トリミング 望普編9

twitterなどに掲載していた極短編のまとめです。望普、伏普、原作軸、現パロなどいろいろ。

「普賢真人、実は崑崙十二仙になりました!」


【紫陽花】望普ワンドロ・ワンライ/紫陽花
昼下がりの山道を歩いていた。日差しは強いが、それを遮る木々が空を覆っていて、木陰をわたる風は涼やかだ。ときおり足を止め、その涼しさにひと息つきながら、二人は一本道を歩いて行く。
新入りの道士はまず、高仙に挨拶に行く習わしで、この日は青峰山紫陽洞を訪ねるようにと師から命じられた。
「くれぐれも粗相のないように」と重々しく言われたが、なにをしたらどんな粗相になるか、ここへ来たばかりの二人には見当もつかない。
「元始天尊さま、紫陽洞の仙人さまはどんな方ですか」
普賢がおそるおそる訊ねると、師は長くて白い髭を撫でながら
「日々の修行を怠らず、しかもそれを苦ともせぬ強者じゃ」
強者……。普賢と呂望は顔を見合わせる。それならきっと他人にも厳しいはず。うかつなことは言えないし、もしかしたら自分たちの訪問にも、修行の時間を削られたと気を悪くするかもしれない。
「あの、どうしても行かなければなりませんか」
やや怯んでいる呂望に、師は「当たり前じゃ」と言い放った。
「挨拶もできぬようでは、これからの厳しい修行に耐えられるはずがなかろう」
青峰山へ続く道はゆるやかな上り坂で、手元の地図を確かめながら歩き続けた。濃い緑の木々を、鳥たちがにぎやかに行ったり来たりしている。
「ねえ、望ちゃん。さっきから思っていたんだけど」
来た道を振り返りながら、普賢が言った。
「この道、もしかして自然の道じゃないんじゃないかな」
いわれてみれば、ところどころ道の真ん中を塞ぐように不自然に大きな岩が置かれていたり、普通に歩ける場所に木の板が渡されたりして歩きにくい。玉虚宮からは一本道だから、日常行き来するには不便そうだなと思っていたところだった。
「修行を怠らないって言ってたから、わざとこうしているじゃないかな」
「えええ……そんなもの好きがいるものか」
「それはもちろん、いるんだよ。僕たちがまだ知らないだけで」
この世界にはいろんな仙人がいて、それぞれの特性や強みを活かした宝貝を持ち技を究めているという。それなら、日常生活すべてが修行につながる環境を整える仙人がいてもおかしくない。
「どんな人かなあ、道徳真君さま」
「筋肉自慢してる人だったりして」
「僕たちにもいきなりダンベル持たせたりするかも」
「お茶じゃなくてプロテインが出てくるとか」
勝手なことを言い合って笑いながら歩く先、木々の切れ間にようやく洞府が見えてきた。あれが紫陽洞だ。緊張しながら、それでも目的地についたうれしさで駆け寄ろうとし、そして慌てて立ち止まる。あとすこしで洞府、というところに隔たっていたのは切り立った崖。頼りない一本の縄ばしごがぷらんと渡してある。
「やあ! きみたちが今度入ったばかりの道士だね!」
崖のむこうでその人がさわやかに呼びかける。
「よく来たな!さあ、これが最終ステージだ!頑張って渡り切ってくれ!」
この世の終わりみたいな表情で、二人は縄ばしごに足をかけた。