3話✧燼械

✧執筆協力
ふかひれ。様

✧スチル協力
米2ろう様ふかひれ。様NoE様



同時刻。

とっくに日は沈んでしまい、辺りは一層寒くなる。ぱらぱらと振る雪は地面に落ちれば溶けてしまい積もりそうには無い。

ラートは太陽どころか月さえも見えない寒空の下、時間が経つのをただ待っていた。

(もう24時間は経ったはずだが)

グラディエーターと樊凌がシェルターを出てからかなりの時間が経過した。彼らが帰ってくるのが先か、強制帰還をさせられるのが先か。そう思っていたにも関わらず一向に状況は変わらない。何もせず、ただただ待っているだけだから長く感じるだけだろうかとも思ったがそれにしても長すぎるのだ。

「ラートさん、風邪引きますよ?」

ふいに声をかけられ後ろを見るとそこにはルフレが立っていた。

「目が覚めたのか。痛みは?」
「まぁ痛いですけど起き上がれる程度には。それより、グラディエーターさんとファンリンさんまだ帰ってきてないんでしょう?フィリップさんから聞きましたよ。」

ルフレはそう話しながら黙ったままのラートの隣に座る。

「グラディエーターさんも頑固な人ですよね。僕達には無茶し過ぎたらダメだなんて言うくせに1人で突っ走って行こうとするなんて。死に急ぎたいんですかね。」
「あいつにはあいつなりの考えがあるんだろう。俺達がどうこう言えることでは無い。」
「グラディエーターさんなりの、ねぇ

ルフレはグラディエーターの行いを特に気にしていないような事を言うラートの表情がいつもより不服そうなことに気付いた。案外彼の安否を心配しているのだろうか、それとも負傷しているからと気を遣われたのが癪だったのか。

ルフレはもう少し素直になればいいのに、と思いながら彼と同じように空を見上げた。

(こんな雪が振るような寒い日もあったな)

頬に雪が落ち少し経てば溶けて消えていく。凍てつくような寒さと、雪が自身に落ちる感覚は遠い昔のことを思い出させた。

「ラートさん、人間についてどう思います?」

ルフレの突然の問いかけにラートは少し驚いたような顔を見せる。彼はしばらく言葉を考えたあとゆっくりと口を開いた。

「礼儀知らずの愚か者。そうとしか今は言えないな。」
「愚か者その意見には僕も賛成です。どれだけ罪を犯しても学習しない。獣でさえ学習するのに。そんなの獣以下だ。」

そう言いきったルフレは不敵な笑みを浮かべる。

「ラートさん、僕は人間が嫌いです。あなたもそう思いますか?」
。俺は神以外に興味は無い。」
「え〜ちゃんと答えてくださいよ〜」
強いて言えばの話だ。神が人間を作ったのであれば人間はこの世に必要な存在ということになる。神が人を愛すと言うのなら俺も彼らを愛するだろう。」
「ふーん、そうですか。なら僕達はやっぱり気が合わないようですね。」

ルフレの表情は笑っているものの先程よりどこか冷酷に感じる。雰囲気の変わった彼の雰囲気にラートは咄嗟に身構えた。

「ちょっとちょっと!意見が違うからって危害を加えようとするほど僕は横暴じゃありませんよ!」

慌てて弁解するルフレにラートは警戒を解く。ほっと胸を撫で下ろした時、フィリップがシェルターから出てきた。というのもシアノが寝たきりなせいで実質カラベラフィルムと2人きりの空間に耐えきれなくなったのだ。

「こんな寒いところでいつまでも寒くないんですか?もしかして寒さを感じない魔女なのでは?」
「えぇ!?そのノリ僕たちにもやるんですか?」
「もちろん。誰にだって魔女の疑いはありますから」

突然かけられた魔女の疑いにルフレは慌て、フィリップはその慌て具合が尚更怪しいと目を細める。ラートはこんな時まで貴殿はとまたため息をついていた。

ふと空を見上げたフィリップが雪が止んだことに気づく。

「雪も降っているのにってあれ、いつの間にか止んでますね。」

その言葉につられラートとルフレも空を見上げた。

「は?」

それは極僅かな変化だった。しかし先程まで空を見上げていた2人、特にラートにはその小さな違いがわかった。

「空が明るくなっている?」
「え?空が明るくなるなんてありえないでしょう。2人の見間違えじゃないんですか?」

フィリップは目を凝らして空を見上げるがそこにはただ暗闇が広がっているだけ。星が見えないことからまだ雲が残っているのだということが分かる。

「いや、日が出始めている。この俺が見間違えるはずがない。」
「けど24時間で館に戻るは

言葉の途中でルフレに嫌な予感が走る。
もしも時辰儀になにかが起きていた場合、自分たちはどうなるのだろうか。それが壊れた瞬間、館に戻されるのならまだいいものの、もしこの時代に取り残されてしまったら

