〈後編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

18000字ほど〈後編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


……天越えるタワー、行く?」
 河川の水面にネオンがたゆたうように映っていた。指で横髪を解いて、僕は訊いた。
 櫂人はしばらく考えるように黙っていたが、いちど空に目をやってから、暗い川面に向かって、言った。
「どっちでもいい。……透萌歌さんが好きなほう」
 僕は今日、初めて名前を呼ばれて、どきっとしてしまったが、顔に出さないようにして、そっか、とひとこと答えた。
 それから、見つめても、横顔がこちらを向かない。
 今日、最初にたわいない会話をしていたときみたいだ。
 前に回りこむ。
「さん付けじゃなくて呼び捨てがいいな」
 踵を浮かせて背伸びをして、その眼鏡の視界にちゃんと入るようにして、ちょっとおどけるように笑って言った。
 櫂人は一瞬、息をとめたみたいに動きが止まった。そして、どこかがむずがゆいというような、眉を寄せた、気難しいしかめっ面になって、目をそらす。
 シャイな、照れ屋さんかもしれない。
 

 できるなら、もっと話してみたい。
 二人きりで話したい、だなんて思ってしまう。
 今日これでお別れなのに。

 僕は『彼氏』に向いていないな。つくづく、思い知った。
 今日は、どの場面でも、甘美な思いをいだかせることもできていない。
 向いているなんて感じていたのが、馬鹿みたいだ。 
 仮初めの薄皮の魔法使いの化けの皮をはいだら、甘くて楽しい夢を魅せることなんてできない、惚れっぽくてこんなに動揺して焦って情緒不安定でめちゃくちゃなこと言って困らせている。
 それでいて、まだ、どこかで二人っきりになって落ち着いて話したいとか望んでいる。 
 
 夜景を眺めて、これでいいか……と僕はいっしょに綺麗な夜景を見るという行為に、ロマンチックな景色には満足した心地で視線を辺りへぐるっとやった。そうして黒く鈍く光を反射する河川の景観の隅にあるものが何かわかって、はっとした。

 観覧車がある。
 白々とした光にその骨組みはライトアップされて、その骨地みからは金色の強い輝きが放たれていた。
 このあたりに観覧車があるとは、知らなかった。観光スポットの検索には情報が出てこなかったなと思って僕は携帯でマップを見たが、場所に観覧車があるとは表示されていなかった。
 もっと調べると、観光スポットの紹介記事の小さな二件のなかにはあった。

 二十時半が迫ってくる。基本的には、その時間で終了。
 でも二十一時までは、あと倒れて待たせた分が、ロスタイムがあるから、と僕は勝手に決めた。

 今日で最後だから、わがままも言っちゃおう。

「観覧車、乗りたい」
 と言うと、櫂人は振り向いたあと、僕が指さしたそれが夜景に佇んでいるのを見て
「わかった」
 と言った。
 その応えの言い方が、迷いなく、何の問題も無いことだ、さあはやく行こう、みたいな身軽なかんじだったので僕は奇妙なくらい嬉しくなった。