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ゑ/圓堂
2025-03-26 23:40:55
27579文字
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管理NO3250本丸
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【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・前編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】
2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは前編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。さにごぜが特命調査慶応甲府を経て邂逅するまでの物語を綴りました。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。
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「おや、珍しいねぇ」
「えっ、主?!」
「おいおい、こりゃあ今日は大嵐だ」
「はは、毎日モテるなぁ主」
「弄ばれてる、の間違いだろ
……
」
特命調査部隊が本丸を出立してから早数日。
蜂須賀虎徹が不在の穴を代理で埋める事になった大般若長光が、朗らかに笑いながら主を揶揄う。
近侍は必ず同じ刀剣男士が務めなければならないという決まりは無い。当番制にしている本丸もあれば、ずっと同じ刀剣男士に任せているという本丸もある。
但し『必ず近侍は本丸に常駐させておく事』というルールだけが存在しており、この本丸のように近侍が固定されていながら、その近侍を出陣させた場合は代理を立てる必要がある。
このような事態は初めての事では無い。今までも蜂須賀虎徹を出陣させた事はあるし、その都度代理の近侍を他の刀剣男士に任せていた。
ただ今回、決定的に違っている点がある。これまでであれば、蜂須賀虎徹が前もって代理の近侍役に全ての務めを引き継いでいるところを、主が自らやると引き受けたのだ。
これに驚いたのは蜂須賀虎徹だけではない。大袈裟などではなく、本当に本丸中の刀剣男士全員が驚き色めき立ったのだった。
今まで頑なに表に出てくる事のなかった主が、毎朝の任務を皆に伝え、内番の様子を覗き、食事の手伝いまで行っている。それは天変地異などよりもずっと皆を震撼させた。
そして、次第に慣れてきたであろう今日になってもまだ、刀剣男士達は一様に主の姿に驚いてみせる。要はこの非日常を面白可笑しく楽しんでいるのである。
「いいじゃないか。こんなにこの本丸が賑やかなのは正月以外無いんだから」
「まぁ、
……
そうだな」
慣れぬ畑仕事を一段落させ、大広間の火鉢の傍でふたりは一息ついている最中だ。完全に名ばかりの近侍といった様子で、ただ主の話し相手と化している大般若長光の楽しげな台詞に、主は伏し目がちにそう答えた。
そして主は、ここ数日間の本丸の様子を脳裏に浮かべる。
初めてまともに見た、彼らの驚く顔。
初めは困惑していた彼らが次第に打ち解けてくれる様子に、素直に嬉しさを覚えた己の胸中。
彼らの口から語られる、歴史書にも記されていないだろう前の主の意外な一面。
演習や手合わせであっても、出陣時と変わらず真剣に刀を振るう彼らの雄姿。
「
——
なぁ、おじさん」
「いい加減おじさんって呼ぶのやめなさい。
……
何だい?」
「俺、もっと嫌われてるのかと思ってたよ」
「やっと気付いたかい。やれやれ、全く世話の焼ける主だ」
三日月宗近が気を利かせて淹れた煎茶を啜りながら、大般若長光はやや大仰に呆れながら言ってみせた。
「皆あんたが嫌いな訳じゃない、どう接していいのか判らなかっただけさ」
「そりゃそうだよな。俺だってそうだった」
「いいきっかけになったじゃないか。これで特命調査の方が無事に終われば大団円だ」
「あぁ
……
あいつらなら大丈夫だろう」
火鉢の中で灰にまみれる銀色の包みを火箸でつつきながら、主は今朝確認した『鳩』の映像を思い出す。
『鳩』は出陣した部隊を追跡し、映像を記録する装置である。
音声のない映像のみではあるが、戦闘の様子や負傷具合などは比較的高画質で記録される。液晶タブレット状の受信装置を用いればリアルタイムで映像を確認する事も可能である。
特命調査部隊の様子を記録した『鳩』の映像は、特に目立った苦戦もなく進軍する彼らの様子と、部隊長である加州清光と何やら楽しげに会話をしている風の監査官を映していた。
会話、というよりは加州清光が一方的に振り回されている感が否めなかったが、それでもその映像の中の加州清光は、本丸では見せた事のないような表情をくるくると忙しなく変えていた。そんな彼らの様子を可笑しいのが我慢出来ないような表情で見ている大和守安定も然りだ。
沖田総司の愛刀らの素直な姿に、改めて主の関心は強く監査官へと向いた。
彼が何者なのか。この調査にどう関わって、どんな意味をもたらすのか。その問いは、彼の姿を一目見た時から主の中で堂々巡りを続けている。
一縷の希望を抱く勇気が、未だに持てないでいるのだ。
「
……
主、芋が焦げるぞ」
「、ああ、悪い」
回想から現実に引き戻されて、慌てて主は火鉢の中を覗き込んだ。
気が付けばすっかりと広間の中は香ばしい匂いで満たされている。
「大丈夫と言いながら、その顔は全然大丈夫じゃなさそうだなぁ」
「
……
あいつらの事じゃない」
「例の監査官の事だろう?心当たりでもあるのかい?」
「ないと言えば嘘になる
……
ただ、到底有り得ない話だ」
火箸で拾い上げたアルミホイルの包みを大般若長光の前に置きながら、主は自嘲するかのように顔を歪ませた。
「
……
俺は聞きかじりの情報しか知らないが、あんたら人間が暮らす現世の世界の文化や技術の発達は物凄い速さで進んでいるそうじゃないか。昨日の迷信が明日には真理になっているとか何とか言うだろう。だから、有り得ない話でもないかもしれない」
大般若長光は慣れぬ手付きでホイル包みの芋と格闘しながら、それでも普段と変わらぬ穏やかな口調で主を諭す。
「
……
それはそれで、複雑だな」
「何だ、煮え切らない男だなぁ」
そんなじゃあ肝心なところでモテないぞ
——
冗談半分本気半分といった風に軽口を叩き呆れ顔を作る大般若長光に、主はいいさ、と力なく笑った。
「
……
出来れば、俺の予想は当たって欲しくないんだ」
「その心は?」
「俺の予想が当たったなら、きっと俺はまた判らなくなってしまう。俺が審神者になった意味も、ここに居る理由も」
焦げぬようやむを得ず引き上げた芋の包みを指で弄びながら、主は虚ろな瞳の影を色濃くする。
「
……
それはどうだろうなぁ。そんなものは杞憂だと俺は思うがね。だってあんた、ここ数日何だかんだと楽しそうだったじゃないか。それだけで、十分ここに居る理由になるさ」
「
……
」
「あの監査官も、これまで通りならゆくゆくはうちの一員になるんだろう。その時は素直に喜べばいいじゃないか。多少贔屓目になったって、今までの主よりはずっといいさ。皆そう思う筈だ」
大般若長光の形の良い唇が弧を描く。
「
……
まるで全部知ってる風な物言いだな、おじさん。蜂須賀にでも聞いたか?」
「何だ、蜂須賀は知ってるのかい?ずるいなぁ、今だけ近侍の俺にも教えろよ」
「勘弁してくれ。あんたに話したら明日の朝には全員に広まっちまうだろ」
「信用無いなぁ。おじさん悲しいな」
「言ってろ。
……
別に今じゃなくても、あいつらが帰ってきたら話すつもりだよ」
主はぶっきらぼうに突っかかりながら、既に冷め始めている包みに手をかけた。外側は十分触れる温度だったが内側はそうでなかったようで、中の芋に触れて慌てて指を引っ込める。そんな主の様子を、既に半分に割った芋の片方を食べ切ろうとしている大般若長光は柔らかな眼差しで眺めていた。
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