〈後編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

18000字ほど〈後編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 次に目が覚めると、僕は応接室のような内装の狭い室内の隅で簡易な救護ベッドのようなベンチに寝かされていた。
 誰もいない、と開いた目でゆっくりとまわりを見てすぐに起き上がらないでいた。
 何かかかっていると、胸から腹をさわると起毛の薄い上掛けと、もう一枚、シャツのような布がくしゃりと触れた。
 倒れて運ばれたのかと僕は不甲斐なくて申し訳なさでいっぱいになった。櫂人くんはどこだろうと思った。小声で呼んでみても、どこからもやって来る気配がない。
 僕はそろそろと起き上がった。
 よろよろとその応接室を出ると、事務室があって、そこのソファに櫂人は座っていた。膝上のタブレット端末で何か見ているようだった。手前のテーブル机に二人分の荷物とミュージアムショップの袋がまとめて置かれている。
 こちらに気づくと、すぐに立ち上がって、やって来た。
 僕は蛍光灯の明るさに手を額にやって櫂人にシャツを返して、倒れたことを謝った。櫂人はしかつめらしい顔で、そっと抱き寄せられ、ソファに座るよう、腕にうながされる。
 事務室にいた職員数人にも謝る。
 どうぞこちらとテーブルに出された催事館のロゴが印刷された湯呑みの温かいお茶を啜り、「もう大丈夫」と言っているのに、櫂人は心配そうに顔をのぞいてきて、そんなふうにぐいぐい真剣な表情で近づかれるほうが胸がドキドキしてしまうと僕はこんな状況で思った。
 本当に大丈夫だ、と笑うと、まだ心配しているように睨むような目で、唇を曲げた櫂人が、手が持ち上げた。
 額から頬に髪が張りついていたみたいで、そっと指が撫でるように触れる。
 真剣な空気で、そんなことされ、どきっとして、身体をちぢめ、なんだか、瞼を閉じそうになった。

 受付の脇に臨時の土産物売り場があり、僕に懐いてくれた月のような金色の小さい竜のような一体と、緑色で細長いヒレの付いた龍のような一体の手のひら大サイズの、肩に乗りそうな格好のぬいぐるみキーホルダーが売っていた。
 自費で、というかすぐさま自分で購入した。
 荷物が増える。
 来た道をまたさかのぼって歩く。

 自分ではわかっていなかったが、かなり時間が経っていた。すでに夕方の空のしたで、景色の端に赤い日がふわりと差しているのを見て僕は携帯の時刻を確認する。
 今日の最後の目的地での行動プランが全部、崩れたと理解した。
 どうしようもない気持ちになり、ため息がもれる。


 こんなの……プランが台無しだ。自分で計画立てておいて……はしゃいで倒れて、介抱してもらうなんて。
 起きるまで待たせた時間は返ってこない。
 もう、払ってもらった全額、返したい。今日はデート料金以外も全部、払わせている。
 俯いて、うずくまりたいような気持ちになって、道端で言った。
 また心配そうに、かがむ櫂人に、そうじゃないんですと首を横に振ってから、言った。

「お金、返します」
……は?」 
「だって、これ……デートっていえないから」 
 
 こんなこと言ったら困らせる、とわかっていても、僕は俯き、頑なな格好で、突っ立つ。訳が分からないというな顔で首をひねって、櫂人は見下ろした。
……出かけて、行った先で、そのときの体調でどこかで休むなんて、ふつうにあることだと思うが」
 いちど顔を伏せた櫂人は眼鏡にかかる前髪を払い、低い声で言った。
 言うことはもっとだ、でもそれは親しい関係でのデートだったらそうという話で、これは金銭の受け取りが生じている『デート』なのだ、それがこのざまなのは、としばらく路上で、僕は黙りこんでいた。
 そのあいだ、無言で、気難しい目を周囲に向けていた櫂人は顔を伏せるように短くため息をついて、歩み寄った。空いた手で、すごく優しく拾い上げるように、僕の手を掴む。
 ふん、と息を洩らして、眉をよせてこわばった表情で僕は睨んでしまっている。キッとした目つきが、かかみこんだ櫂人の眼鏡のレンズに反射している。
 それでも、櫂人は優しく手を掴んでいる。
 僕は……迷ったあと、ぎゅと握り返した。
 自分の荷物も持ち直した。

 プランが狂ってしまった。
 けど、まだ一日は終わっていない。