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お芋さん太郎
2022-07-26 21:11:55
38092文字
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僕のヒーロー
#ツイステ×映画ベイマックスのクロスオーバー
#シュラウド兄弟
#設定捏造
#オリキャラ・モブキャラ
#爽やか読後感
#最後にオマケあり
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◆
「あれ?これは
…
」
イデアとオルトがワンダーランドから帰って2日後のことだ。タブレットで遠隔授業を受けながら9つのソシャゲのデイリーミッションをこなしたイデアがホクホク顔でブラウザを覗くと、トレンドにひとつの気になる動画を見つけた。
投稿者は「ヒーローF」。見覚えが無い名前だ。場所はワンダーランドのサンフランソウキョウ。これは見覚えのある場所である。ライブ配信になっており、視聴者数もそこそこといったところだ。一呼吸おいて、ためらいがちにクリックすると画面の中の人物
…
?たちは右へ左へ上へ下へ縦横無尽に駆け回り、例のお面男、つまりマイクロボットと戦っていた。
場所は瓦礫がそこら辺を埋め尽くす、コンクリート製のどこかの廃屋のようだった。周りに散らばっている機器類の破片をみると、研究施設のようなものだったのだろう。
「ヒロ?」
画面に映る小柄な少年は紫色のヘルメットを被っており、よく顔が見えないがヒロのように見える。というか彼の乗っている大きなロボットは、フォルムは違えど確かにベイマックスだ。せっかくのマシュマロボディが台無しのカチカチした赤い装甲に包まれている。
すると黄色い閃光が画面を横切った。マイクロボットに追いかけられながら超スピードで移動するそれはよく見たら女性だ。足に丸くて薄い車輪のようなものを取り付けて、スケートをするように床や壁を走り回る。
時にその車輪は武器にもなり、フリスビーのように飛んでは相手に鋭い一撃を仕掛ける。しかしその攻撃は難なく躱され、その先にはピンク色の女性がいた。彼女のヘルメットに車輪が当たって転び、彼女の持っていたボールのようなものが床に落ちたと同時に潤滑油のような液体がぶちまけられる。
「うわっ」
その先を予想できたイデアが顔をしかめると、画面の中の黄色い女性は期待通りにツルツル滑って転倒。ピンク色の女性も巻き込んでしまった。
『おい!ダンスしたいなら踊ってやるぜ』
緑色の男性がお面の男を挑発する。手から光の刃を出現させて威嚇すると、お面の男はマイクロボットで攻撃を開始した。
『よッ!ほっ!ハッ!なんだこんなもんか!って
…
エ、これもアリ⁉』
初めは順調にマイクロボットを退けていた青年だった。しかし足元に隙があり、足を取られて投げられてしまう。
『よおし、俺の出番だな!炎をくらえ!』
画面が揺れ、男の声がした。きっとこの声の主がヒーローFなのだろう。カメラのすぐそばを炎が揺れる。イデアの炎とまるで違う、赤い炎だ。
しかし彼も一瞬のうちにマイクロボットによって宙に投げられ、黄色、ピンク、緑を巻き込んで吹っ飛ばされた。
「ハ、なに弱すぎ」
苛立ちと嘲笑を込めてイデアが呟く。自分だったらこうするああする、あのゲームの戦法が、このシチュエーションだと、と頭を巡らせていたために、背後のオルトに気が付くことができなかった。
「何を見てるの、兄さん。これ
…
ヒロ?」
「おおおオルト⁉いつの間に拙者の背後に」
「熱心に見ていたから声をかけなかったんだけど、この映像はなに?なんでヒロが戦ってるの?これ、ベイマックスさん?」
イデアがオルトと向かい合い画面を隠そうとするが時すでに遅し、オルトは画面に釘付けだ。
あの日、寮に帰ってきた後ベイマックスからのメールを見たオルトはすぐさまヒロの元へと飛んでいこうとした。イデアは断固として行かせたくはなく、しかしオルトは友達を必要としているからと行きたがった。オルトを宥めるのには苦労をしたが、やはり魔法の使えないワンダーランドへ再びというのはとうてい容認できず、他の友達もいるだろうから任せようということで落ち着いたのだ。
だがその矢先にこれである。イデアにはオルトがこれから何を言い出すのかなんて簡単に予想がついた。映像を見なければよかったと後悔したが後の祭り。
画面ではお面の男の正体が明かされ、ベイマックスが正気を無くした。ヒロが殺せと命令したのだ。タダシの作ったケア用のディスクを抜いて。
ベイマックスは味方を振り払いながらお面の男、キャラハンへと迫る。タダシが尊敬し、ヒロの技術を高く評価していた教授だ。タダシと一緒に大学の火災で死んだはずだった。
その彼にベイマックスが獣のように迫る。仲間が必死に止めようとした。はずみでお面は再びキャラハンの元へ。マイクロボットを使ってキャラハンが去る。ベイマックスが歩を進め、カメラが揺れ。
