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河童の皿箱
2025-04-02 09:42:52
33860文字
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遊戯王:長め
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娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
※設定に誤りがある部分あり。未修正。
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少年がひとり、シャトルバスを降りる。リュックサックを背負いなおして会場を見渡してみれば、森に挟まれた長い坂道を、他の乗客たちはぞろぞろと上って、それを先導する巫女と、隣に立つ美女の姿が見えた。少年はここまで1人の長旅をしてきて、体にのしかかる疲労が、目の前の坂道をすぐには上りたくないと叫んでいた。ただ、坂を下りてくる人々の肘から下がる花の玉や、それから漂う優しい香り、そしてなにより、うきうきとした足取りに、少年も早く上りたい気持ちはあった。ひとまず、スマートフォンを取り出して、メッセージをひとつ送る。さて、他には何かあるかな、と更に見回してみると、駐車場の片隅、和傘の下に何かが座り込んでいるのが見えた。
なんだろう。休憩がてら、ふらりと近づいてみると、立派な兜を被り、がっしりと鎧を着込んだ、木製の巨大な人形が置かれている。座っているのに、少年は見上げないとならないほど。なんでこんなところに、と少年が口にするつかの間、人形はその目に光を灯し、ぎょろりと少年を見下ろした。思わぬ出来事に、わあ、と声をあげてのけぞれば、後ろに立っていた誰かにぶつかる。すぐに体勢を立て直して振り向き、ごめんなさい、と謝るが、その先に居たのは、如何にもな不機嫌顔。黒髪に赤を挿す男であった。木製人形に似た鎧を身に纏い、こちらもこちらで、ぎろりと少年を睨みつけた。もしかしてぼく、今日すごく運が悪いかもしれない。少年がぼんやり思っていると、カラカラ歯車の回る音に紛れ、低い声が降りてきた。
これ、ライズハート。お前も客人とはいえ、童を睨むとは感心せぬぞ。不機嫌顔の男は、フン、と鼻を鳴らし、坂の上へと向かっていった。その背を、にこやかな顔をした、けれど同じ顔立ちの男が、待って、と追いかけていった。一体何だったのだろう。呆気にとられる少年に、がはは、と人形は笑った。すまなかったな童よ、奴は何かと顔に出てしまう質なのだ。少年は尚も呆気にとられ続けたが、ひとまずこの人形は悪い何かではないんだろう。
何とか現状を飲み込むと、息をつく間もなく、坂の上から少年を呼ぶ大声が響いた。少年が聞き覚えのあるその声に振り向けば、その声の主が、少年のヒーローが、燃え盛る炎のような赤が、全速力で駆け下りてくる。この2週間ずっと少年から離れていたヒーローは、片手に袋を下げてやってきた。待たせたな、あぁ、これ土産だってさ。ヒーローが少年に袋を手渡せば、少年がのぞき込む。葉っぱに包まれた料理だ。
ふむ、ファイアよ。餅つきご苦労であったな。ここを通る子供たち、喜んでおったぞ。カラクリ人形がそう伝えれば、ヒーローは得意顔に。あれ、これってファイアが作ってくれたの? ヒーローは頷き、言う。そうだぜ。俺ともうひとりが朝からずっとついてた餅だ。それと、祭りを楽しむんなら、もうひとつ必要なんだ。なぁ、無零。
