ゑ/圓堂
2025-03-26 23:40:55
27579文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・前編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】

2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは前編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。さにごぜが特命調査慶応甲府を経て邂逅するまでの物語を綴りました。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。



***

――失礼する」
「やぁ、おはよう」



季節は冬。
きんと張り詰めた空気を纏ったまま、つい先日この本丸に顕現した日光一文字は、大広間で日課の割り振りをする蜂須賀虎徹へと声をかけた。

この本丸の近侍——謂わば主の側近のような立ち位置である彼は、執務室に籠りきりの主の代わりに、本丸内の通常業務を一手に担っている。この本丸に属している刀剣男士達は皆、朝の身支度と食事が終われば、蜂須賀虎徹に今日一日の任務を確認する。それがルーティンであった。

「君には今日は午前の演習と遠征を二ヶ所お願いしたいんだ。構わないかな?」
「任されよう。……して、主は」
「主に用かい?」
「否、そういう訳ではない」

日光一文字の問いとその理由に、蜂須賀虎徹は僅かに首を傾げる。まだ顕現して日は浅いが、この日光一文字という刀剣男士は何の理由もなく行動を起こすような性分ではない筈だ。
何か抜き差しならぬ話でもあるのだろうか——そう思案し、主はお決まりの執務室に居るであろう事を蜂須賀虎徹は告げようとした。しかし彼がその口を開きかける前に、日光一文字が先に言葉を続ける。

「俺がこの本丸に顕現してから日が浅いとはいえ、主の姿を見たのはほんの数度……口を利いたのは顕現したその日一日だけだ。一体あの男はお前に万事を任せて何をしているのだ?主にしか出来ん勤めもあるのだろうが、少々疎かが過ぎるのではないかと俺は思っている」
……主は主で多忙だよ。それにああ見えて、別に俺達刀剣男士を疎かにしている訳でもないんだ」
「ほう、それにしては随分な使われようではないか?」

蜂須賀虎徹は、日光一文字の言うところの『随分な使われよう』の意味を瞬時に理解した。それは、彼が顕現したその日に主への報告を兼ねて執務室へと案内した時の事を指しているのだろう。

日光一文字の挨拶を『堅苦しいのは苦手だ』と制し、更に『後はいつも通り上手い事適当にやっといてくれ』と執務室の入り口の障子戸の前で控えていた蜂須賀虎徹に言った、在りし日の主。その有様は、蜂須賀虎徹にとっては普段と何ら変わらぬ主そのものである。だが、日光一文字にとってはその主の態度が、仕えるに値する男として映らなかったのであろう。無理もない話である。

それにその感情は何も日光一文字だけのものではない。今までそのように主に対してネガティブな感情を露わにしてきた刀剣男士達は、決して少なくない。
そしてそんな彼らと主の間を取り持ってきたのは、いつだって蜂須賀虎徹だ。彼無くしては、この本丸の指揮系統はあっという間に機能不全を起こしてしまうのだ。

「彼は初めからああだよ。……俺は、それでも彼を今代の主だと思っているし、だからこうやって近侍として出来る限りの事をしている」
……この本丸に長く在れば、いずれ答えは出る、と言いたいのか?」
……そうだといいけれど」

そう言って蜂須賀虎徹は何とも複雑な微笑を日光一文字へと向ける。彼の様子に何かを感じたのか、日光一文字はそれ以上問う事はせず、黙って大広間を後にした。