トリミング 望普編9

twitterなどに掲載していた極短編のまとめです。望普、伏普、原作軸、現パロなどいろいろ。

「普賢真人、実は崑崙十二仙になりました!」


【心残りは君だけ】
彼の手にある球体は青のグラデーションを濃くしながら、ゆったりと明滅を繰り返していた。ひとときも目を逸らさないけれど、真剣というよりは美しい花をうっとりと見とれるようなあたたかさがあった。
「ああ、また、」
思わずこぼれたのだろう、そのひと言に球体を覗きこめば、太公望がなにかを叫んでいる様子が映っていた。ひどく狼狽しているようだった。
地上の様子を、こっそりここで垣間見えることを知ったのは最近のことだ。封神台に飛ばされて、力及ばなかったことはもちろん不本意だけれど、その後に控える役割りを悟ってからはじっとその時を待つつもりだった。地上の様子を覗き見ようなどとは考えてもみなかったのだ。気が変わったのは、同じように弟子を残してきた同僚から、彼のことを聞いたからだ。
「本当はいけないのだろうが」
うしろめたさを含んだ声音を、極限までひそめて白状したのは玉鼎だ。
「少しだけなら見せてもらえる……声は聞こえないが」

疑い半分で彼の駅を訪ねてみれば、普賢は「きみも?」と目を丸くした。
「十二仙はみんな親バカだと、望ちゃんが言うはずだね」
お前には言われたくない、と言いかけて飲み込んだ。球体の表面に映し出されたのは、紛れもなく、自分が託した宝貝を持つ弟子だった。
「楊戩はちゃんときみとの約束を守ったみたいだよ」

それから折を見て足を運んだ。そのたびに苦笑されたが、断られることはなかった。心配というよりは成長を見届けたい、その気持ちは同じなのだろう
「お前も木吒を?」
そう訊ねると、少し考えてから「気がかりなのは望ちゃんのほう」と答えた。
「あそこでああいう手段を選んだことに後悔はしていないけれど」
「けど?」
……まずかったかなと思ってることはある」
「へえ……どんな」
意外だった。もちろん、太公望にとっては大きな傷であったにちがいないし、それに心を痛めていないはずがないのだけれど、そんな痛みすらすっかり胸の内に落とし込んでしまったのだと思っていた。
そこまで聖人じゃないよと彼は肩を竦めた。
「僕もちょっと意地になってしまっていたけれど、あれが最後なら、もっと別に言いたいことはあったんだ」
太公望がどこかに急いでいるようだった。行き先はなんとなく見当がついている。そして、
「お迎え、行ってあげたら?」
そうするか、と立ち上がる。がんばった弟子をなんといって出迎えようか。よくがんばった、本当は来ないでほしかった、言いたいことは山ほどあるが、きっと本人を前にしたら何も言えなくなるにちがいない。
「心残りのないように、しっかり労ってあげて」
言われなくてもそうするよと軽く手を上げた。もうここに来ることもないだろう。
地上からまばゆい輝きが弧を描く。頂上へ、彼は駆け上がった。