すると、カラクリ将軍は背中から小さな兜を、ヒーローへとポンと手渡し、それをさらに少年の頭に乗せ、顎紐を結ぶ。ふむ、似合っておるぞ、童よ。少年は頭にずっしりのしかかる重さに驚きふらつくが、すぐ背筋を伸ばす。すると、兜は思っていたよりも軽く、普段被る機会なんてないそれに心が躍った。
それじゃあ行こうぜ。ヒーローが少年に手を差し伸べれば、少年は笑い、握って応える。カラクリ人形と黒衣に手を振って、上り坂へ挑む。あれほど厳しいと思い込んでいた上り坂も、2人で一歩踏み入れれば、案外上れるものだった。
坂を上って、途中のキッチンカーでフランクフルトとタルトを購入した。お祭りともあってそこらの店で売っている物よりずっと高かったけれど、大きくて、出来立てで、食欲をそそる良い塩気の匂いがかなり有名なパティシエとレストランのキッチンカーだったらしく、長い列が形成されていたが、店主たちは見事な手際で人を捌き、並ぶ時間はそう長くはなかった。
けれど、向かいのキッチンカーのメニューを見たもう片方は目の色を変えつつも、すぐににこやかに、是非堪能してくださいね、と己の料理を差し出した。少年は、ピリピリしているような、けれど雰囲気は決して悪くはない不思議な空間に首を傾げつつも、ヒーローに手を引かれてまた坂を上った。
ぱっと視界が開けて、川と、そのうえに舞う鯉幟が見えた。あれが、鯉幟。少年はガードレールに手を置いて、泳ぐ魚たちをじっと見つめ、その背中を、ヒーローはポンと叩く。なあボーイ、あれも俺たちが飾り付けたんだぜ。へぇ、ファイア、色々やったんだね。なんて、他愛のない話をして。
行き交う子供たちと、大人たちと、祭りの音が、2人の背中を通り過ぎていく。下からくる人々は、少年たちと同じように、ねえ、あれを見てごらん、と。子供たちは100匹の鯉に、わぁすごい! と。ふと、少年は問いかけた。ねぇファイア。どうして鯉なの? と。だが、ヒーローも返答に困った。うーん、何でか
……
聞きはしたんだけどよ、あんまり俺もわかってねぇんだ。なんでか鯉をあげるのが習わしらしいんだよな。少年は、ふふふと笑う。なぁんだ、ファイアもわかってないんだ、と。ヒーローは、あぁ、と声を出して頭をひねるが、どうにも思い出せない。ふと、背後から声がした。
鯉であるのは、この国の文化が隣国の文化に強い影響を受けているからだ。その国には、鯉が滝を遡って龍となる逸話がある。鯉を子供に見立て、滝、つまり苦難に立ち向かい、龍、つまり強大な権力者になれる様、他にも大きなことを成す様に、願いを込めるのだったかな。
少年とヒーローが誰かと振り向けば、そこに居たのは、するり伸びた長い白髪の男であった。小さな丸眼鏡をくいと持ち上げ、編みこまれた紫髪が、ベルトに締められたロングコートの裾と共に、風に揺られる。男は言った。突然話しかけてすまない。君がファイアか。弟弟子が世話になったようだ、と。2人は頭を傾げた。弟弟子と言われても、さっぱり心当たりがない。男は続けて言う。奴は近頃、この辺りにいると噂を聞いたのでな。上に来るのなら、すぐにわかるだろう、と。それだけ言うと、男は坂を一足先に上っていった。
なんだか、ただものではない雰囲気の人だったね。少年はほっと胸をなでおろす。ねえファイア。このお祭りはすっごく変わった人がいっぱい来るね、と。ヒーローはその言葉に、違いねぇな、とケラケラと笑う。なにせ、主催者が結構な変人だからな。多分そのせいもあるぜ。
2人はまた坂を上り。川の流れは上るたびに少しだけ早くなったり、穏やかになったり。渦を巻いたり、支流の先が無かったり。なんにせよ、鯉たちは川の上を目指している。川の向こうの舞台のイベントはもう終わったらしく閑散としていたが、そちらでは黒衣と雅楽師がなにかの準備をしているようだった。
