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河童の皿箱
2025-04-02 09:42:52
33860文字
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遊戯王:長め
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娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
※設定に誤りがある部分あり。未修正。
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渓流を下った先にある宿。昔ながらの下宿は受け継いできた文化を繋ぐかのように、浴衣の貸出やれなんやれと、この宿ならではのアメニティが充実していた。鯉幟をあげ始めた日ぶりに宿泊したファイアとラゼンは、せっかくだから着てみるかと浴衣に手を出し、しかし着付け方がわからず、御巫達に手伝ってもらったり。同年代の少女たちで集まってわいわいと楽しむ姿を何となくぼんやり眺めていたり。夕食では箸の使い方がまだわかっていないファイアに、ラゼンと小夜丸が教えたり。休む施設といえど、ただただ休むだけでは終わらぬ賑やかな夜であった。
皆が夕食を終えた頃、娑楽斎は戻ってきた。小さな別室を取っていたようで、入っていく背中を、ふたりのセアミンと共に確認し、互いに頷く。荷物を置いて風呂に入って、5分も経たず出てくる。おい、風呂にしちゃあ随分早くないか。ラゼンがセアミンたちに尋ねると、ぼんやりセアミンは答える。早すぎ、と。
その後、娑楽斎はひとりで夕食を終える。それもまた、ずいぶんと早食いであった。その頃には、小夜丸と御巫たちはそれぞれの部屋で寝息を立てる時間になっていた。それでもふたりのセアミンは眠らず、ファイアとラゼンと共に、娑楽斎の様子を観察し続けた。
時計の針が進み、消灯の時刻。あちこちの明かりが消され、窓から入る光も月明りの柔い光のみ。が、娑楽斎の部屋は明るいまま。あぁ、やっぱり。しゃっきりセアミンは再び頭を抱えた。もう、何度も言ってるのに。
じゃ、作戦開始だな。ファイアが不敵に微笑めば、ぼんやりセアミンは頷く。手荒でいいから。首尾よく、お願い。
抜き足差し足。そうっとそうっと近づいて、戸を軽く叩く。とんとんとん。中からはいと返事が来れば、すぐに開く。あぁ、ファイアにラゼン。どうしたんだよ、こんな夜中
…
。
こっちの台詞だバカ野郎。ラゼンは娑楽斎の体を抑え込み、口を覆い、部屋の奥までぐいぐい押し込み、壁に押し付けて拘束する。娑楽斎は抵抗するも、本職の格闘家であるラゼンの力には及ばず、全く身動きが取れない。その間にファイアが部屋に入り、机の上の起動しっぱなしのペンタブレットと鞄を奪っては、部屋の外に滑り飛ばした。
いいか、静かにしろ。じゃねぇとハレ達が起きちまうからな。ファイアが釘を刺すが、娑楽斎はなおも抵抗し続ける。が、ラゼンにはかなわず。部屋の外の荷物はセアミン達が回収し、扉の先からファイアへ頷きを返した。作戦第一段階は完了した。その後、部屋の外から扉が閉まり、ファイアが鍵を閉める。
これじゃあ強盗と間違われてもおかしくねぇな。ファイアは内心罪悪を覚えるも、それもこれもあの悲し気なセアミンのためだ。次に押し入れに入りっぱなしの布団を敷き、ラゼンが娑楽斎を布団へ押し込む。なにを
…
。拘束を解かれ、自由の身になった娑楽斎が文句をひとつ言う前に、掛け布団をぽいと乗せ、ファイアは続ける。あのなぁ、子供を悲しませんじゃねぇよ。途端に、娑楽斎は閉口した。何とか大人しくなった娑楽斎のサングラスを、ラゼンが不意に奪い取る。やめろ、と抵抗するが、先ほどよりもずっと力なく、サングラスはいともたやすく外された。
その下に隠されていた目元にはくっきりと隈ができていた。いつもの化粧もすっかり落とされているものだから、余計に際立って見える。お前、何日寝ていないんだ。ラゼンはつい、ため息をつく。仮眠は、とってる。ぼそり呟いたその声に、ファイアもラゼンもジトっと睨みつければ、娑楽斎はとうとう観念したのか、長い息を吐いた。
