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由崎
2025-05-12 00:38:56
21437文字
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永遠よりも長く、君を待つ
英ベスツリーを大幅に加筆・改稿しています
仏ジャン匂わせ有
※5/19完成しました
誤字脱字あるかも
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「静かな別れ」
イングランドがベスと弟を門の外まで見送ったあと、
ふたりの姿が角の向こうに完全に消えた。
しかし彼はその場を離れなかった。
振り返ることもなく、まるでそこにまだ何かが残っているかのように、
黙って同じ場所に立ち尽くしていた。
屋敷の二階。窓辺からその様子を見つめる三つの影があった。
スコットランド。
北アイルランド。
ウェールズ。
三人の兄たちは言葉を交わすことなく、ただ弟の背中を見つめていた。
だがその沈黙の意味は、それぞれ違っていた。
スコットランドは腕を組み、じっと視線を下に落としていた。
その目には冷たい光が宿っていたが、それは怒りではなかった。
イングランドの向ける眼差しの先。
記憶を持たぬただの少女に彼が心を傾けている姿が、どうしても納得できなかった。
(
……
肩入れしすぎだ。あれは、もうお前の知ってるエリザベスじゃない)
スコットランドの胸には、忘れようのない記憶があった。
自らの王、メアリー・スチュアート。
誇り高く、気高く、そしてイングランドによって死に追いやられた女王。
その死の陰には
――
他でもない、あのエリザベスの名があった。
スコットランドは、彼女を許していなかった。
けれど、今隣にいる少女は、そのエリザベスではない。
それが分かっていても、胸の奥底に眠る刺のような感情は消えてはくれなかった。
(何も知らず、ただ生きてるだけの娘に、俺の憎しみを向けるつもりはない)
だが、だからといって、イングランドが彼女に向ける眼差しを、肯定できるわけでもなかった。
それでも彼は何も言わなかった。
それを口にした瞬間、弟が立ち直れなくなる気がした。
だからスコットランドは、剣のような沈黙の中で、ただじっと見守っていた。
窓の隣で、北アイルランドはそっと頬杖をついていた。
表情は静かだが、その瞳の奥には沈みきれない影があった。
(
……
俺の土地は、あの女王に踏みつけられた)
北アイルランドは忘れていなかった。
アルスター・プランテーション。
植民地化の始まり。
信仰も土地も名前も塗り潰された、あの時代の始まりを。
それでも、あの少女は記憶を持たない。
罪も知らず、傷も背負っていない。
そして、何よりも。
彼女はイングランドが心の底から愛した人だった。
(
……
弟にとっては失っていた光だ)
どれほど孤独だったか、どれほど長く、誰にも気づかれずに痛みを抱えてきたか。
(それでも
――
俺には赦せない部分がある)
その矛盾を、彼は誰にも言わなかった。
兄として、国として、彼の立場は複雑で、どこにも居場所がなかった。
(感情に引きずられて、イングランドを否定するようなことはしたくないなぁ)
沈黙のなかにあるその決意は、痛みとよく似た形をしていた。
「
……
いーくんのこと、俺はずっと見てきたんだよ」
ふいに、静かな声が部屋を満たした。
ウェールズだった。
三人の中で、唯一目元に優しさを宿したまま、弟の背を見ていた。
「スコくんは敵だったし、のんくんはこの島にすら来なかった。だから、あの頃のいーくんのこと、いちばん分かるのは俺だけなんだよ」
どこか切ない口調だった。
ウェールズは八百年近くもイングランドのそばにいた。兄弟が離れていたあの時代、唯一、近くにいた存在だった。
「
……
だから、分かってしまうんだ。あの子がいーくんにとって、どれだけ大きな存在だったかを」
傷だらけだった弟がやっとまた前を見ようとしている。
その相手が記憶を持っていないだとしても、それでもなお、もう一度愛を抱けるのなら
「俺は、止めないよ」
「どれほど傷ついても、それでもいい。
俺は、寄り添ってやりたいと思ってるんだ」
その言葉に、スコットランドが睨む。
北アイルランドは沈黙を守ったまま、ゆっくりと目を閉じる。
ウェールズはその視線から目を逸らさなかった。
誰よりも弟を誰よりもよく知っていたから。
そのころ、玄関先のイングランドはまだ動かずにいた。
夕暮れの光が彼の背を染め、風がコートの裾を揺らしていた。
その背中はまるでずっと昔からここにいたように、孤独だった。
過去と未来の狭間で、
彼はただ静かに立ち尽くしていた。
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