riririnf
2025-07-05 10:01:12
52804文字
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恋、薔薇薔薇

ヌヴィフリ花吐き病書いてみた・前編
【一章】花吐き人はかく語りき P1~【二章】罪人は睡蓮の夢を見るか? P4~【三章】恋、薔薇薔薇 P10~
※モブが結構喋ります。捏造・ネタバレ過多。



 フリーナと恋人になり、一週間が経った。ヌヴィレットは執務室にシグウィンを招き、経過報告を聞いていた。
「フリーナの容態はどうだろうか」
「正直なところ、あんまりいい状態とは言えないのよ」
 シグウィンは悲しげに目を伏せる。
「度重なる嘔吐による食欲不振や脱水症状、身体に力が入るから、過緊張による頭痛や肩凝りなんかもあるみたい。これから定期的に記録していく予定だけど、おそらく体重も減少し続けていると思うのよ」
 フリーナの細すぎる腕を思い出す。あれが今後、更に痩せ衰えていくというのか。ぞくりとヌヴィレットの背筋が冷えた。
「でも一番の問題は、フリーナさんの受け止め方ね。これはどんな病気や怪我にも言えることだけど、本人に治そうとする気持ちがないと、不思議と悪化しやすいの」
「フリーナが治療を諦めていると言うことか」
 シグウィンがこくんと頷く。ヌヴィレットもフリーナの諦念を味わったばかりだ。胸に苦いものが満ちる。
「百年も患ってきたから、慣れが生じているのかも……ううん、この場合、麻痺している、と言った方が正確かもしれない」
「麻痺?」
「人間はつらい状況下において、わざと自分を鈍感にすることがあるの。それは一種の防衛本能で、生きるための知恵なのよ」
 麻痺がフリーナの闘病生活を支えたというのなら、今更危機感を抱けというのも酷な話か。
……やはり、私が早急に恋情を理解することが最善か」
 分かりきった結論に息を吐く。
 早くフリーナに恋をしなければならない。だが、考えるほどに分からなくなる。霧のように掴みどころのないものとなるのだ。
 フリーナのことは大切だ。
 情もある。親愛や敬愛や、そこに愛と呼べるものもあると思う。
 愛は分かるのだ。例えば目の前のシグウィンに向ける情とて愛だ。メリュジーヌは家族。シグウィンはヌヴィレットの愛しい娘の一人だ。
 だが恋情となると、途端に分からなくなる。
 一般に恋情は特定の一人にしか抱かないものだ。書物で調べたところ、毎日会いたくて堪らなくなったり、該当の相手を想うと動悸がしたりもするらしい。
 けれどヌヴィレットは誰にもそのような衝動を抱いたことはない。むしろ、フリーナにはその症状が出ているということだろうか。だとすると申し訳なくさえ思う。彼女に苦しみを与えてしまっている。
 ずきりと胸が傷む。フリーナには幸せだけを甘受してほしいのに。
 それが五百年に渡る務めを果たした彼女の正当な権利で、ヌヴィレットはその助けとなれればと思っていた。
 けれど、実際にヌヴィレットが彼女に与えているのは不幸せで、生命の危機であるのだ。
……恋情とは度し難いものだな」
「ヌヴィレットさん……
 思わず漏れた苦言には、恋情そのものへの否定の響きが色濃く出ていて、もしフリーナに聞かれれば傷つけてしまうだろうとも想像がついた。 
 どうしてフリーナはこんな不甲斐ない男を好むのだろう。失礼ながら趣味が悪いとすら思ってしまう。
 いっそ、フリーナの想い人が別の誰かであったなら……
 咄嗟に浮かんだ発想があまりにインモラルで、目眩がした。頭痛すら催す。
 一体誰ならよいというのか。元水神、現フォンテーヌの大スターに見合う相手など、そうはいない。そもそも想いを寄せてくれている彼女にも失礼だ。きちんと応えたい。それが誠意だろう。
 顔を顰めるヌヴィレットを心配そうに見つめていたシグウィンが、不意にぽんと両手を打ち、表情を明るくした。
「──ねえ、デートをしてみたらどうかしら。人はデートを重ねて絆を深めていくと聞くわ。ヌヴィレットさんとフリーナさんは恋人同士なんだから!」
……成程、悪くないかもしれないな」
 既に数百年の付き合いがある為に浮かびもしない発想だったが、形に当て嵌めることを提案したのはヌヴィレット自身だ。試す価値はあるかもしれない。
「そうと決まれば、早速デートプランを練りましょう。ウチも協力するのよ」
 有難い提案だった。デートなど経験がなく、手順や作法も未知数だ。
「ありがとう。君には世話になり通しだな」
「ふふっ、ヌヴィレットさんの役に立てて嬉しいわ!」
 輝くばかりの笑顔を見せる愛娘に、一縷の望みが見えた気がした。