3話✧燼械

✧執筆協力
ふかひれ。様

✧スチル協力
米2ろう様ふかひれ。様NoE様



前回のようにコンクリートの部屋の前に集まる械達。しかしその表情は以前よりも緊張に満ちていた。

「カラベラフィルム、今から行く時代についてなにか知っていることはあるか?」

ラートがカラベラフィルムに問いかける。

「そうだな私の記憶がハッキリしないということは水責めはあまり行われていなかったということになるだろう。私が言うのも何だが、水責めは実に単純な責め苦だ。特別な器具も手間も必要とせず、思い立った瞬間に行うことすらできる。そんな私が使われていなかったとなるとそもそも拷問自体がされていなかったと推測できる。」

「となると、情報を聞き出す必要がなかった人から聞き出す以上に効率的に情報を集める方法が見つかっていたか

「もしくは情報など全て無視して力だけで強行突破していたか、だろうか。」

カラベラフィルムの回答に各々が頭をひねらせる。とはいえ未知の世界の争いにどれだけ思考を巡らせたところでパッとする意見は出ない。

「ひとまず細心の注意を払うこと、それしか今は分かりませんね」

ルフレの言葉に一同は頷く。カラベラフィルムはナーデルから時辰儀を受け取り、扉が開かれた暗闇へと足を踏み込んだ。

全員が部屋へと入ると扉が締められる。

「うむ、それでは始めていいだろうか。」
「あぁ!よろしく頼む!」

カラベラフィルムが念じ始めるとまた体が軽くなるような感覚になる。そして自重が全て感じられなくなった。

数秒後、一気に体が重くなりその場に械達は座り込む。

すぐに周りの確認をしなくては、そう思い目を開いて立ち上がろうとするが何故か体が言うことを聞かない。

(前回より、反動の負荷が大きくなっている?)

彼らがその違和感に気付いた時、誰かの声が聞こえた。

「お前達!早く立ち上がれ!ここは危険だ!」

それは他の械より一足先に根気で立ち上がったグラディエーターの声だった。本能的にか、それとも鍛え抜かれた感覚からか、咄嗟に危険を察知していた。

彼の言葉に他の械達も急いで立ち上がる。

周囲を確認すると自分たちが今、廃墟だらけの街にいることがわかった。人の気配どころか生き物の気配も何も無い。また、気温はかなり低い。おそらく冬なのだろう。殺風景な景色も相まって尚更この場所が寒く感じた。

「あれは飛行機、か?」

空を見上げていたラートが呟く。夜の闇に包まれた空では、ほとんど何も見えない。しかし、目を凝らせば月明かりでほんのわずかに空を飛ぶ何かの輪郭が見えた。

「飛行機のシルエットには見えませんけど

皆の視線がその飛行物体に向けられた時、数発の破裂音と共に上空でなにかが光る。

「っ!伏せろ!敵襲だ!」

グラディエーターが警告の叫びをあげるよりも早く、空から数発の銃弾が撃ち込まれた。

「っ!」

その銃弾はフィリップの胸部を貫き、グラディエーターの耳、ラートの脇腹を掠った。

ラートは銃の軌道から自分達から見えていない飛行物体が複数存在していることに気が付く。次の攻撃が始まる前に、未だ見えぬ敵に対して能力を使い地面に叩きつけた。ガシャンッ!という金属の破壊音が響く。

「これで飛行機は全て落としたはずだ。」
「よくやったラート!!ならば、この隙に逃げ込もう!」

グラディエーターは近くの建物の扉を開きほかの械達に手招きをする。負傷した械を気遣いながら一同はその建物に避難した。

「っはぁいきなり撃たれるなんてびっくりしましたよ」

ルフレはほっと胸を撫で下ろしながら、肩を貸していたフィリップを地面に座らせる。出血は激しいが彼の様子を見たところ命に別状は無いようだ。

「フィリップ、撃たれたところは大丈夫か?」
「っ、はいまぁ、痛いのは痛いんですけど
「ラートとグラも撃たれたみたいですしなにか包帯代わりになるものでも探してきます。ある程度大きな建物ですから、何かしらあるでしょう

シアノは辺りを見渡し、他に一緒に探しに行ける械がいないか探す。その時心ここに在らずの樊凌が目に止まった。

白浪が帰ってくることは無い、と言われてから黙ったきりで何もリアクションがない。

シアノが声をかけてみるかどうか悩んでいるとグラディエーターが彼の肩を叩いた。

「俺も探しに行こう!ただのかすり傷だしな。リンリン!お前も探すのを手伝ってくれ!」
?ボク?まぁええけど
「よし!ならば3人で行こう!ひとまずこの階から探しに行こうか!」

意気込んだグラは樊凌の背中を強引に押しながら建物の奥へと向かう。シアノは不思議そうに首を傾げながらそのあとをついて行った。

建物の奥に進むと正面に階段がある。

「なるほどシアノはこの階を頼む。俺とリンリンは2階を探そう。」
?分かりました

そうしてグラディエーターは樊凌と共に階段を昇っていった。2階に上がって左側の部屋。その部屋の扉は開いており、奥に机を挟んで向かい合わせにソファが置かれていることに気付く。グラディエーターはその部屋へ足を踏み込み、樊凌を片方のソファーに座らせる。そして向かい側のソファーに深く腰掛けた。

