Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
河童の皿箱
2025-04-02 09:42:52
33860文字
Public
遊戯王:長め
Clear cache
Export ePub
娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
※設定に誤りがある部分あり。未修正。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
パチ、と目を覚ます。窓の外はすっかり明るく、晴れ渡る空の下で木々が揺れる。数日前に布団に突っ込まれ、それ以降仕事を禁じられた男は、やっと取れてきた眠気と、休み過ぎで鈍った体を贅沢に感じる。とはいえ、皆よく頑張って準備してくれたのだから、心配することは無いだろう。
呼吸を整えつつ、男はふと思い返す。1日だけ宿を抜け出そうとしたが、出入り口で仁王立ちする鬼と、従える屈強な男たちを見た。それはそれは極めて古典的な鬼の形相と、呆れ顔の男達と。当然連れ戻され、布団に押し込まれた。
体に力を込めて起き上がる。鏡を見れば髪は寝癖でぼさぼさ。外出る前に整えないとな。
顔を洗い、よく拭き取って、化粧水を塗り、髪を整え、紐で留め、顔が乾いたころに筆を朱に沈め、すっと線を描く。
――
珍しく、一発で満足のいく隈取をかけた。目の下の隈もすっかり取れて、あぁ、良い顔になったな、と。顔の準備はこれでいい。あとは衣装を
――
丁寧に畳んだ自慢の一張羅に腕を通し、ベルトを締める。
こんこんこん。扉が叩かれる。娑楽斎、居るよな、と。すぐに返事をし、サングラスをかけて扉を開ければ、2週間前からずっと手伝い続けてくれた、2人の男が立っている。おはよう、今起きたところだ。待ってくれ、あと飯食ったら行くからさ。彼らは言う。そうか。んじゃ、俺らも付き合うぜ、と。
食堂では、つやつやの白飯と、焼きたての魚と、漬物と味噌汁という、実に朝食らしいメニューが待っていた。手を合わせて戴きます、と食べ始めれば、2人の男はここらであった話をしてくれた。
昨日はアロマージ達が来てくれたんだ。大きい屋台にずらっと並んで、花で作ったボールを作っててさ。いっぱい吊り下がってて綺麗だったぜ。
あぁ、ウイッチクラフトの連中も来てたぞ。アロマージ達とも仲良いみたいで、ボールに吊り下がる糸を渡してたか。
セアミンとハレとニニとフゥリも、踊りの練習してたぞ。ステージも完成したし、俺たちも楽しみだ。今日は朝から米炊いててさ。後で俺たちが餅つきすんだとよ。
小夜丸はなんか駐車場にデカい台を作ってたな。なんか鳥っぽいような、蜂っぽいような。犬連れた見覚えのない奴らも集まっててさ。あれがなんなのかは、俺たちにも教えてくれなかったんだ。
不知火って神社の連中も来てたぜ。ワゴンと一緒に、下の方で案内の練習をしてた。シャトルバスは案内所に停まるんだったよな。
俺の知り合いの料理人達も来てて驚いた。手軽に食べられるクッキーとかワッフルとか揃えてさ。しかし、キッチンカーって便利そうだな。あれだけで家になりそうだし。
…
話題よりも先に朝食が尽き、ごちそうさま、と。手を合わせて片づければ、体のエンジンが徐々にかかってくる。が、それにしてもだるいな。外に出て腕を伸ばし、次に屈伸して。すると、2人の男はこういった。
会場までジョギングで行こうぜ。
おいおい、大丈夫かよ。体、まだ鈍ってんだろ。
そういう時こそ動かすんだよ。大体、それでくたばる奴じゃないだろ。
……
それもそうだな。
ほら、行くぞ!