やっと落ち着き、ファイアとラゼンは布団のそばに胡坐をかく。セアミン、言ってたぞ。お前の悪癖だってな。ラゼンが顔を隠して布団に包まる娑楽斎に吐き捨てれば、うぅ、と呻いて言葉を返さない。しばらく時計の針の音だけが響いて、小さくぼそりと呟いた。だって、楽しみだったから、と。ファイアは言い返す。お前なぁ、頑張ってんのはわかるけどよ、遠足前のガキじゃねぇんだぞ。祭りの当日に主催者がぶっ倒れたらどうすんだ。それにもやはり言い返せず、うぅー、と。
昼間の溢れんばかりの活力はどこへやら。布団に押し込んだ途端にすっかり弱ってしまった。いや、本来こうなんだろう。それを無理していたものだから、明らかに体に祟っている。ラゼンは付け加える。そんなんじゃあ、いつまで経っても良い体はできねぇぞ。だから俺たちに勝てないんじゃないか、と。三度言い返せないのか、うぅー
……
、と。前話してただろ、人間、しっかり飯食って、しっかり寝ないとってよ。すると布団の中から、でも時間がもったいなくて、とヘロヘロの声で言い訳がましく。はぁ。何度となくため息をつき、ラゼンは言う。こればかりは自業自得だ。今の自分の状態、しっかり覚えとけ。
ごにゃごにゃと言葉にもならない声が何度か聞こえたが、間もなく、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。どうやら寝入ったようだ。とんとんとん、と戸が叩かれ、鍵を開ければ、ふたりのセアミンが部屋に入る。布団をちらりのぞき込み、眠る娑楽斎を確認し、頷いた。ありがとう。作戦大成功だね、と。
それから、セアミンたちは語る。娑楽斎には昼間ずっと動き続けた上で、消耗しているのに夜に眠らず、延々と絵を描き続ける悪癖がある。それは仕事の場合もあるし、ストレス発散の場合もある。今回は仕事らしいが、締め切りは随分先ですぐにやる必要は一切なかった。さらに質が悪いのは、昼間の活動で疲労が全く表に出ない、と。
よく気づいたな。俺たち全然わからなかったのに。ファイアが口にすれば、しゃっきりセアミンは答える。ずっと一緒に居ますから、と。続いて、ファイアはふと疑問を投げかける。普段はどうやって寝かせてるんだ、と。ぼんやりセアミンは答える。ワゴンとスパイダーが居る、と。
もう、それじゃあ伝わらないでしょう? しゃっきりセアミンは補足する。いつもは娑楽斎だけじゃなくて、皆で一緒にスケジュールの調整をするんですが、ほら、端午の節句って大型連休と重なるでしょう? 催しもたくさんあって、メンバーのほとんどが別の予定で詰まってしまって
……
今回は比較的自由に動ける娑楽斎に一任することになったんです。誘致や人員の手配は事前にやれて順調だったんですけど、製粉機の故障とか場所の再調整とかのアクシデントとか、あと元々の自分の予定とか、色々重なって負担を一気に背負いこんでしまったんだと思います。あーあ、もっと早く気づけばよかったなぁ、と。ラゼンは言う。いや、お前たちのせいじゃねぇだろ。こればかりは完全に、自己管理を怠ったこいつが悪い。あんだけ顔が広いんだから、もっと人任せにすりゃ良かったんだ。ぼんやりセアミンは頬を膨らませつつ、力強く頷いた。娑楽斎は、人を見るのが上手。でも、自分を見るのは下手なの、と。
これから、どうすんだ? ファイアが訊ねると、セアミンたちは答える。娑楽斎は祭りの当日まで仕事を禁じ、体力の回復に専念させる。代わりに自分たちが主催の代理になり、ワゴンとスパイダーが戻り次第、4人で手分けする、と。最後に、ぼんやりセアミンは付け加えた。やらないといけないことは、あとちょっとだけ。娑楽斎も、ファイアも、ラゼンも、いっぱい頑張ってくれたから。それに、これからは声をかけた人が、いっぱいここに来る。だから、遠くに行くことは、もうないよ。
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