【#深淵覗きの断章】But It Is Not This Day

アレフ=レーシュ編、最終作。
夢を介して、『捨てられた地の大精霊の記憶』を見たガーベラとネモフィラ。
目覚めた彼らに、空の王国と星の子どもたちの運命を揺るがす試練が待ち受ける。

⚠原作の諸要素に対する独自解釈・捏造・オリジナル設定あり⚠
※戦闘・流血描写を含みます。

Fanmade by チーバオ(QiBao)
#sky創作 #sky二次創作


「ふあぁぁ……せっかくの心地良い昼寝で、また嫌な夢を見ちまったぜ」
 草原の丸岩蝶の巣の中で、ネモフィラは大あくびをして起き上がった。

「おはようネモフィラ。最もアレフに近しい『残り火』よ」
 ドキリとして声の方を振り返ると、丸岩の外から、草原の大精霊が覗き込んでいた。
「例の『闇の破片』の影響で、あの子の思い出だけでなく、僕ら大精霊の思い出も夢で見るようになったようだね」

 ネモフィラは不信感を募らせながら蝶の巣を出て、大精霊に近づいた。
 イジーの記憶映像で見た、捨てられた地と書庫の大精霊たちの恐ろしげな様子を思い出しながら。

「単刀直入に聞くぜ。王の後継者であるオレたちをずーっと監視しておいて、遂に捕まえに来たのか?」
「例の投影キューブを手に入れた後なら、警戒して当然だろうね。でも僕は、君たちの未来を意のままに歪める事を、望んではいないんだよ」
 ネモフィラは訝しげに草原の大精霊を見上げたが、その言動や眼差しは先ほど見た夢の如く、誠実にして真剣そのものだった。
「この僕は。草原の長アインは、王の影に呪われし子らの味方さ。どうか信じて欲しい」
 先王アレフの記憶でしか知り得なかった、大精霊たちの『古の名』を明言しているのも、その証拠とみて良いだろう。

……いいぜ。とりあえずは信じることにする。色々と知りてえこともあるしな」
 溜息をついて、ネモフィラは了承した。
「そりゃあ良い。孤島の長ダレットの指示で、情報を三つ伝えに来たところだったんだ」
 草原の大精霊に手招きされたネモフィラは、大マンタのケープを羽ばたかせて大精霊の左肩に着地する。
「オーケー、具体的には?」
「ひとつ目。将軍ツァディと宰相ラメドがやっていた『真っ新』の儀式だけど、あれを編み出したのは僕さ」
「なっ……?!」

 捧げた炎から蝶を造り出してみせた大精霊は、殺されたペンネムを雛鳥の子として蘇らせた、あの驚異的な術の造り手だったのだ。

「前提から話そう。僕ら大精霊は、王の堕落と破滅を止められなかった責任を負い、その裔の子である君たちを観測し続けてきた。その結果、王の『残り火』として生まれた星の子は総じて、ある種の呪いと言うべき因子が宿っていると解かった。多分、君も夢を介して知っているだろう?」
「おう。アレフの影の夢で呪いの文句を聞いたぜ。『我が領土も、我が民も。我を見放した天も。我を救おうとする者たちも、我が後継たちも。全て、我が残り火に、我が影に呪われるがいい』ってな」
 ネモフィラは素っ気無さげに語るが、夢の中で聞いた憎しみと哀しみに塗れた怒号を思い出して、心の中で憐憫と苛立ちを綯い交ぜにしていた。
「そうしてアイツは残り火の子らに呪いを蒔いた。『王位』王に至る可能性ってヤツを」
「その通り」と草原の大精霊。
「その『王位』によって心を狂わされたり、外道な行いを繰り返したり、化け物に変異したりした子には、残念ながら殺して魂の火を抜き取って『空留まり』にするしかない。所謂『生まれ変わりの無い死』を与えてやるのさ」

 『生まれ変わりの無い死』。
 他の星の子達の噂話や、ガーベラの仮説でしか聞いたことのない言葉が飛び出して、ネモフィラは再び面食らう。
 『原罪』での死と転生の繰り返しや、地上で全ての光の翼を失った後の『慈悲の回生』とも異なる法則。
 抜き取った魂を『ただの星』として天に縛り付ける死。
 それは噂でも、おとぎ話でもなく、大精霊の権能として実在しているのである。

「けど、一方的にそうするだけでは当人の為にならないし、子どもたちの処刑を続けるのは胸が痛む。だから出せる策を全て出し尽くして、『残り火の子を殺した後に生まれ直させる術』を作ったのさ。『何もかもゼロからやり直しにされる』という重篤な欠陥を抱えてはいたけれど、それは同時に『何もかも真っ新にされる救済』であり、罪を犯した子への重罰としても機能しているんだよ」
「なるほど。容赦無え罰だけど、ガーベラが推測してた通り、慈悲深い処置でもあったんだな……オレは受けたくねえけどさ」
 草原の大精霊は頷く。
「僕としても、君やガーベラを『真っ新』にする日が来ない事を祈っているよ……そういえばあの子は今どこに?」
「ええと、確かあいつなら……
 ネモフィラは暫し考えて思い出した。
「そうだ、捨てられた地で光の翼を集めてる筈だ。『万一の時に獣の姿で長く戦えるように、190片近くは集めておきたい』って言ってたぜ」
「おっと、それは……予想以上に不味いな」草原の大精霊は頭を抱える。
「おい、どういう意味だよそれ?」
「二つ目の情報はね、昨晩ラメドの秘密の施設からイジーが逃げ出しておそらくは意図的に解放されて、あの荒れ地のどこかに潜伏している事なんだ。テスや双子が捜索に当たっているけど……多分、ラメドはイジーとガーベラを接触させる気かもしれない」
 件の投影キューブを残したイジーも、ガーベラやネモフィラと同様『残り火』であり、『アレフ=レーシュの帰還』を望む書庫の大精霊に利用されていると推測されている。
 何を試す気か知らないが、ガーベラとイジーを助けに捨てられた地へ行くべきだとネモフィラが思った矢先、「それで、三つ目の情報はイジーの能力についてなんだけど……」と大精霊が話を続けた。

「ネモフィラ、君、アレフの記憶の中で『工業用生物』って言葉を聞いた事があるかい?」

 かの子は身震いし、ゆっくりと頷いた。
 あの深淵覗きガーベラすら恐れ慄いた、あからさまに不吉な言葉だ。

「あの生き物は『最初の叛乱戦争』が起きた原因のひとつ。ツァディの閃きによって生み出された、禁忌の存在。イジーは彼らの生き残りに接触し、操れるようになったんだ」