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由崎
2025-05-12 00:38:56
21437文字
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永遠よりも長く、君を待つ
英ベスツリーを大幅に加筆・改稿しています
仏ジャン匂わせ有
※5/19完成しました
誤字脱字あるかも
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「白き夢の間にて」
……
誰かが、呼んでいる気がした。
やわらかな闇の奥から、ぼんやりと光が差し込む。
それは水面の揺れのように静かに波紋を描き、ベスの意識をゆっくりと浮かび上がらせていく。
まぶたの裏が明るさを取り戻し、目を開けたその先に広がっていたのは、見知らぬ、でもどこか懐かしい静かな庭園だった。
澄んだ空。静かに流れる噴水。
そして、咲き誇る白と赤の薔薇。テューダー・ローズ。
まさしくイングランドの象徴であり、歴史の本で何度も見た、王家の紋章。
その花々のなかに、一人の女性が立っていた。
「やっぱり気の抜けない男ね。さすが、我が夫の兄君だわ」
その声は冗談のように軽やかで、けれど凛としていた。
ベスが瞬きをする間に、その女性はゆっくりと近づいてくる。
深紅のドレス。繊細な金の刺繍。金の髪を編み上げ、肩にかけたレースのマント。
古い絵画の中から抜け出したような気品と威厳。
そこにある微笑みは不思議なほどにあたたかい。
「目覚めたのね」
そう言って、彼女はまっすぐにベスを見つめる。
「
……
あなたは、誰?」
ベスの声はかすかに震えていた。
でも、もう心のどこかでは分かっていた。
この人が誰なのか。自分の中の何かが、その姿を懐かしんでいる。
女性は静かに笑った。
「うふふっ、どうかしら? 使命も、王家の義務も、何もかも忘れて“ただの女の子”になった気持ちって」
「
……
なにもかも、忘れる
……
?」
「ええ。わたくしは“あなた”。あなたは“わたくし”。
けれど同時に、私たちは別の人生を歩む者よ」
その言葉は、まるで霧の中に差し込んだ月明かりのようにはっきりとした輪郭を持って心に届いた。
(わたしが
……
この人の、?)
昔から言われてきた。
「あの肖像画に似てるね」
軽口や冷やかしのような言葉。
でもそれが、こんな形で繋がるなんて、夢にも思わなかった。
「わたくしは、この国の女王として君臨していたの。四十四年。誇りと孤独とともに生きた時代だったわ」
それは歴史の授業で学んだ“偉人”の語りではなかった。
ひとりの“女”として自分の人生を語る声だった。
ベスは震える唇でその名を呼んだ。
「
……
エリザベス一世」
女性は目を細めて、少しだけ照れたように笑った。
「今でも、彼は私のことをそう呼ぶのかしら」
――
グロリアーナ。
風が庭を通り抜ける。
テューダー・ローズがさざ波のように揺れた。
「あなたは、本当に女王なの?彼と生きた日々は
……
どんなものだったの?」
ベスが問うと、彼女は目を閉じ、静かに口を開いた。
「I have already joined myself in marriage to a husband, namely the kingdom of England.」
(私は国家と結婚しています)
それはこの国の人間なら誰もが一度は耳にする言葉。
でも今、彼女の口から語られたその言葉はまるで祈りのように温かかった。
そして女王は、不敵に笑った。
「あの人と過ごした日々はわたしのものよ。
遠い未来の“わたし”であっても、それだけは譲らないわ」
その言葉には、誇りと執着と、確かな愛が込められていた。
「でもね、あなたは、あの人と再会してからの時間が、どうしようもなく気になっているのね」
彼女の声が、ふと優しくなる。
「だって
――
魂は同じだから」
その言葉にベスの胸が強く脈打った。
「あなたは“わたし”。彼に惹かれるのも、あの声に心を揺らすのも、何も間違っていない。記憶がなくても、名前を知らなくても魂は覚えているのよ」
ベスは気づいてしまった。
目をそらせなくなっていた。
彼の声に、彼の瞳に、彼の孤独に、触れるたびに、自分の心が揺れていた理由。
(私は、あの人が好き)
記憶じゃない。理屈でもない。
今の“わたし”が彼を好きになった。
女王は満足そうにうなずき、花の揺れる庭を見渡した。
「行きなさい、“わたし”。あなたの時間であなたの声で、もう一度、彼に伝えてあげて」
風が吹いた。
花びらが宙を舞い、ベスの視界が白い光で包まれていく。
夢の終わりがやさしく静かに訪れようとしていた。
(今度はちゃんと伝えたい)
「
……
さようなら、遠い未来のわたし」
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