【#深淵覗きの断章】But It Is Not This Day

アレフ=レーシュ編、最終作。
夢を介して、『捨てられた地の大精霊の記憶』を見たガーベラとネモフィラ。
目覚めた彼らに、空の王国と星の子どもたちの運命を揺るがす試練が待ち受ける。

⚠原作の諸要素に対する独自解釈・捏造・オリジナル設定あり⚠
※戦闘・流血描写を含みます。

Fanmade by チーバオ(QiBao)
#sky創作 #sky二次創作


……そのために、この『玉座』と『王冠』で、オレを新しい神にしようってのか?」
 書庫の地下、秘密の宝物庫。
 魔術封印が施された金属製の大扉を背にし、黒い石と黄金でできた《至高天の玉座》と、その座面に安置された《光の王冠》の前で、ネモフィラは書庫の大精霊と対峙していた。
「はい」大精霊は喜んで肯定する。
「この玉座は、朝露フェリシアをはじめとした、アレフへの信奉の厚い子らのお蔭で修復できました。彼らはアレフの復活を待ち望み、彼らの黄金の血を玉座に捧げたのです」
 そう言って、書庫の大精霊は愛おしげに玉座を撫でる。
「そして、最もアレフに近い残り火が……宙の意志メガバードに愛されしアレフの後継こそがあなたなのです、ネモフィラ。あなたが再び光の王冠と至高天の玉座を得たならば、あなたの望むままに、欠片たる全ての星の子は終わりなき贖罪の使命から解放され、彼らの生命はあなたのものになる」
 大精霊はネモフィラに迫り、身をかがめ、かの子の頬に両手を添えた。
「そして、あなたは新たな神新たなアレフ=レーシュとして過去をやり直せる。世界と我らの絆は取り戻され、空の王国は蘇り、銀河の煌めきは永遠となる! わたくしは、今度こそ過ちを犯す事なく、あなたと共に栄華を取り戻したいのです! 我らの過ちを知ったあなたなら、過ちを犯すはずがないのですから!」
 熱弁を振るう大精霊に対し、ネモフィラはただ黙し睨んだ。
 あの大賢者の双眸は、熱意と狂気で銀色に燃えている。ネモフィラではなくアレフ=レーシュの残り火しか見ていないのは、先王に対する忠誠と愛情、そして王を喪った悲しみの深さ故のこと。
 それでも、ネモフィラの胸中では、怒りが共感を遥かに上回った。
「テメーらの苦しみや望みは理解できる。王国の滅びを、アレフの死を目の当たりにしたのなら、そう望むのはおかしい事じゃねえ。けどよ、理解はできても、賛同できるか否かは別だぜ!」
 そう言い放ち、大精霊の両手を強引に振り払う。
……なんですって?」
 呆気にとられる大精霊に構うことなく、ネモフィラは怒鳴り続ける。
「『過ちを犯すはずがない』とテメーは言うが、本当に繰り返さねえ保障があんのか? 今後王国を滅ぼす度に、何度も残り火の子を玉座に据えてやり直す気か? オレが他の星の子を、ガーベラを犠牲にすると思ってんのか?」
 親友の名を出した瞬間、書庫の大精霊は微かに体を振るわせた。
「オレたちの……全ての星の子どもたちの生死の在り方を、一纏めに悲劇だと決めつけられてたまるか! 何より、ガーベラとの出会いが無かったことにされんのはッ! メチャクチャ腹立つに決まってんだろーが!!!」
 ネモフィラの渾身の叫びに、応える者が現れた。
「同感だ!!!」
 それは、背後の大扉の向こうにいるガーベラだった。

 書庫の大精霊とネモフィラが振り向くのと同時に、激しい破壊音と共に魔術封印が砕け散り、大扉がひしゃげ、庫内側に脱落する。
 入ってきたのは、獣のガーベラと捨てられた地の大精霊。
 彼らの右手は、青白く輝く魔力を纏っていた。

「まさか今のは……月光拳げっこうけん』?」気づいた書庫の大精霊は驚愕した。
 それは、捨てられた地の大精霊だけに授けた秘儀の一つ。
 月光の如き魔力を拳に纏わせ、あらゆる守護の魔術を無効化して対象を破壊する技である。
 
