〈後編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

18000字ほど〈後編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 とうとう観覧車の天辺にゴンドラが来たのを、空にいちばん近くに来たのを窓からじっくりと眺める。夜空の色は
「紺色は……
 じつは、まだはっきりと言っていない、紺色が好きな理由。
「魔法使いのローブの色だなって思って」
 だから好きなのだ。
 これは今日まで誰にも言ったことがない。
 櫂人を見ると、「何を言っている?」と首をちょっと傾げるような表情だった。
「今日一日の、行き先」で、わかったと思うけど、僕はファンタジーが、おとぎ話が好きで、メルヘンチックなことに惹かれる。
 大の大人が、こういったことを好きというのも、言わないほうがいいのかなと周囲の人間には公言していない。この趣味に、あまり人を付き合わせるものではないと思っている。
 でも今日は
「僕が行きたいところって櫂人くんが繰り返し書くから」
 行きたいところに行って、はしゃいだ。
「この二匹に、あんなに夢中になったのも」
 包装に戻した二匹を膝に置いて、目を閉じて『幻影アクアリウム展』で見た光景を浮かべた。くるくると巻きついてくる月のような金色の小さい竜のような一体と、緑色で細長いヒレの付いた龍のような一体。
 僕は目を開く。

 十二歳か、そこらへんの歳の、ファンタジーの物語を観て読んで、僕は使い魔が欲しかった。
 あのころ、本気で欲しかった。
 それを、言ったら、空気が凍った。
 そして、しばらくいやな間があって、皆、戸惑ったように笑った。
 妙なことを言うなあ、と笑う周り。
 ジョークを、変なウケ狙いの冗談を言ったと思われた。
 それを、違うと言おうとした。けど今言った瞬間に凍った空気に、また凍るかもしれないと思って、言えなかった。
 嫌な記憶。
 それをずっと引きずっている。
 本心、思っていることを、人には言わないようになった。というか、そんなこと言わなくてもいい。自分が本当に欲しいものなんて。
 それに、思っていることを言わなくても、人を楽しませることはできる。意識して、(いいね)をもらうためのウケ狙いの投稿も考えられる。
 自分の想いなんて、考える事なんて、独りで想っていればいい。

 櫂人をじっと見つめた。
 きみが真面目な表情かおで、優しく、今日一日、付き合ってくれるから、つい甘えて、今も、語ってしまいそうだ。
 僕は笑って、今日着ているニットの萌え袖を引っ張って腕を伸ばして見せる。
「魔法使いのローブの色が、紺色だから好き。この色が」
 そう言って、手を下ろした。
 首を傾げる表情から、なんとなく理解した、と軽くうなずく動きで示し、櫂人は僕のニットをあらためて見るようにして「良い色」ひとこと言った。
 気遣いができる。優しいな、と僕は再度思った。
 ガタンという揺れ方でもうゴンドラが天辺から降りるのがわかる。
「ふつう、運命の赤い糸って言うけど」
 これも人に初めて口にする。
「僕は、紺色だと思っている」
 櫂人の、腿の上にのせられた右手を見る。
「最も藍が深い色……字も甘い糸と書くし……だから、僕の運命の糸は紺色」
 言っている途中からちょっと照れ、そこまで真剣な調子にならないよう笑って言いながら櫂人の右手の小指にひっかけるように僕は左手の小指を絡ませた。
 見ると櫂人は、なんだか、また呆気に取られたような、ともすれば唖然としていた。言葉を失ったように眼鏡の奥の瞳が、絡めた小指と僕の顔を交互に見ていた。
 ゴンドラがキシキシと鳴り、揺れ降りて、降下時は上昇時より音がギシギシと引き攣れるようなものになって僕はゴンドラの天井を見やった。 
 目が合った。
 絡ませた小指が解かれて、僕の顎をとる。

 何度かまばたいて、重なった唇の感触に答えるみたいにちょっとだけ顔を持ち上げて、より触れ合わせた。