イヌノカニ
2026-01-21 09:14:38
31075文字
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【創作BL・未完・更新中】ぬいぐるみが安心毛布の魔法使い・ファンタジー・総受け(固定)

ファンタジー設定はフワッと。
これは長期休みになったら一日かけて、一気にアイディアをまとめたいと思います。

メモ
26/02/03から記録

26/06/08:更新
26/02/23:更新、修正
26/02/22:更新
26/02/21:修正・更新、26/02/20:修正・加筆・更新、26/02/08:加筆・更新、26/02/07:修正・加筆・更新、26/02/03:修正



「お前、軽いな。ちゃんとメシは食っているのか」

五分もお前を支えなきゃいけないなんて嫌だ。と言われてしまったので、工房から居間にある大きなクマのソファへ移動してくれませんか?とお願いした。

今は、このソファに騎士様がドカっと足を広げて座っている上に、僕が体重を預けて座っている状態だった。

「メシ……、昨日は……、あっ、食べてないですね」
「はあ?」
「でも、先ほど取ってもらった薬があるので平気です。あれがあれば食事を取らなくても生きていけます」
「そんなわけないだろ!さっき倒れたんだぞ!?」

薬の効果が完全に出で回復したのを実感した僕は、立ち上がり一回転してみせた。

「ほら、もう元気でしょう?」
「この大馬鹿者!また倒れたらどうする」

軽く頭をゲンコツされ、怒鳴られる。

「ちょっと待ってろ」

そう言うと、彼は外へ出ていき、しばらくするとまた戻って来た。

「これは昨日狩った魔獣だ。お前の工房にあった薬草をいくつかもらうぞ」

魔獣を捌いている様子はあまりにもグロテスクで目を背けてしまったが、目を閉じている間に、あっという間にスープが出来上がった。

「この魔獣はあまり脂っこくないからな、薬草と一緒に煮れば体にも優しく栄養があるものが取れるだろう。さあ、食うぞ」

ほとんど使うことが無かったダイニングのテーブルに二人分のスープが置かれた。二人掛けのぬいぐるみのソファだが、いつも一人で座っていたから、こうやって誰かと並んで座ることに緊張しつつ、隣に腰を掛けて手を合わせる。

「いただきます」
「い、いただきます」

一口飲むと、優しい味がした。
「おいしい」
そう呟くと隣から「この俺が作ったんだから当然だ」と返ってきた。

初めてだった。こんな風に誰かと喋ったのは。
温かい誰かが作ったゴハンを口にすることも、嬉しく思わず笑顔がこぼれる。

「さすがです。騎士様」

当然だ。と言い、彼はその後、自分は第一騎士団の副団長にわずか三年という歳月で就任したこと。それは一重に並ならぬ努力をしてきたからで、自分は第一騎士団でありながら、第八騎士団の魔獣退治にも参加して功績を収めたことがあること。それは王家に対する忠誠心からだということを教えてくれた。

「すごい、すごいです。こんなにすごい騎士様が作ってくれたスープが飲めるなんて僕はラッキーです!」
「あぁ、そうだ。俺はすごいんだ。ゆっくり味わって食えよ」

そのとき、ボーン、ボーン、ボーンと時計の鐘が鳴った。

「六時だと!?あと一時間で、朝礼の時間ではないかっ!しまった、お前を追うことに夢中になりすぎてて忘れていた。あの魔獣の森をあと一時間で抜けろというのか、無理だ!副団長の俺が無断欠勤など……!あぁ!最悪だ」

頭を抱えながら叫ぶ騎士様に提案をしてみる。

「あ、あの。僕は見たことがある場所までなら転移魔法が使えます。朝礼は王宮内で行われるのでしょうか?王宮内の……昔、王子と一緒に行った池の辺りでしたら、人もいないだろうですし、そこでよければ転移魔法でお送りしますよ」

「いいのか!?頼んだ!」

コクリと頷くと僕は棚の方へ行き、今日はライオンのぬいぐるみを選んだ。あの場所へ踏み入るには勇気が必要だった。あの池は整備に来る庭師しか来ないと、昔王子が言っていた記憶がある。彼を送り届けて、すぐまた転移魔法を使えば誰にも会わずに帰れるだろうと思うが、それでも不安だった。

「それでは騎士様、僕の手を握ってください」
「あぁ」

騎士様は僕の手とライオンの手まで握った。ライオンの方は握らなくても良いんだけれど、わざわざ指摘することではないので、そのまま魔法を使う。緑色の光に包まれた。



「騎士様。着きました。」

久々に見た光景。
手入れがしっかりとされているらしく、昔見た景色と同じだった。

「ここは、あぁ分かった。あの辺りだな。助かった!では俺は急いで宿舎へ帰る」
「はい。お気をつけて」

そう走って行く騎士様に声をかけるが、さすが副団長というだけあって、もうあっという間に姿が見えなくなっていた。

優しい風が吹く。
花々に囲まれるように池の水面が揺れる。
きっともう少し経てば、睡蓮が花を咲かせるだろう。

ふとそばにあった木の近くに、懐かしい花が咲いているのが見えた。
「この花はお母様のお気に入りで、最も美しく咲く時期で時間を止めた花なんだ」と王子が話していたのを思い出す。昔はもっと咲いていた気がしたのだが、近寄ってみると原因が分かった。魔法が解けかけている。

さすがに庭師も、この魔法の綻びは直せないのだろう。他の花はきっと魔法が解けて枯れていってしまったのだ。

コッソリと魔法をかけ直す。
小さな魔法の光が花を包み込み、また強く風が吹いた。
顔を隠していた前髪が風で乱れてしまった。直そうと手を伸ばしたそのとき「(弟の名前)か?こんなところで何をしている」と後ろから声を掛けられた。

冷や汗が流れる。なかなか振り向く事ができなかった。
だってこの声は、王子の声だ。
僕だってバレるわけにはいかない。僕がしないといけないことは、一つ。

「殿下、おはようございます。花を眺めていたのですよ」

弟になりきること。
人当たりの良い笑顔を浮かべて、なるべくハッキリと丁寧な言葉遣いで言う。

「いやだから、どうして、こんなところに……

なにやら王子は戸惑った様子だった。双子の弟と仲が良い王子と弟の間には僕の知り得ない、何か分かり合うものがあるのかも知れない。

王子はハッとした様子で僕の手元にあった、ライオンのぬいぐるみを見た。

「おい、それは……

王子はそう言いかけて、ぬいぐるみに手を伸ばしてくるから僕は昔のあの記憶がフラッシュバックして、咄嗟にぬいぐるみを庇う。

「もしかして、お前は、」

その言葉に動揺し即座に転移魔法を使い、緑色の光に包まれていく。

「待って!待ってくれ!違うんだ、」

王子が叫んでいるが僕は聞かずに、慌てて自分の部屋まで戻った。

家に着き、なだれこむように大きなぬいぐるみへ抱きつく。「もう、しばらくは家から一歩出ないでおこう……」そうぼやいた。