「なぁリンリン、少し話をしようか。」
話って? ボクに話すことなんかないで

そう吐き捨て、うつむく樊凌にグラディエーターは静かにため息をついた。もし話したいことがあれば、自ら口を開くだろうと、しばらくの間黙って待つ。しかし、彼が何かを話し出す気配は一向に感じられない。

痺れを切らしたグラディエーターは、意を決して口を開いた。

「どうしてそこまで塞ぎ込んでいるんだ。白浪が消えたのは確かに悲しいし、寂しい。だが、一人欠けた今だからこそ、俺たちは」
ちゃう!!」

グラディエーターの言葉を遮るように、樊凌が声を荒げる。

「小白が消えたのはボクのせいでボクが手を離してしまったからや。ボクなんか、恨まれて

絞り出すような声に、グラディエーターはじっと彼を見つめる。震える肩、握りしめた拳。自責の念が彼を押し潰そうとしているのが伝わってきた。
しばらくの沈黙の後、グラディエーターは低く静かな声で問いかける。

「お前は、白浪のことをそんなふうに思っていたのか?」
「えっ?」

意外な言葉に、樊凌は顔を上げる。その瞳には、驚きと困惑が浮かんでいた。
その時閉めたはずの扉が開き、シアノが顔を覗かせた。

自分も、しらは樊凌のことを恨んでなんかないと思いますよ。」
「あぁ。白浪は俺程では無いとはいえ強い男だ。たとえ本当にお前が手を離してしまったのが原因だとしても他人のせいするようなやつじゃない。」
「樊凌が悪いとなれば自分も同罪ですしそれに、しらが消えたのは自分達が知らない別の理由かもしれません。」
「別の理由って?」
人間と何らかの干渉。それが自分らの知らない弱点かもしれません。」
なら、小白が消えたのは

自分が手を離した以外の──未だ正体不明の原因があるのかもしれない。それは自分達にとって見えざる弱点であるが何も分からない以上、取り戻す方法が皆無であると言い切ることもできない。
それが、妄言にも似た希望的観測であろうとも
樊凌は黙り込み、やがて両頬を叩いて顔を上げた。

「無問題! 小白なら前向きやもんな!」

いつもの笑みが戻った樊凌に、グラディエーターは豪快に笑った。

「あぁ、それでこそ兄というものだ!」

その場の空気が和らぎ、緊張が少しだけ解けた瞬間だった。
グラディエーターは駆け足で彼の隣に座り肩に手を回す。そしてバンバンッと樊凌の肩を叩いた。

「ちょっ!グラちゃん強すぎん〜!?」
「んなら自分も

ポツリと呟いたシアノはしれっと彼らの後ろに行き、樊凌の背中を思いっきり叩いた。

「いった〜!!??ちょ、シノちゃん何するん!?」
しらの代わりに喝を入れてあげようかと思って。それに、自分よりもジメジメされたらキャラ被りで困るんですよ。」
「キャラ被りってなんなん!?理不尽すぎん!?」
「ははっ!!フィリップの魔女判決よりかはマシだろう!あぁ、そうだ!フィリップといえば俺達は包帯を探しに来たんだったな!」
「それならさっき見つけましたよ。初めに入った部屋がバスルームで救急セットが置いてありました。」

シアノは後ろ手から救急セットを取り出し2人に見せる。

「おぉ!なら早速1階に戻ろうか!」

勢いよく立ち上がり部屋から出ていくグラディエーターに続く樊凌とシアノ。先に行ってしまったグラディエーターにため息をつきながら残された2人はゆっくりと階段を下っていく。

先程の部屋に戻ると、械たちの間に何かが置かれていることに気づいた。シアノはそれをちらりと見やりつつ、彼らに声をかける。

「救急セット見つけましたよ。多分これに包帯も入っています。」
「おっ!良いタイミング〜」
「シアノ、樊凌、これが何かわかるか?」

2人はルフレとラートが指さす地面に置かれた"それ"を覗き込む。"それ"は先程撃ち落とされた飛行物体だった。

「遠近法で小さく見えているだけだと思ったが、本当にただ小さい飛行機だったとはな。」
「飛行機ってこれどこに人が乗るん?」
「これはドローン、ですね。」



シアノは救急セットをルフレに渡しドローンの残骸を持ち上げる。地面に叩きつけられた衝撃でかなり損傷が激しいが特徴的な4つのプロペラは残っていた。

「どろーん?なんだそれは。飛行機とはまた別のものなのか?」

興味深そうに問いかけるラート。シアノの記憶の中でのドローンは軍事利用で開発されたものの射撃訓練の的になったり、空からの情報収集に使用されるだけでドローンそのものが射撃をするような力はなかった。しかし今の時代を鑑みれば、それほどの進化を遂げていてもおかしくは無い。

