〈後編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

18000字ほど〈後編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 せっかく、二人きりになったのに、ろくに話さないまま、地上に着いてしまった。
 ゴンドラからうまく出て、そろって歩き出すも、無言だった。
 
 観覧車の頂上で、僕はいきなり口づけられて、そのあと、黙りこんでしまった。何を言ったらいいかわからなくて、突然の出来事に混乱していた。そんな様子の僕に、櫂人も何かやらかしてしまったという気難しげで気まずい表情で、両膝に拳をおいて何を言うか迷っているようだった。

 本気で好きになりそうな相手にキスをされて口がきけなくなってしまうなんて、おとぎ話の人魚姫とは真逆みたいな反応だ。
 もうすぐ、お別れの時間だ。
 ここで終わる、というデート終了地点に到達する。
 つまり解散地点、駅前である。「しおり」にも書いてある。
 ぎゅと、荷物を胸に抱え持って、僕は帰り道、手をつなぐことも、しなかった。
 
 駅前の通りが見えてくる。雑踏の足音がすぐそこまで、というところでとなりに櫂人がいない。後ろで立ち止まっているのに気づいて僕は足を止めて振り返る。
 数歩戻ると、道端で向かい合う。夜の真ん中でやや沈んだ空気の櫂人が、意を決したように仁王立ちになった後、頭をがばっと下げた。
「急に迫って、すみませんでした」
……っ、え?」
 絶対に守らなくてはいけない重大な掟を破ったみたいに、全身で謝られて、僕は「ぇっと……」と続け、それからここで何と言ったらいいか考えた。
 路地はしぃんと静まりかえった。
「頭を上げてください」と僕はとりあえず言って、とりなすように「それは……」と言い、それは何なんだろうと考え、俯き、黙った。謝罪されたこと、また逆の意味でショックかもしれない、でもガイドラインを越えたのをこれだけ謝るのは誠実だ、なのにキスしたことを謝られて悲しい気持ちになっている、いや、謝られなくても何も言われないのも、何も無かったみたいに平気な顔されても悲しいか、と考えがまとまらなかった。
 大きく息をついてから、「はい、わかりました」と笑い顔を浮かべ、うながすみたいに僕から歩き出す。
 
 駅舎の明かりが人を集めるように、休日の締めくくりを惜しむ人々は疲れた空気で慌ただしく行き交っている。
 そろそろ二十二時を示す時計が見える。
 どちらともなく、並び立った。お別れだ。
 構内の蛍光灯に照らされて一人さっと改札口を通る自分の姿をイメージしながら、そっちをずっと見ていた僕は、あのキスをなんでもないことみたいに済まされなかったのは、よかった、と最後に思って、櫂人を見上げて言った。
 
「今日、すごく、楽しかった」 
……

 僕の言葉になぜか驚いたように櫂人は立ちつくし、また沈んだ空気で何事か言おうとした。
 その何事かを、僕は一瞬、顔をそむけて、押し留めさせて
「今日はありがとうございました」
 買って頂いたものを抱きしめる身振りには元気が無かったが、声だけは当初の予定の通りに可愛い子ぶって、僕は、『透萌歌』はデートの礼を、終了を告げた。
 顔をちらと見てから一礼して、そそくさと僕は構内へ駆けこみ、人の波にまぎれ、櫂人の声に振り返らなかった。使う番線の改札口に速い足どりで向かい、すっと改札を通った。