぶった切った。
「なあ」
「っは、はい
……
!?」
「何かあったのか」
「え、あ
…………
何か? って
……
ええと、本日はお日柄もよく」
「違ぇよ。明らかに違うってわかるだろうが。そうじゃなくて、あー」
あんた泣いてるだろうと、素直に指摘するには何故かこっちが気恥しくなるので、代わりに自分の目元をとんとんと指先で叩いてみせた。
二・三拍ほど間が開く。この辺りの察しの悪さもこいつがこうなった原因かもしれないと思う。
「あ、あああのこれはその、見苦しくて
……
」
相手はようやく合点がいったようで、慌てて手で覆いをつくるようにして目を隠してみせた。
「あー、別に見苦しいだの構いやしねーよ。それよか何かあったのか」
「何か、ええと
……
あったけど全面的に私のせいなので気にするほどのことではないというか」
「
…………
」
ふつふつと腹の奥から嫌な感覚が湧きあがってくる。この感じに比べりゃ、たぬきと呼ばれることなんざ実に大したことねぇささくれだ。
こいつの煮え切らない態度だとか、見苦しいだの私のせいだのという卑屈さとか。そういったものを見ていると、全てを蹴り飛ばしたくなってくる。下手に押し隠すくらいなら思いきり泣き喚いてくれた方がむしろやりやすい。だが、こんな半端な態度で居られたら、俺はどう手を出せばいいのかわからない。苦し紛れに声をかければ、ぐちゃぐちゃと淀んだ弱音で振り払われる。悪気がないのがまた性質の悪い。
ぐ、と握り拳をつくって嫌な衝動を誤魔化した。ここで俺が暴れ散らせば、こいつのこの悪癖がもっと悪くなるのは目に見えている。
「
……
そうかよ。ならもういい。邪魔して悪かった」
内にある渦巻くものを叩き潰すために声を出せば、想像以上に剣呑な口調になった。だがここで弁解するのもおかしな話で、結局俺は言葉を打ち切る。
去ろうと足を数歩進めたところで、後ろから呼びかけられた。
「
…………
あ、あのっ」
「んだよ!?」
機嫌の悪さが声に出てしまう。凄むように聞こえたかもしれない。
どうも俺は抑えが効かなくて困る。戦場では喜ばしいことだろうが、こういう時はもどかしくてならない。相手は怯えているだろうとわかっていたから、わざわざ振り返ることはしなかった。させたくもないのに尻込みされるのもこっちとしちゃ気が引ける。
俺の背中に向けて、声が飛んでくる。
「つ、次はちゃんと、同田貫って
……
呼ぶので」
ガク、と。見当違いの震え声に、肩の力が抜けた。
「
…………
そこじゃねーよ」
「え、え、」
「じゃあな」
このまま話を続けても埒があかない。困惑する声を置き去りにして、俺はひたすら歩みを進めた。何ともやりきれない気持ちを抱えて。
相手は追って来なかった。嬉しいのか惜しいのかは、自分でもわからねぇ話だった。
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