あらすじ
1885年、3月。諮問探偵シャーロック・ホームズと、その助手・医学博士ジョン・ワトソンの元にある依頼が届く。依頼の内容は『失踪した娘を探して欲しい』という極めてシンプルなものだった。しかしその依頼の二週間前に起きた、ある歌姫の死とその失踪が繋がっているようで……? 手掛かりは奇妙な手紙「R: WHO KILLED THE CANARY」、そして色濃く残る幻想の気配。その先にあるのは深い森と視界を奪う霧。鳥籠と信仰の密室__。誰が金糸雀を殺したのか? その命題に二人は挑む。
「マリアはレディ・ジゼットから受け取った警告を正しく認識していたんだ。それがこのストランド・マガジンと、この大英博物館のチラシ。重要なのはチラシでも雑誌でもなく、このチラシの裏面に書かれたメッセージ」ホームズはそう言って奇術師のように紙をひっくり返し私とメアリーにそれを見せた。
「『Ask nothing, come to there. M.A』、何も聞かずにここへきて。マリア・アーキテクト……」
「マリア嬢の居所について、その前に明らかにしておかなければならないことがあります。どうしても必要なので全員にお集りいただきました」
「ホームズさん、一体どういう事でしょう? マリアの居所の前に、というのは……」アーキテクト氏は眉を下げてそう言った。
「エミリア・ハーツクライという女性がシャンデリアの下敷きになって死亡したその事件について。マリア嬢の失踪と関係していると貴方は考えていらっしゃるのでしょうが、それは正しいです。全ての発端は二週間前に『R: WHO KILLED THE CANARY』という一文のみの奇妙な手紙が届いたことです。この手紙を見たマリア嬢はすぐさま行動を起こしました――エミリアの命を狙う者に見つからぬよう注意を払いながら彼女に接触を試みたのです。
しかし失敗に終わり、エミリアは新聞の記述の通り死亡しました。そもそも無理がある話だったのです。何故なら手紙が届いた時点でエミリアの死は確定していたからです。あれは警告ではなく『通告』だったのですよ」