さもゆ
2024-11-16 22:21:28
45032文字
Public BF
 

【BF腐】ツイログ

ツイッターまとめ!女体化とか学パロとか暗かったりとかもあるから地雷原です!
最初の1ページだけ月英。あとはA英、CPなし。

2020.4.4 たまごのお粥pixiv投稿作品


(リクエスト、歌を歌うA英)
(転生パロっぽい。ででにーぷりんせすっぽい。眠れる森の美女の歌を知ってるとたぶん面白い)

朝の光、二人で




 夢のなかのアッシュは、いつも好かれたくない輩に好かれる大変不幸な少年で、被害者でもあり加害者でもある複雑な人生を送っていたのだけれど、最期は犯した罪すべてを赦され死んでしまう。一等大事な、きっとそのときの俺が欲しくて欲しくて堪らなかった、きれいな愛をひとつ抱えて。
 そのきれいな愛情を向けてくれた人が、いったいどんな姿だったか、どんな声だったか、どんな話し方だったか、夢から覚めた俺はいつも忘れてしまう。そしてこれだけを強く思うのだ。

 あの人にもう一度愛されたい。

 夢から覚めたアッシュは多くの人に愛される富んだ家柄に育ち、そりゃ面倒な好意を向けられることもあるけど大変な不幸なことは起きない人生を送っている。犯した罪といえば、せっかくできたガールフレンドにひどくそっけない態度をとって平手打ちを食らい、こっぴどく振られたことくらい。キスまでしたのに! (周りはそう言ってからかってきたけど、なにを隠そう、そのキスが原因で別れたといっても過言ではない。元ガールフレンドと唇が触れ合ったとき、柔らかいと思ったと同時「あ、なんか違う」と強く感じ、そして、自分でも不思議なくらいその子に対しての関心が薄れたのだ) けれど、俺はなんだか他人に優しく、そして愛されやすいたちらしく、やっかみももちろん買うが、温かで幸せな愛情に包まれ生きてこられている。
 ほかに望むものなんてないはずだと頭の片側が言うのだけれど、本当に望んでいるものはたったひとつだろうと胸の片側が訴えてくる。
 夢のなかで、不幸なアッシュに寄り添い愛してくれていた、あの人の愛が欲しい。
 夢のなかと同じように、俺のことを特別愛して欲しい。
 こんなにも、あなたをいつも夢に見ているのに。

 ……ところで、人間は拾った骨の音が鳴り、それを自由にできると知ったときから音楽に支配されている生き物だ。言葉を覚えたときから燃える炎の周りで爆ぜる音とともに歌い踊ってきた生き物。
 つまり、なにが言いたいかというと、音の可能性に気づき、心情を言葉で表すことを覚え、ステップまで踏める人間は、自分や自分以外の境遇に見合う歌詞が、かならずひとつは見つけられるだろうということだ。
 俺がそれを見つけたのはうんと幼いころ、朝方でのキッズ・アニメでだ。ずっと昔の作品で、大きなアニメ会社の、今でも名作とうたわれる有名な作品。そのなかでプリンセスが歌う歌。
 馬鹿みたいだろう。でも、十七になった今でも、たまに歌っては夢のなかのあの人に想いを馳せるんだ。声変わりなんかとっくの昔にして、もうあのプリンセスのような柔い声を真似できないのに。(幸い、と言っていいかどうか。キャラクターは十代の娘なのに歌声はおばさんのように聞こえるので低めに歌っても妙なアレンジを加えられたと思われない)あのプリンセスは十六歳だった。夢に見ていた王子と恋に落ちるのが。しかも、名前の意味まで俺と大体一緒。
 少女趣味とか、空想好きとか、そういうわけじゃないけれど。
 でもだって、物心ついたときから繰り返し見てきた夢の内容を、現実や物語と重ね合わせることは、別段おかしなことじゃないだろう。去年、十六のとき、俺は密かに期待していたのだった。
 プリンセスと同じようなことが俺の身にも起こるのではないか?
 起こらなかった。当たり前だ。別に俺は、あなたに愛されたいと歌っている最中、背後から突然デュエットを仕掛けられる体験をしたいわけじゃない。ただ、夢のなかの人と、出会えたら良かったんだ。
 なのに出会えもせず一年が経過した。
 俺は今でも夢を見続けている。

 目覚めると大抵涙を流している。
 悲しい涙じゃない。夢は途中、最悪で最低で絶望が煮詰まっているけれど、最後まで必ず見させてくれる。俺はあれを幸せな終わりだと思い、少しの寂しさを抱えながら、ああ終わったんだと涙を零しながら瞼を開ける。
 夢では俺はあの人に叩き起こされる。
 あの人が作ったか用意したご飯を食べて、小言を言われながら、それでも出かけるとなったら必ず帰ってくるよう祈られる。
 あの人の顔も声も仕草もわからないのに、愛されていたことだけは、わかる。アッシュが愛していたことも。
「いいなあ」 
 寝起きには、いつも、そうやって呟くのだ。

