botanin5
2024-11-14 03:17:26
18728文字
Public 薬さに♀(小説)
 

わたしの赤

ハッピーエンド
薬研から審神者への恋愛感情ゼロの状態で、お付き合いがはじまりますのでご注意ください






頭がガンガンする。
いくらなんでも泣きすぎたらしい。喉はがらがらで痛いし、目も重く腫れているのを感じる。もそりと布団から出て時計を見れば、針は夜の十時を過ぎたところだった。あれからまだ数時間しか経っていないなんて。ぼんやりとした思考を晴らすように、ミネラルウォーターを口にする。部屋まで送ってくれた宗三が「水分は取った方がいいですよ」と置いていってくれたものだ。
食欲は全くない。明日からまた仕事だと言うのに、身体がだるくて動ける気がしない。ごろごろと布団の上で転がっていると、ふと頭に引っかかるものがあった。

「そういえば、日記、置いてきちゃった」

焼却炉へ向かっている最中に宗三に会ってしまい、ひどい醜態を晒してしまった。わんわんと泣く私を慰める手は、大きくて優しかったのに、ありがとうすら言えていない。
日記の事を考えると、ずしっと身体が重くなる。もう、誰かに拾われて、さっさと捨てられてしまえば良い。出来心で始めたことが、自分にとってこんなに大きな存在になるなんて思っていなかった。こんなに、薬研の事を好きになるなんて、思わなかった。

「はぁ~~~っ。はやく、忘れなきゃ」

ぽつりと呟けば、また涙が集まってきて溢れようとする。
いい加減顔を洗ってこようと立ち上がってタオルを探していると、不意に障子の開く音がした。振り向いて見ればそこに立っていたのは薬研で、気まずそうな顔をしてこちらを窺っている。また、心がぐらぐらと揺れる。

なんで」
「大将、話が」
「やだ!来ないで!っ!ごめんなさい、私が間違ってたの、ごめんなさい!!」
「大将!」

掴んだタオルや転がる枕を薬研に向かって投げつける。相反して出てくるのは謝罪の言葉ばかりだ。今は薬研の顔を見たくない

「ごめんなさい!謝るから、もう、好きなんて言わないから、今は放っておいてよ!!」
「大将、聞けって!」

物が当たることも気に留めず近づいてきた薬研にしっかりと腕を掴まれてしまって、身体がぎしりと固まる。へなへなと座りこめば、視線を合わすように薬研もしゃがみ込んできた。

なんなの
「顔上げてくれよ」

薬研の言葉を無視して、顔を伏せたまま気を保つために落ちていたタオルを握りこむ。恋人ごっこに付き合わせて、散々時間を奪っておいて、カバンを投げつけるなんて、私は本当に自分勝手で、愚かで、惨めで。たくさん謝らなくちゃいけないのに、また薬研を困らせている。怒りに来たのか。それとも、諭しに来たのだろうか。もう恋人ごっこは終わりだと薬研の口から言われるのかもしれない。
覚悟を決めて次の言葉を待っていると、降ってきたのは一番残酷な言葉だった。


「大将が、好きなんだ」


がつんと頭が殴られたような衝撃が襲う。薬研は、まだこの愚かな行為に付き合うつもりなのだ。過ぎた気遣いは、ただの毒だと、この優しい刀は知らないのだ。ふと視線をずらすと、薬研の手にあの日記帳があることに気が付いて、目の前が真っ暗になる。薬研に読まれた。あぁ、それで、ここへ来たのか。こんなに重たい恋心を抱えた私を、可哀そうに思ったんだ。薬研は、優しいから。汚れた日記を、拾おうとしてくれている。
でも。でも、その言葉だけは、嘘でも言ってほしくなかった。

どうしてそんな酷いこと言うの?」
「なにを、」
「もう、いいから。私なんかに付き合って、心にもないこと言わなくていいから!」
「大将、俺は」
―――また、憐れむの?」
「っ!!」

「薬研は、私の事なんて好きにならない!!」


手を振り払って日記帳も投げ捨てて、止める声も無視して部屋から駆けだした。自分の愚かさと、後悔と、薬研を責める言葉と、色んなものが混ざり合って、吐きそうになる。何振りかの刀剣とすれ違って、心配そうな顔をされて、ますます自分のダメさに心が削れて厩の裏に逃げ込んだ。明かりの無い真っ暗な場所。こんな時間に初めて来た。ここならしばらく見つからないだろう。

空は憎らしいほどに綺麗な星が瞬いていて、照らす月明かりに包まれるように、声を殺して泣いた。