botanin5
2024-11-14 03:17:26
18728文字
Public 薬さに♀(小説)
 

わたしの赤

ハッピーエンド
薬研から審神者への恋愛感情ゼロの状態で、お付き合いがはじまりますのでご注意ください






『今日は、初めて薬研と手を繋ぐことができた。今までずっと見てきたはずなのに、繋いでみると大きくて、緊張した。』

ぱたりと日記を閉じて、ペンを放り出して畳に寝転ぶ。自分の手を顔の前まで持ってきて、ぐっぱと開いてみる。薬研と手を繋いだ。嬉しかったのに、嬉しかったはずなのに、心の底からは喜べずにいた。

でも、私は喜ばないとダメなのだ。笑顔でいないといけない。だって、薬研を無理矢理、恋人ごっこに付き合わせているのだから。私が「終わり」と言えばすぐにでも終わる関係だ。本丸に帰ってきてから、何度も何度も「やっぱりやめよう」と伝えようか悩んだ。でも、どれだけ考えてみても私は薬研が好きで、恋人同士になることをずっと夢見ていて、ようやく叶った現実を手放すことなんてできなかった。


「大将、薬研だ」
「あ、今出るね。わざわざごめん、話しておきたいこととかあって」

急いで立ち上がって障子を開けると、風呂上りの薬研が紺の浴衣で立っていた。部屋に入るよう促すと、部屋をざっと見回して意外そうな顔をしている。座布団を差し出せば、ぽすんと腰を落として胡坐をかいた。

「どうかした?」
「いや夜になって部屋への呼び出しだったから、てっきり『そういう』ことかと思ってたんだが」
「なっ!違うよ!!」

言われて思わず想像してしまって顔が熱くなる。夜、恋人から部屋に来てほしいと言われればそういうことを想像するのが普通なのかもしれない。でも、それはあくまで本当の恋人同士だったらの話だ。いくら薬研が振る舞いだけは本当の恋人のように接してくれると言ったとしても、好きでもない人と身体を交えるような行為はさせたくなかった。

「あのね、話ってそれにも関係するんだけど、私、薬研にそこまでしてもらおうとは思ってないから大丈夫」
そうなのか?」
「うん。薬研との関係に恋仲って名前をつけてもらえただけでも十分幸せで。だから、好きとか、そういう言葉も別にいらないかな。物もいらないから、何かあっても贈り物とか考えなくてもいいよ。たまに一緒に出掛けたり、本丸にいるとき二人で話す時間作ってもらえたりすると、嬉しいなって思うんだけど」
「そんなことでいいのか?」

薬研は訝しげな顔をしているが、本当にそれで十分なのだ。深い関係になればなるほど、抜け出せなくなってしまうから。むしろ、今の状態で薬研に「好き」なんて言わせたら、自分の惨めさに舌を噛み千切ってしまいそうだ。

「そんなことが嬉しいの。あっでも」
「ん?」
「その手は、たまに繋ぎたい」

恥ずかしくなって顔を伏せて小さい声でぽつりと言えば、すっと薬研の手が伸びてきて私の手を握った。驚いて顔を上げると、薬研は幼い子どもをあやす様な優しい顔で微笑んでいた。

「それくらい、お安い御用だ」
ありがとう」

泣きそうになるのを堪えて再び顔を伏せて、震える声でお礼を言う。
そっと頭に手が伸びて、優しく優しく撫でてくれた。