肯定も否定もする間もなく、2人は駆け出していく。はー、しゃあねぇなぁ。先往く2人の背中を、男も追いかけていく。
渓流が形作る川沿いを走れば、春の息吹に少しばかり遅れた白や黄色の花々が咲き誇り、しっとりとした風が夏の訪れを予感させる。たったった、と同じペースで走り続けて10分ともう少し。会場までは後半分。立ち塞がるのは急な坂である。
だが、男の体は調子を取り戻していた。手本のように走る2人を、少し真似して、追いかける。体にかかる負荷が徐々に強まるが、苦ではなく、だんだん、だんだんと体が温まってきた。
下の駐車場には案内所が設置されており、不知火の巫女とその友たる美女が出迎える。手を振る2人に手を振り返し、そして見送られる。少し進めば、五月人形のごとくじっと佇むカラクリ将軍が居た。
……
微動だにせず、はたして寝ているのか、起きているのか。
たったった。沿道には屋台が軒を連ねるも、朝早くてまだ開いていない。キッチンカーで準備をする菓子職人と、その正面には料理人が2人。互いを向く視線は熱烈で、ばちばち火花を散らす間を通り抜ける。
たったった。ようやく渓流が見えてくる。川の向こうの舞台では、少女たちと能楽師たちが振り付けの最終確認をし、その側では雅楽師と天使の楽団の音色が響く。あぁ、あいつらも呼んだのか。こりゃあ大演奏会になるな。手慣れていないだろう和楽器に苦戦する天使たちを、雅楽師は太鼓の節で先導する。ふと、走る男たちに気づいて、おーい! と。その呼び声に手を振った。
たったった。中腹あたりか。最も大きな仮カラクリ小屋に、魔法使いたちが集まっている。その大きな軒先には、薬玉がぷらーりぷらり。籠にはこれでもかと植物が盛り込まれており、まだまだ作り続けても減る様子はない。季節の花々と五色の糸と、菖蒲の葉が風に吹かれて、ゆらーりゆらり。通りに抜ける僅かな間に、丹精込めて育て上げたのだろう、心地よい香りが届いた。
たったった。何度も来ていた駐車場。視線を外せば、2人の男が頑張った今回の主役、鯉幟がゆらゆら泳ぐ。その前に作られた土俵には、小夜丸と
――
あぁ、ありゃあ忍者たちだな。そう教えれば、えっ、忍者なのか!? ファイアが声を上げた。そうだ、妖精以上に気まぐれだから、まさか来るとは思ってなかったんだよな。んで、あれは手合わせするつもりみたいだ。手合わせ、と聞いてラゼンが振り向き、口角が吊り上がる。へぇ、と。
たったった。ずいぶん登ってきた。森が深くなり、木々のざわめきが聞こえる。そこにポツンと現れたのは、大きなタンクと、男湯と女湯。タンクの側で黒衣が不具合ないかと覗き込んでいると、足音に気づき、黒衣は手を上げた。もちろん、それにも手を振り返す。
たったった。おいおいおい、どこまで行くんだよ。会場をとっくに通り過ぎ、山の上へと向かう2人。走り出したら物足りなくなったんだよ、あと少し付き合え。
そして、渓流の頂上へと辿り着く。弾む息と、程よくほぐれ熱の灯った体に、ふうとひんやりとした空気を取り入れれば、あぁなんと心地よいことか。体中に血が巡る。ぼんやりとした頭が、すっきり目覚めてくる。何度か深呼吸をして、ふと見下ろせば、今来た道がよく見える。屋台の屋根の、渓流の鯉幟の、行き交う人々の色彩が、男の胸をうった。
男は静かに、静かにその光景を見つめ、そしておもむろに口を開く。
なあ。手伝ってくれて、ありがとうな。お前らの手を借りられなかったら、ここまで想像通りにできなかったと思う。
……
本当に、ありがとう。
そんな言葉に、先を走った2人は顔を見合わせて笑った。
燃え盛る赤髪の男は言う。おいおい、まだ祭りは始まってないだろ? それに、契約は今日が終わるまでだ。礼を言うにしちゃあ早すぎるんじゃねぇか?
煙に燻る青髪の男は言う。お前が俺たちとはまた別の戦場に立ってるのはよくわかった。
…
でもまぁ、余計な世話はかけさせんなよ。
水辺に映える青髪の男は言う。はは、ラゼンは手厳しいな。でも、その通りだ。ファイアが言ってたように、セアミンも悲しませちまったし
……
流石に反省したさ。見えてきた課題もたくさんあるしな。
…
それはそれとして、だ。端午の節句の祭りは、これからが本番。契約が終わるまで、まだまだ働いてもらうぞ。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内