河童の皿箱
2025-04-02 09:42:52
33860文字
Public 遊戯王:長め
 

娑楽斎が端午の節句を祝うだけ

娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
※設定に誤りがある部分あり。未修正。



 白き少女が、黒き少年の手を引っ張って、坂道をぐんぐん登っていく。行き交う人々の衣装は、2人にとっては、霊峰に住む恩人たちを思い返すものだった。人々の隙間を縫い、小さな行列を作る店々に、少女はひとつください、これもください、それも、あれも! 全ての店の食べ物をひとつずつ買っては、少年が受け取っていく。さくさくクッキー、ふわふわワッフル、ぎゅっと握ったお寿司に、少女は、みたことない食べ物でいっぱいです、と大興奮。
 ねえ、見てください。あちらからもとても美味しそうな匂いがしますよ! つられるままに、奔放に歩く少女の背中を、少年は追う。けれどその足取りは、少女とともに躍る様。

 しばらく登って辿り着いた先では、この祭事の主催者だという青髪の男が、食べ物を用意していた。よう、嬢ちゃんと坊ちゃん。せっかくなら寄ってきな。ふわり漂う砂糖の香りと、お腹をぐうと刺激する醤油の香りにまたつられた少女は、その店の前に立った。
 男は台の上の、葉に包まれた何かをいくつか手に取り、丁寧に袋に詰め始める。今日は子供の日、そして端午の節句ともいう。そして、健康を祈って食べるのがそう、柏餅と粽だ。そういいながらも、てきぱき手を動かした男は、少年と少女に2つの袋を差し出した。ほれ、これがお前さんたちの分。こいつは御裾分けってやつだから、お代は結構だぜ。
 ほ、ほんとうですか、ただでもらっちゃっていいんですか? 少女が不安に駆られて口にすれば、屋台の奥からまた別の、赤と青の男達が顔を見せる。赤髪の男は言った。あぁ、大丈夫だ。なんてったって、今日は子供が主役の日! いっぱい遊んで行けよ! 続けて、青髪の男は言った。あんまはしゃぎすぎんなよ。怪我でもしたらつまんねぇからな。そして主催者の男は、おいこら餅つけ餅! 思ってた以上に人来てっから、足りなくなるぞ! と、2人の男を押し込めば、はいはいと軽く流して、また奥の方でぺったんぺったん。少女はその光景も、何もかもが新しいもので、胸がどきどき、頭はくらくら、わくわくしている自分を抑えきれなかった。そんな少女のきらきらとした瞳に、少年はとうとうと目を奪われた。
 ぺったんぺったんついた餅は、ホカホカな間に木の器の中から取り出されて、今度は赤に青に緑の少女たちが、器用にあんこを詰め込んで、最後に綺麗に葉に包む。そうしてまた屋台に並んで、訪れた子供たちに主催者の男がほいどうぞ、ほらどうぞ、ゆっくりしっかり噛んで食べろよ、喉に詰まらせないようにな、とひとつひとつ、手渡していった。貰った子供たちは大喜びで、また別の店にも向かったり、机がたくさん並んだ場所に向かったり。

 ねえ、アルバス。せっかくだから私たちも食べてみましょう! どんな味なのか気になります! 少女は少年の手を引いて階段を下り、空を泳ぐ魚たちの下にもぐりこむ。空を見れば飛んでいるか、泳いでいるかのような、不可思議な飾りに、少女はまた目を輝かせた。
 穏やかにせせらぐ川べりに腰を下ろして、2人は袋からひとつ、葉に包まれた餅をひとつずつ取り出しては、ぱくり。ほんのりあたたかさが残っていて、もちもちやわらかい。奥の方ではじんわりと甘みがあって、そして葉っぱがまた香り高くて……のびーる餅に、少女の心はどんどん満たされていく。パチンとちぎれたその時に、袋に入っていた紙を見た少年は言った。エクレシア、葉っぱは外して食べるみたいだぞ、と。少女がおもむろに自分の餅に目を落とすと、葉っぱはすっかり虫食いみたい。ももももも、口を動かそうとしても、もちもちもちもち。なかなか噛み切れないし、なんだかくっついて飲み込めないし。でも口に物を入れたまま喋るだなんて。柏の葉が少女の口の中で砕かれ、その青臭さについつい頬を赤らめては、微笑む少年から目を逸らした。