 坊ちゃん。今日は午後から庭園の整備がありますから──街で評判の良い花屋さんが花を植えに来てくれるのですよ──お昼過ぎからは、庭園に人が出入りしますからね。
 彼女にとったら七歳も十七歳も同じことなのだろう。しわくちゃの老メイドにいくら坊ちゃん呼びをやめろと言っても聞きやしないので、俺はもう諦めて好きに呼ばせている。呼び方もそうだ。仲の良い友人にはアスランではなくアッシュと読んでもらったりするが、声さえ覚えていないのに、本当は一番あの人にアッシュと呼ばれたいのだ。
 実際に会ったら、必ずわかる。
 実際にいるかも、わからないのに。
 いるわけがない。
 一日に何度もこういうことを考えては溜め息を吐いてしまうので、家の者にどう映るかも考えて、学校のない日は落ち着く図書館か、外を出歩くか、家の広い庭園の奥まったところのベンチにいることが多かった。しかし今日は図書館の休館日で、外に行く用事もなく、庭園も整備されるという。まあでも、邪魔しなけりゃ、構わないだろう。それに午後までなら。
 きちんと栄養と見た目が満たされている朝食を食べ終えると、本を一冊持ち、午前の眩しい陽気のもとへと繰り出した。

 背の高い薔薇の垣根を越えると、こじんまりした噴水と、ベンチがふたつ、置いてある。木々に囲まれ静かで穏やか、物思いに耽るにはうってつけの特等席。
 けれど今日は先客がいた。俺はびくりと歩を止め、そろりと周りを見渡す。それから、ベンチのひとつに寝そべっている、黒々した先客に声をかけた。
「どこから来た?」
 みゃあ。先客が答えた。
……そんなんじゃ分からないよ」
 どこから入り込んだのか真っ黒い毛並みをした一匹の猫が、警戒するでもなく、くあ、と伸びをする。ベンチから元気良く飛び下りると、俺の方へ寄ってきて、足に擦り寄った。人懐こい。首輪はしていないが、野良には見えない。俺はしゃがみ込むとそいつの顎を指先でくすぐってやる。
「迷ったのか? 警備を抜けて来るなんて、結構やるな」 
 喉がごろごろ鳴っている。
「はは、かわいいやつ」
 でも、違う、と思った。またか、とも。
 黒い毛並み。黒い髪。黒い瞳、など。そんな動物を見るたび「違う」と思う。あの人だ。夢のなかのあの人は、きっと、黒い髪をしている。黒い瞳を持っている。
 はーあ。深々息を吐き、項垂れ、撫でるのをやめても手に額を押しつけてくる迷い猫を見て、「ようこそ王子さま」ヤケクソに笑いかけた。
 立ち上がり、分厚い本を抱え、一歩、二歩、ステップを踏む。すると猫はその後をついてきた。ああ、去年の誕生日より再現率が高い。
 歌を歌う。夢のなかの王子さまを思い、現実に見た眠れる美女の歌を。
 擦り寄ってくる猫を躱してのステップは、よっぽど誰かと踊っているようだった。
 夢がまぼろしでも、あなたこそ、あなたこそいてくれたら。
 俺だってわかるさ。間違えない。
 だって毎晩夢に見てるんだ。
 囁くように歌い踊りながら、瞼を閉じて夢のあなたを思い浮かべようとしても、やはり駄目だった。瞼の裏側は猫の毛の色だ。金目が時折ちかちか輝く。
 歌はもうすぐで終わりだった。
「あなたこそ愛してくれる……
 アニメでは、ここで、背後から夢の王子が歌に入ってくる。現実であんなことがあれば正直かなり引く。梟の顔を見たか? お笑いだろう……
 くるりと回り、歌を終わらせようと続きを歌う。

 そのとき。
 俺の声と混ざり、別の低くまろい声が続きを歌った。
 それだけでなく、手首を掴まれる熱い感覚。
 ばさっ。本が落ちた。
 ばちっ。瞼を開き切った。
 みゃあっ。猫が止まった脚に頭を押しつけてきた。
 
「あ、」
 俺は振り返り、突如ひとりミュージカルに混ざってきた人間を見ようとして、視線を僅か下にやった。目に飛び込んできたのは黒い髪、黄色い肌、黒い瞳。
 見たことのない少年だった。
 脳みそが混乱している。
 反射的に掴まれた腕から逃れようと身を引くと、同じく混乱しているようだった少年がハッとして逃げる手首に追い縋る。そして言った。
「こ、れは、失礼。驚かす気はなかったんだ」
 その力は温かく弱かった。
 俺は手を引く。後退る。
「いや、その」
 夢と現実とアニメの内容がごちゃ混ぜになる。少年がまた手を握ってくる。
「僕のこと、知らない?」
「あ、ああ」
……前に会ってるのに?」
「どこ、で」
「夢のなかで。きみも歌ってただろ」
 俺は眉を顰めた。
……正気か? ねずみの回し者じゃないだろうな」
「それはこっちの台詞だよ、まさかこんな、ロマンチックな出会い方……僕がその歌知らなかったらどうするつもりだったんだ」
「夢から覚めずに、終わり。でも、まさか、ほんとに……」 
 俺は自分より小さな少年の手を握り締めた。顔を見る。初めて見る顔なのに、とても懐かしい。心臓のもう片側が戻ってきたような心地さえする。
 夢が覚めたんだ。
 そして、夢が叶った。
 夢のなかのあなたは、この人だ。
「あんたに、もう一度、愛されたい」 
 ずっと言いたくて堪らなかった言葉がようやく零れ出た。
 見たことのない顔、聞いたことのない声、知らない仕草、ぜんぶが欲しい。
 あの夢と同じに。それ以上に。
 黒目が嬉しそうに細められた。
「もちろん」

 富豪の息子アスランと、花屋の見習い英二との、劇的な出会いだった。