上って上って。何やら声が聞こえる。 ふん、自分の管理も出来ぬ戯け者めが。貴様が散々暴れられるのは周りがあってのことだろう。貴様は1人で何もできはしない。今後は我が身を省みることだな。喧嘩をしているかのような声に、何事かと目を向ければ、その先に居たのは、先ほど駐車場で少年を睨みつけた黒髪の男と、それに詰められている主催者であった。
あれ、と。少年はしゅんとしぼんだ主催者と、黒髪の男の言い分に疑問を抱く。ねえ、ファイア。娑楽斎さんって
……
何かあったの? 問いかければ、ヒーローは肩をすくめた。何時から何時までかはわからなかったが、あいつ、祭りの準備中に興奮しすぎて寝なかったんだよ。ぶっ倒れる寸前だったんだ、と。少年はおおよその事態を把握する。それじゃあ、怒られても
……
いやでも、だいぶ言い方きついね、あれ。
ひとしきり怒った男は頭を押さえ、貴様はいつもこうだ、と。主催者はすっかり猛省しており、将軍様の仰る通りだ、次からはこういうことがないようにする、と。その一言を引き出せた男は、また鼻を鳴らした。続けて、主催者は言う。あぁ、そういえば将軍様。上に風呂を用意したんだが、行くか? と。男は頷き、俺みたいな奴が行けそうなのはそのぐらいだろう、と。主催者は言う。なら、是非とも感想聞かせてくれよな、と。主催者のなんだかんだでけろっとした様子に、男はため息をつき、貴様も精々養生することだな、と背を向けて坂を上り始めた。
娑楽斎さん。少年が主催者の屋台にまでテクテク歩けば、おっ、と主催者は手を振る。いらっしゃい。来てくれたんだな。今日は子供の日、そして端午の節句だ、って、ファイアから聞いてるか。主催者がそういうと、少年は笑う。ファイアはあんまりわかってなかったみたいです。するとヒーローは罰が悪そうに少年の頭をこつんと叩くが、兜がしっかり守った。こら、そんなこと言わなくてもいいだろ。主催者はその様子にハハハと笑い、いい兜じゃねぇか。似合ってるぜ。それに、ファイアもここまで忙しかったからな。頭から抜けるのだってわかる。それじゃあ、改めて。
主催者は語り始める。昔々の大昔。この国では5月5日になると、強い子供になれよと幟をあげる習慣があった。ただ、それができたのは所謂貴族たち、普通の家じゃあやれなかった。時代が進んで、ある時ある街。とある商人が閃いた。あげる幟の形を変えちまえば、御上からも叱られねぇってな。そうして幟を鯉の形にしたのが、庶民も親しむ鯉幟の始まりだ。それと、そっちの葉っぱに包まった料理は、柏餅と粽。柏餅は鯉幟が上がり始めた頃ぐらいに食べられるようになったもので、家が子々孫々続いていくよう祈願して食べられる。もうひとつの粽は隣国から伝わった保存食で、川の中に棲む悪い龍に供物を食べられないよう、龍が嫌う葉に包んで川に投げ込んだのが始まりだとか言われてる。
…
あぁ、柏餅は生菓子だから、すぐ食べてくれよ。粽は種類があってな。菓子の奴とか、本場の奴とか、まあ添えてある紙を見れば、中身がわかる様にはなってるからさ。
すると、坂の上の方から大歓声が上がった。あれなんだろう。少年が振り向くと、上の方の広場で飛び跳ねる人が見えた。黒い装束に身を包んだ赤い髪の男が、その四方に立つ柱を器用に足場にして跳ね、飛び乗る瞬間に、柱はゴンと大きく揺れる。だが、上に乗る男はまた別の足場に飛び移り、急降下。ねえ、ファイア。まさかだけど、あれってもしかして、忍者? 少年が問いかければ、ヒーローはあぁ、そうだ。と答える。そういやぁ、ラゼンはあっち行ったか。主催者がそう言う間に、少年はばっと駆け出した。生で忍者を見られる機会なんてそうそう無いよ、とヒーローの腕をつかみ、そのフィジカルはいったいどこから来たのやら、ずんずん駆け上っていく背中を、主催者は見送った。
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