〈後編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

18000字ほど〈後編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 部屋に帰り着いたあと、僕はすぐに、櫂人からメッセージが来ているのを確認し、一日コースのお礼テンプレートの文面の一部のような返信を送った。その返信に既読の印がつくを待ってから、僕はサイトの自分のページを非公開にして、全て受け付けなくした。

 相手からすれば、なんて非常識で失礼な対応だろうと思ったが、僕はこれでおしまい、と携帯をローテーブルに投げた。
 ぐったりとして、手が勝手に携帯に伸びる。撮った画像を見かけ、やめる。
 携帯を遠ざけ、今日、櫂人に買ってもらったものを取り出して綺麗に並べた。「俺からのプレゼント」の包みは、繊細な模様の飾りと宝石のような石が付いた台座のスノードームだった。
 それらを眺め、二匹を腕に抱きしめていると、気持ちが落ち着いてきて、僕はシャワーを浴びた。

 風呂上がりの寝支度をよろよろと行い、何か確認しそうになってああもう確認しなくていいんだと携帯から手を離して、ベッドに横になる。
 歩き回った一日の疲れと今日一日だけで有ったさまざまな出来事と衝撃と感情の混乱で、かえって寝付けなかった。
 暗闇の底で、いつも枕のそばにいる柔らかく毛並みのあるような感触のくじらのぬいぐるみをきつく抱いた。
 丸みのある滑らかな毛並みを撫でて、僕は目を閉じて、もう今夜は何も考えないで寝ようと思った。

 浅く眠り、なんとも、ひどい気持ちで起き上がった。でも、平和な朝だった。
 朝食は何にしようかと僕は携帯の時刻を見て思った。
 キッチンで、携帯を操作して『彼氏』サービス業のサイトから完全に自分の登録情報を削除した。
 さあ、来たるべき初デートの緊張から自由だと、デートの日にちまでいろんなことを考えて過ごすのは終わったのだと、二度寝したっていい、と僕はベッドでだらだらと寝転がっていた。
 もぞもぞと手を伸ばして、携帯の画像のフォルダからも削除しようとした。簡単にできる、とフォルダを開いた。
 見て思い返したら悲しくなる。
 デート中に撮った何枚もの櫂人とのツーショット。この日だけの相手なのになぜこれほど撮ったんだろうと思う。

 昨日一日をみんな反芻すると、僕はどうしようもなく心乱されて、もう会うことない相手に、ふわふわとした気分になる。
 あんな、ぴったりと重ねて唇をくっつけたキスは人生で初めてだった。

 ベッドでもだもだとしかけて、ゴンドラ内で撮ってもらった、二匹といっしょの写真に顔がほころぶ。
 簡単に消せない、もう会わないのなら逆に、これだけでも、と僕は写真を残しておくことにした。
 引っ越してきてまだどこか雑然とした部屋には二匹を飾ることのできるようなスペースもなかった。部屋のなかを、この場所を片付けようと僕は起き上がった。

□□□

 数日経って、憧れの職場に応募する、夢に第一歩踏み出すために、久しぶりにスーツの類いを引っ張り出した。モップ人形のような過酷な労働の現場の惨状がよみがえるから、なかなかさわることができなかった。さわったら、やっぱりよみがえってきて僕は身震いして、これは捨てて、心機一転、新しいのを買おうと思った。
 貯えはまだあるから、スーツもカバンも新調して、家具も新たに、棚も購入して二匹を飾るコーナーを作る。
 櫂人を忘れることはできなかった。ときおりデート中の気持ちを思い出す。撮った写真を見返した。
 でも、「可も無く不可も無い」のではない、自分の人生の本当の憧れにようやっと目を向けて、そこに突っ走るということに僕は取り組んで、その夢を掴みたいと意気込んで日々を過ごした。
 良い印象を与えられるよう、鏡を見て、全身から襟元をきちっと、最終チェックをして、僕は部屋を出がけに二匹に「行ってきます」とつぶやいて、二匹を撫でて、笑った。
 目が焼けそうに眩しく晴れた、真夏日の道を歩いていく。
 ミュージアムショップで買った、好きな色、深い紺色の小物チャームをお守りに、小高い山ほどの倍率の面接に臨んだ。





next...?(後日談があります)