 そんな特別な技を、どうして……
 書庫の大精霊は、リトル星の子の姿に戻ったガーベラを睨んだ。

「大賢者様。あなたの願いは、再び愛し子に会いたいという思いは、痛いほど解かる。でも、ごめんなさい。私は、美と驚異と業に満ちたこの世界に魅せられた。ネモや他の友達とも、精霊たちや大精霊様たちとも繋がって、空の王国で沢山の思い出を作れた。それを全部無かったことにするのは……皆の空の旅を勝手に終わらせることは、絶対にできない!」
 リトル・ガーベラはネモフィラの前に歩み出て、書庫の大精霊を見上げた。
「いつの日か、全ての星の子どもたちの使命が果たされるか、『生まれ変わりのない死』を迎えるかして、空の旅を終える時が来るかもしれない。私やネモが書き記した旅の記録も、王国の各地に残した痕跡も、全て消えて忘れ去られるかもしれない。けれど、それは……今日じゃないわ!」
 書庫の大精霊は、虚ろな目でガーベラを見下ろした。
「ああ、こんなことになるなら……
 怒りで声を震わせながらガーベラに歩み寄り、振り上げた右手に一振りの光の剣を出現させる。
「はじめから……お前をネモフィラから引き離せばよかった!」
 書庫の大精霊が剣を振り下ろそうとする寸前で、孤島の大精霊と雨林の大精霊がガーベラを庇う様に現れた。
 虚を突かれた書庫の大精霊は、そのまま捨てられた地の大精霊に抱え上げられた。
「放して、ツァディ!!! どうしてあなたまでこんなことを!?」
 光刃を突きつけて喚く宵闇の賢者に、荒れ地の勇者は囁いた。
「今度は私があなたを止める番だ、ラメド」
……ッ?!」
「これ以上はいけない。あの時の私のように引き返せなくなってしまう。このツァディは、深淵覗きたちと同じく、過去をやり直すことを望まぬ」
 賢者は驚きのあまり目を見開き、その手に握ぎる光の剣は溶けるように消滅した。勇者はそっと賢者を地面に下した。
「あなたも、アレフ=レーシュの真の帰還を、過去をやり直すことを望んでいた筈では?」
 戸惑う賢者の問いかけに、勇者は跪いて答える。
「確かに望んではいた。だが私は、新たな神によってやり直される過去ではなく、ラメドと共にある現在いまを選ぶ」
 勇者の真摯な言葉に、賢者は光の涙を滲ませる。勇者はさらに言葉を続けた。
「そして私は、深淵覗きをはじめとした星の子らがどんな時代を築いていくのか、この目で見てみたいのだ」
 思わず姿勢を正すリトル・ガーベラに、ネモフィラは微笑む。
「私も『全てをやり直したい』と夢想したことがある」と雨林の大精霊。
「『陛下の幼い頃に、我が森であの鉱物を見つけなければ』と何度思ったことか。だが、王国は滅び、この世界は新たな世代空を駆け星を紡ぐ子どもたちに託されている。彼らを守り、見定める事はあっても、過去の我らの過ち諸共無かった事にして良い訳がない」
「テスの言う通りじゃよ、ラメド」
 孤島の大精霊は、視線を床に落とす書庫の大精霊の肩に手を置く。
「闇の嵐の中心にいる陛下の一部も、星の子らの時代を望んでいるのではないかのう?」

 その時。宝物庫内の全員が、一斉に至高天の玉座を見た。
 玉座と光の王冠が光を発し、ひび割れ始めたからだ。

*『ネモフィラ、ネモフィラ……我が片割れ、我が後継よ……』*
 皆が声を上げて困惑する中、ネモフィラだけが、王冠から響く声を聞き取った。
 王の影と似た言葉遣いの、子どもの声であった。
*『嵐の中へ、我が元へ来ておくれ。我が願いを、貴公に託さねば……』*
 至高天の玉座と光の王冠は砕け、謎の声は止んでしまった。

「ネモ、どうしたの?」とガーベラ。
 瓦礫と化した玉座を見つめたまま、ネモフィラは答えた。
「呼ばれたんだ。オレたちが『原罪』で死んだ後にハグするアイツアレフ=レーシュの一部に。『我が願いを、貴公に託さねば』って言われた」
 孤島、雨林、捨てられた地の大精霊は驚き、書庫の大精霊は目を伏せる。
「あの子は、愚行を重ねたわたくしではなく、あなたを信じることに決めたのでしょう。ええ、きっとそれで良いのです」
 書庫の大精霊の言葉は寂しげであったが、言葉の端々は暗雲が吹き散れたかのように清々しくもあった。
「玉座と王冠を壊したのは、あの子の願いが私の願いと異なる証です。どうか、天空であの子の願いを教えていただけますか?」
「おう、任せときな!」ネモフィラは快く頷いた。
「それじゃあ」リトル・ガーベラはネモフィラに手を差し出す。
「早速一緒に『原罪』へ行こう! あっ……でも本拠点ホームで一休みして、着替えてからになるけど」
……ありがとうよ、ガーベラ。まったく、一日で色々起き過ぎだぜ」