河童の皿箱
2025-04-02 09:42:52
33860文字
Public 遊戯王:長め
 

娑楽斎が端午の節句を祝うだけ

娑楽斎が端午の節句を祝うだけ
※設定に誤りがある部分あり。未修正。



 ふふふふふ。話は聞きましたよ娑楽斎さん! ここは忍のわたしにお任せあれ!

 突如樹上から飛び降りてくる黒い影。ばっと男の手から太い紐を奪い取り、ぴょーんと崖から跳躍する前に、娑楽斎はもう片手に残っていた紐をぐいと引っ張りなおし、今まさに落ちて飛び出したそれを一本釣り。ビィンと伸びた紐の先からずるずると戻ってきたのは、黄色い装束に身を包んだ、派手なくノ一である。

 何をするんですか娑楽斎さん! わたしが行けばそりゃもう一発で!

 問答無用とばかりに小さな頭へチョップが下る。一旦落ち着け。かしましい声の主は、むぅ、と頭を押さえ、ようやく収まった。
 ……で、一体何が起きたんだ? 何度目となく、呆気にとられるファイアとラゼン。3人の男は列車に乗せたコンテナを受け取り、次にトラックで運び、木漏れ日に煌めく渓流を訪れ、鯉幟の飾りつけを始めるところであった。
 春のぬくもりと夏の足音から遠ざかる、涼やかで穏やかな川辺。手始めに、渓流を形作る谷間に紐をかけようとしたタイミングで現れたのがそう、忍ばぬ忍こと、乱破小夜丸である。
 小夜丸。こっちは力仕事にぴったりなこの2人に任せるから、お前は風呂の方の手伝いに行ってくれ。スパイダーが居るから、詳しいことはそっちで聞いてくれるか。お前さんの知識はそっちの方が活かせるからさ。娑楽斎は地図を見せる。山奥に隠された温泉から伸びるパイプと、仮設の風呂場の位置を教えれば、わっかりました! と、小夜丸は首のマフラーがはためくほどに元気よく走り、樹上を蹴って跳ね飛びつつ、去っていく背を、ファイアとラゼンは呆然として見送った。

 さて、気を取り直して。何事もなかったかのように呟く娑楽斎に、ファイアは待て待て! と。あれ忍者だよな、絶対忍者だよな!? と。どこか興奮した様子のファイアに、娑楽斎は額を押さえる。いや、確かに忍者ではあるんだが……まあ、見ての通りでな。でも悪い奴じゃあねぇんだ。腕や技術だって信頼してる。ちょいと気持ちが先走り過ぎるから、少し落ち着きを覚えてくれりゃあなぁ。ラゼンは頷く。分かるぜ、ああいう絡まれ方はくたびれるよな、と。

 再度気を取り直して。娑楽斎はファイアとラゼンに通信機を渡し、杭で打ち込んだ竿のある待機地点へと向かわせる。ファイアは駐車場に近い方へ、ラゼンは森の深い中へ。矢車が風にカラカラ回るそこへの到着を知らされた後、忍に奪われかけた鯉幟をかけるための紐を待機地点まで、ドローンを飛ばす。そうして双方へ渡した紐は、2人の男がしっかり引っ張り、せせらぐ渓流の上にピンと張られた。よし、ラゼン、一旦駐車場まで来てくれ。通信機から聞こえる声に、はいはい、と山を下りる。
 次に、駐車場から運び込んだ鯉幟を広げ、指示と紐の金具に従って取りつけていく。2つの金具に短い紐を引っ掛け、鯉幟が垂れ下がる。滑車にかけられた紐をぐいと引っ張ると、黒い真鯉が地上を離れる。上流を目指すが如き鯉が1匹、ゆらり、ゆらりと、風を食べ始めた。
 なるほど、これが鯉幟。こりゃあ綺麗だな。ファイアは空に泳ぐ魚を眺めて感嘆の声を上げた。呼応するかのように、あぁ、思い出した、とラゼンはポンと手を叩く。ずっと昔、小さい頃、師匠がやろうって言ってたな。鯉幟上げたのは一回きりだったけど、そうか、これか。娑楽斎は言う。へぇ、お前んとこにもあるんだな。
 ま、思い出話は祭りの時まで取っておいてくれよ。なにせ、これからあと99匹あげるんだからよ。
 ファイアとラゼンは目を瞠るも、箱の数から大方の予想はしていた。そして、腹も括っていた。だからこそ、気合を入れる為か、それとも八つ当たりの一種か、叫ぶ。

 あぁ、やってやらぁ!

 いよいよ乗り気になってきた、或いはやけくそ気味になってきた男たちに、娑楽斎は愉快そうに笑った。はは、頼りにしてるぜ。