【#深淵覗きの断章】But It Is Not This Day

アレフ=レーシュ編、最終作。
夢を介して、『捨てられた地の大精霊の記憶』を見たガーベラとネモフィラ。
目覚めた彼らに、空の王国と星の子どもたちの運命を揺るがす試練が待ち受ける。

⚠原作の諸要素に対する独自解釈・捏造・オリジナル設定あり⚠
※戦闘・流血描写を含みます。

Fanmade by チーバオ(QiBao)
#sky創作 #sky二次創作


「探求の果てに如何なる事柄を知ろうとも、私は精霊たちや世界を愛すると誓っていた。けれど、王と勇者様がやった事だと理解した瞬間、怒りを抑えきれなかった。本当にごめんなさい」
 ガーベラは、己の心情を言語化する冷静さを取り戻していた。
「謝罪は不要だ。憤怒や憎悪を向けられて当然の事をしたからな」捨てられた地の大精霊は自嘲する。
「前にもしっかり伝えただろう? 私は戦士であり英雄だが、善良ではない。これまでたくさんの過ちを犯してきた」
「それでも、あなたに爪を向けたのはいけない事だわ」ガーベラは俯く。
……誠実な子よ、顔を上げよ。お前の“獣の力”は何のためにあるのか。その爪で何を斬るのか。この目で確かめたくてちょっかいをかけた私もいけなかったんだぞ?」

 大精霊は、右手でリトル・ガーベラの暗黒龍ケープを摘むと、かの子を持ち上げ左掌に乗せてやった。
「お詫びに、深淵覗きの知的好奇心を満たしてやるとしよう。何か質問はあるか?」

 少し元気が出てきたガーベラは、大精霊を見上げて尋ねる。
「二つ名をくださったあの日、あなたが殺していたのは闇に堕ちた工業用生物だったのね?」
「そうだ。見たら呪われるという話は、書庫の宰相殿が考案した嘘。見つけてしまった星の子たちに記憶処理の魔法をかけるための口実だった」

 静かににじり寄る工業用生物たちを見て、秘宝の環礁の壁画を思い浮かべながら、ガーベラは続けて尋ねた。
……あの生き物を造ったのは、『光の生物の代わり』として光バッテリー工場で消費するためだった。王国の栄華をもっと長引かせるために。そうでしょう?」
 捨てられた地の大精霊は頷き、淡々と語り出す。
「王国の最盛期を迎えた頃、自身と王国の不滅を願った陛下は、その実現のためにより強大且つ大量のエネルギーを欲した……

 おそらくは、その願いが後に『暴風域』の発生『砕ける闇』の暴走に繋がったのだろうと、賢きガーベラは推察した。

「だが、エネルギーの抽出元である光の生物特に大型の生物は、乱獲と環境汚染によって激減した。そこで『光の生物を造ってしまえばよい』と閃き、反対派を力尽くで抑え、陛下と宰相殿の助力を得て試行錯誤を重ねた。既存の様々な生物や、戦死した精霊、重罪を犯した精霊などを材料にして、私はこの生き物を大量生産したのだ」

 工業用生物の成り立ちと、倫理を逸脱した所業がさらりと語られたことで、ガーベラは全身を氷柱で貫かれるような怖気に襲われた。
「あー、えーと」とかの子は言い淀みながらも、どうにか平常心を保ち、こう返した。
「勇者様の発想力と実行力は素晴らしい、けど……流石に精霊まで使ったのは不味いのでは?」
「それが正常な感覚だろう。造り手殿も技巧師殿も、私の行いの仔細を知って絶句していたしな」と大精霊。
「当時の私は、陛下と王国の為に、罰当たりな行いを重ねに重ね……結局、工業用生物の暴走、光と闇の生物の襲撃、戦乱と衰退を齎した。その責任を果たすために、私は生物工場の跡地を巡り、生物たちの願いを叶えている」
「願い」
 それが如何なるものか。大精霊がその槍で何を齎そうとしているのか。“獣の力”で、ガーベラはその答えを見い出していた。
 極度に歪んだ生命の理に囚われ続け、生に憂み疲れた者たちが、星の子と大精霊を取り囲み乞い願う。

『シネナイ』『モウ生きタクない』
『オワリをくれ』『カイホウして』
『シナセテ』『空にカエリタイ』

 星の子の姿では叶えられないかもしれない、なら獣の姿であれば……
 待って、ダメだ。暗黒竜を傷つけ怯ませたことはあっても、殺したことは一度もない。
 ……今の私は、大精霊様と同じ覚悟が彼らを殺し尽くす覚悟ができているかしら?

 そこまで考えて、ガーベラは大精霊に問いかける。
「それって、私の身勝手で叶えちゃいけないことよね?」

 捨てられた地の大精霊は、大槍を手にしながら答える。
「彼らに安らかな死を与えるのは私の役目。彼らを生み出した私の責務だ。お前が手を穢す必要は一切ない」

 大精霊が立ち上がり、周囲の工業用生物を薙ぎ払わんとした、次の瞬間。
 突如、生物たちの身体は漆黒に、橙色の多眼は深紅に変じた。
 彼らは皆、千の悲鳴を束ねたような不快な咆哮を上げ、怒れるままに沸き立ち、膨れ上がり、小さな星の子と巨躯の戦士に襲いかかった。