riririnf
2025-07-05 10:01:12
52804文字
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恋、薔薇薔薇

ヌヴィフリ花吐き病書いてみた・前編
【一章】花吐き人はかく語りき P1~【二章】罪人は睡蓮の夢を見るか? P4~【三章】恋、薔薇薔薇 P10~
※モブが結構喋ります。捏造・ネタバレ過多。



「ヌヴィレット様、先日のレインボーローズですが、何も検出されませんでした。時間をかけて多方面から調査したんですが……
「承知した。報告感謝する。骨を折らせてしまい、すまなかった」
「とんでもありません。では、失礼いたします」
 ぺこりとお辞儀をして執務室からセドナが立ち去った後、ヌヴィレットは重い溜息をついた。
 全ては杞憂だった。結局レインボーローズは安全そのもので、ただ真摯に想いを伝える為の補助具に過ぎなかった。
 これにより明らかになったのは、あの青年はヌヴィレットが思うよりはずっと善良で、ヌヴィレットは自分で思うよりずっと疑り深かったということ。気が重くもなろうというものだ。
 ……何故フリーナは恋人であることを隠したがる?
 青年について考えると、自然と巡水船でのやり取りが思い出される。
 好いている者と恋人になれたなら、一般には誇らしげに語るものではないのだろうか。パレ・メルモニアの職員が恋人が出来たと喜ぶ姿を見たこともある。これは男女共通の価値観だと思っていたのだが。
 恋愛というものが、どんどん分からなくなる。頼みの綱だったデートすら、疑問を増やしただけだった。
 フリーナにも申し訳ないことをした。時間を取らせて病身を連れ回して。
 ……口づけをするべきだったのだろうか。
 あの時、頬ではなく唇にしていたら、何かが変わっていたのだろうか。フリーナもそういう意図で提案した筈だ。
 ──けれどもし、何も変わらなかったら?
 そこまで身を切ってもらっても、なんの成果もなかったなど、どの口が言えようか。
 その罪を背負う覚悟が、ヌヴィレットには足りなかった。あの瞬間、それをまざまざと突きつけられて、フリーナの顔も見られず立ち去った。逃げたのだ。
 あまりに情けなく、最低な行いだった。
……時間がない……
 あれから一週間、フリーナの病状はじわじわと悪化している。仕事のない日は家に閉じ篭りになり、吐く花の量も日に日に増えている。シグウィンの経過報告書の内容も芳しくない。
 ヌヴィレットはきつく目を閉じた。
 恋情とは何だ。恋人とは何だ。どうすれば理解できる。──もう、何も分からない。
「ヌヴィレット様、よろしいでしょうか。お客様がお見えです」
 ぽふぽふと鳴るメリュジーヌ独特のノック音に、ヌヴィレットは目を開けた。
「ああ、構わない。入ってもらってくれ」
 来客が誰かは分かっている。迷わず入室の許可を出すと、間を開けずに扉が開いた。
「よう、ヌヴィレット! 久し振りだな!」
 陰鬱な空気を吹き飛ばさんばかりの明るさで、パイモンが飛び込んできた。
 隣で旅人もひらりと手を振っている。
「ああ、久し振りだな。二人ともよく来てくれた」
 負い目を感じるだろうとフリーナには知らせていないが、ヌヴィレットは冒険者協会を通じて旅人とパイモンに事情を説明し、花吐き病の調査を依頼していた。二人は他国の重鎮ともパイプがあり、情報収集は得意分野だ。 
 恋の成就以外に完治方法はないとされているが、フリーナの情報は百年前に調べたものだ。医学の進化は日進月歩。今はまた別の治療法もあるかもしれないと考えてのことだった。
「フリーナの調子はどうだ?」
……あまり思わしくはない」
 心配そうに訊ねてくるパイモンに対して、正直に答える。パイモンは、そうか……と表情を暗くした。
 旅人もまた、先のパイモンと同じ表情で口を開いた。
……大丈夫? なんだか疲れてるみたい」
 その言葉はヌヴィレットに向けられていた。
 まさか自分が気遣われるとは。驚きつつも首を横に振る。
「気遣い感謝する。難問に悩まされていることは事実だが、差し支えない。私などよりも、フリーナの方が余程疲弊している」
 こうしている間にも、フリーナは花を吐き続けているのだ。それを思えば疲れたなどと。
……そっか。でもヌヴィレットも無理しないでね」
 旅人は困ったような笑みを浮かべたが、引き下がってはこなかった。
 ヌヴィレットは目礼だけを返し、今日の本題を切り出す。
「ところで、首尾はどうだろうか」
「おう、バッチリだ! いつでも話せるぞ!」
 パイモンは胸を張り、旅人も力強く頷く。
 彼らが運んできたのは果たして希望だろうか。それとも。
「──ああ、頼む」
 ヌヴィレットは覚悟をもって応じた。
 どんな道であれ、進むだけだ。今度こそ、迷わずに。