「そういえばここって西暦何年のどこなんですか?2000年より後という言葉分かりますけど
「この街の様子を見るに2100年以降だろう。場所は荒れ果て過ぎているせいで特徴が分からない。不甲斐ないが、私の記憶も曖昧な故

申し訳なさそうに答えるカラベラフィルムにフィリップが白い目を向ける。

「自分で戻る場所を決めるのに、ここがどこか、いつなのかも分からないなんて怪しいですねもしかして魔女じゃって、いっ!!!!????」
「あっ、あはは、ごめんなさい。ついつい強く巻きすぎちゃいました。」

フィリップの体に包帯を巻きながらルフレは眉を八の字にして笑う。フィリップは手当をしてもらっている以上堂々と文句を言えないのか、ブツブツと悪態をついていた。

そもそも、行きたい場所が明確でも潜在的な思いで場所が変わってしまう上に記憶が曖昧なら、ワープ先が分からなくても仕方はありませんよ。実際に自分もそうですしとはいえ自分が知っている時代から100年も経っているなら、ドローンが想像以上に有能になっていてもおかしくないですね。」
「100年もって、たった100年だろう?予想もつかないほど発展するものなのか?」
「グラのいる時代に比べたら、20世紀以降は色々と技術の発展が早くなりましたからね

グラディエーターとシアノには2000年弱のジェネレーションギャップが存在する。お互いに不思議な時間感覚だな、と感じることも多々あった。

「予想もつかない時代で戦うなんてそれこそ無茶じゃないですか?今回は運良く核心は避けてますけど、さっきみたいに暗闇から狙撃されたら次こそ核心を破壊されかねませんよ
はーい、フィリップさんの治療おーわり。次ラートさん〜」

彼は冷静に現状をまとめそれを踏まえた意見を述べる。それと同時に手際よくフィリップの手当を終えていた。

どーも

フィリップは少し不満そうにしながらも服を着直す。

「とはいえ来てしまった以上はどうしようもないからな。何かドローン、を止める方法は無いのか?」
「そうですねドローンとなれば遠隔操作をしてる人がいるのでその人間をいや、そう近くにいるとは限らないしそれなら電波を断ち切ればけれどそんな方法

悶々と思考を巡らせるシアノ。ほかの械は彼の独り言についていけてないようで首を傾げていた。
またやってると呆れたような顔をしていたルフレは、ラートの腹に包帯を巻きながらとあることに気付いた。

「ん?ちょっとグラディエーターさん、手、貸してください。」
「あぁいいぞ!しかし一体どうしたんだ?」

ラートの手当を素早く終わらせそれを確かめるためグラディエーターに近付いた。彼の手に触れると予想通り、その手は人並みの以上の温もりを持っている。

「この3人以外にドローンに撃たれた人っています?」

ルフレの突然の質問に一同は首を傾げながらも、首を横に振る。ルフレだけでなく、樊凌、カラベラ、シアノはドローンに狙われていなかった。

「もしかしてなんですけど、体温が関係してたりしませんか?ほら、この3人は人並み、もしくはそれ以上の体温があるけど残りの3人は人に比べて体温が低いでしょう?」

ルフレの言葉にシアノは突然何かを閃いたように目を見開きハッとした。

「なるほど人感センサーか

シアノは口元に手を当て、しばらく考え込んだ後、思いついたように言葉を続けた。

「それであれば、昼夜問わず狙撃が可能になります。言われてみれば、フィリップは心臓を撃ち抜かれ、グラディエーターは耳を、ラートは脇腹を撃たれているそれぞれ、頭や腹部、心臓を狙っていた可能性が高いと思えば
「体温に反応って他の4人にたまたま当たらなかっただけなんじゃないんですか?」
いや、俺は嫌な予感がして弾を避けようとした。結局避けきれずに耳のかすり傷を負ったが
「あぁ、俺もだ。避けても当たるような狙撃を、偶然のみでほかの4人全員が避けきれたとは考えにくい。」
「えぇあの速度避けるとか無理でしょう

避けようとしたと語るラートとグラディエーターにフィリップはゲェ、とした顔をする。

「それが分かればまだ対応ができるそれにもう自分たちはドローンの大きさを知っています。さっきの動きを見るに、かなり下まで降りてこないと撃てないのでしょう。」
「それなら先制攻撃でどうにかできそうだな!」
「まずは情報収集です。ナーデルの話だとこの時代はまだ情報の規制はされていないとの事だったので探せばいくらでも出てくるでしょう。」
「ならば班を分けるか。遠距離攻撃が可能なのは俺、シアノ、カラベラフィルムか。」

手当を終え服を着ながらラートが話す。それに同意した一同はその3人を中心に3つの班に別れて探索をすることになった。

「それじゃぁ、僕、フィリップさん、ラートさん。シアノ、グラディエーターさん、そしてカラベラフィルムさんとファンリンさんのチームですね。」
「集合時間は日が登ったら。場所はここで良いな?」

班に別れた械達はラートの確認の言葉にしっかりと頷く。そして外にドローンがいないことを確認し、それぞれ探索を始めた。