時辰儀って今誰が持ってますっけ?」
「それなら時辰儀を使ったカラベラフィルムだろう?」
いや、りんりんさんです。全員で固まった時にカラベラさんにもしもの事があった時のことを考えてってりんりんさんに渡してました。」

魔女の疑いがある者への観察は欠かせないフィリップ。そんな彼がカラベラフィルムと樊凌の接触を見逃すことも無く、確かにその様子をその目で確認していた。

「それじゃぁファンリンさんに何かあったんじゃ

愕然とする3人とは裏腹に段々と空は明るくなっていく。それと同時に徐々に雲も消えていった。

夜明けだ。」



地平線の先から太陽が登ってくる。全てが破壊された地上には光を遮るものなどなく、朝日が3人の顔を照らした。
神秘的な夜明け。しかしそれはルフレとフィリップの心をざわつかせる。

(もしこのまま館に帰ることができなかったら治療もできない)

ルフレは急いでその場を立ち上がり、シェルターへと戻る。開けっ放しにされた扉から階段を下り、まだ眠ったままのシアノの元へと急ぐ。

最後の階段を降りた時、ふっと体が軽くなり目の前が暗くなった。

(!やっと館に帰れる!!)

自重を感じなくなった直後、その反動で一気に体が重くなる。この感覚を味わうのも実に4回目。徐々に大きくなるその反動を堪え目を開けた。

そこは何も見えない真っ暗闇。しかしこの匂いには覚えがある。

「こっちだ!」

突然ラートの声が聞こえ、出口の方向を把握する。今すぐこの部屋を出たい気持ちを抑えルフレは残された腕で感覚だけを頼りに部屋の中を探す。

「ルフレ殿、ルフレ殿」

ふと足元から小さな声が聞こえた。しゃがんで手を伸ばしてみれば特徴的な形のマスクに手が触れる。ルフレは彼のフードを掴み、先程ラートの声が聞こえた方へと向かった。

突然目の前が明るくなり、咄嗟に目を閉じる。

ゆっくりと目を開くとそこにはラート、フィリップ、ナーデルが立っていた。

「おかえりなさいませ、ルフレ様。それにシアノ様とカラベラフィルム様も。」

ナーデルの言葉にルフレは振り返る。自分の腕は確かにシアノのフードを掴んでいた。そしてそのシアノの上には手のひらサイズになったカラベラフィルムも乗っている。

「っも〜いつも寝てばかりだからそんなに重くなるんですよ」

ルフレは安心しきったのか、緊張の糸が切れその場に座り込む。自分より小さいとはいえ体格のいい男を片手で引き摺るのはかなり体力を使う。

「グラとファンリンは?」

安心したのもつかの間、ラートの言葉でルフレはまだ全員が揃っていないことを思い出した。

さっき部屋を調べた時は気配すら

「ならグラさんとリンリンさんは死んでしまったんですか?」

フィリップの言葉に空気は静まり返る。

少し調べてくる。」

ラートがそう言って1本踏み出した時、暗闇から笑い声を抑えるような声が聞こえた。

「今何か声みたいなのが聞こえませんでした?」

フィリップは小さくつぶやく。ラートは警戒しながら暗闇に手を伸ばした。

「グラディエーター様の帰還だ!!!」
「ボクちゃんもおるで〜!!」

肩を組んで飛び出してきた2人にラートは驚いて後ろに転び尻もちをつく。
フィリップ、ルフレも2人の勢いに目を丸くしていた。

「おっ、その驚きようちゃんと黙っててくれたんだな?」
「あはは、谢谢、カラちゃん♡」
「うむ、これがドッキリというものなのだな。」

グラディエーターと樊凌の言葉にカラベラフィルムは小さく頷く。他の械たちは未だにこの状況を理解出来ていなかった。

「え?ドッキリ?」
「ただ戻ってくるだけじゃ華がないと思ってな!」

そう堂々と言い切るグラディエーターの頭をラートが叩く。その勢いに肩を組んでいた樊凌も道ずれに地面に倒れ込んでしまった。

「いっっった〜!?ラーちゃん酷ない!?」
「ふん。ふざけすぎだ。」
「ほんとほんと。悪趣味です。」

ラートとフィリップに軽く叱られたグラディエーターと樊凌は少し反省したのか眉を下げる。

「今回は皆様帰って来られたようで何よりです。治療いたしますので怪我をした方は

ナーデルはそう言いかけたが大半が大怪我を負っていることに気付きため息をつく。

皆様大広間ではなく治療室前にお集まりください。」

グラディエーターは勢い良く立ち上がりまだ意識を失ったままのシアノを背負った。

「グラディエーター様も深い傷を負っています。ご無理をなさらずシアノ様は私に任せても

「心配は要らないぞ!弱き者を守ってこその強者だからな!」

自信に満ちた笑みを浮かべたグラディエーターはシアノをおぶったまま颯爽と階段を掛け降りていった。