画面は黒く塗りつぶされた。
「僕、行かなきゃ」
真っ黒になってしまったヒーローFの動画をから目を逸らすことなく、オルトが言った。思わず口から飛び出たかのような声色だ。
「ダメだよ」
「兄さん?」
「そんな危ないこと、させられるわけないだろ」
イデアが固い声で顔をしかめた。いや、しかしそれも当然であろう。なにせ彼らの戦いといったら酷いものだ。超スピードのピザカッターが行き交いプラズマの刃がそこら辺を切り刻む。身体に悪そうな化学物質がドロドロに飛び散って、ろくに制御もされていない赤い炎が宙に舞った。対抗しているマイクロボットの連なりは足に絡みつき、カチカチに固められたマシュマロを今にも押しつぶさんと機会をうかがう。画面を見ているだけで酔ってしまいそうな戦闘だった。
行ったら最後、ただでは済まない。備えられた機能の9割が使用不可のあの場所で、こんな小さなオルト一人をひねり上げるのなど容易いことだろう。イデアは最悪の事態を想像して背筋をブルリと震わせた。
「でも
…
!」
「それに魔法の使えないワンダーランドなんて危険がいっぱいだし、動画を見る限り本当に危険だし。オルトに何かあったら僕は」
「ヒロは友達だから、危ないからこそ助けなきゃ!」
オルトが珍しく声を荒げた。対するイデアも頑なで、ただただ冷静に言い払う。
「あそこではどんなに頑張っても飛ぶことしかできなかっただろ。助けになんてなりやしないんだ。それにこれは彼らの問題だ。僕らには関係ないね」
「兄さん、お願い」
「絶対ダメ」
可愛い可愛い弟の頼みもこの時ばかりは通用しない。オルトの無事がかかっているのだ。イデアにとってもこれは引けない戦いなのである。
「バグが
…
」
「ん?バグ?」
がっくりと肩を落としたオルトが消え入りそうな声で言った。弟に対してのみ優秀なイデアの耳はそれを問題なく拾ったが、話の繋がりがわからずに眉を寄せる。
「初めはバグかと思ったんだ」
「
…
」
「ヒロと最初に合った時は弟同士でシンパシーを感じた。だってそうでしょう?どっちも最高の科学者の兄を持つ弟で、兄さんのことが大好きで
…
ちょっとだけ問題を抱えてる。共通点がいっぱいあって、解りあえて、思ったんだ。ああ、これが友達なんだって」
イデアは開いたが最後皮肉と嫌味しか出てこない口をキュッと閉じてオルトの話に耳を傾けた。メラメラと青い炎の揺れる前髪から覗く視線は懐疑的は色を孕み、じっとりとしている。
「でも違うんだ。確かに違う。クラスのみんなや部活のみんなとはまた違う存在なんだ。ふわふわマシュマロボディのベイマックスさんからメールが来て、油をさし忘れたみたいに体が動かなくなった。そして今、ヒーローFさんの動画を見て、コアが冷却水に浸かったみたいにサッと冷えた。それでいろいろ検索して気が付いたんだ」
目線を下にしていたオルトが顔を上げた。
兄と弟、パチリと目があう。
「これは、きっと兄さんが僕に抱いている感情だ」
オルトが真っすぐにイデアを見つめる。
イデアは星の瞬きのようなオルトの眼差しにクラクラするようだった。自分の瞳と似ているはずなのに、まったく違うものを見ているように感じた。
自分には無い、光をそこに感じた。
「『心配』と『失う恐怖』、そして
…
」
「違う!違う違う違うッ!オルトはきっと勘違いしてるんだよ!」
オルトを遮ってイデアが耳を塞ぐように悲痛の声を上げる。うろうろと無意識に足を動かし、爪を噛みながら頭を掻きむしってブツブツと不気味に呟く様はまるで気味の悪いゴーストのようだ。
「兄さ」
「そうだ、勘違いだ!今まで年上や同年代としか接してないだろ、だから
…
」
「兄さん」
「あいつは、ヒロは、タダシの弟だ!オルトの弟じゃない、だからそんな危険な場所なんて」
「兄さんッ!」
ビクっとイデアが肩を揺らす。イデアの丸まった背中とオルトのピンと伸びた背筋がひどく対照的だ。身体はイデアの方が大きいのに、オルトにはその兄の背がとても小さく見えた。
それでもオルトの決意は固かった。イデアがオルトを護りたいのと同じように、オルトもまたヒロを護りたいと感じていたからだ。弟のように愛おしく思ってしまったからだ。
兄弟二人、似てないようでその実とてもよく似ている。筋金入りの頑固さと、懐に入れた者への愛情深さである。そしてオルトのその感情は、他でもないイデアから注がれ、学んだものだった。
だからこそオルトは行かねばならなかった。兄から受けた大きすぎるほどの愛を、過不足なく正しく理解するために。そして、他でもない自分自身に証明するために。
「僕が行かないと」
「オルト
…
」
穢れの知らない幼子のようなキラキラした瞳がまっすぐにイデアを射る。太陽のエネルギーに満ちた光彩が、小さくキュインと唸った。
イデアはその瞳を見ているといても立ってもいられなくなる。自分の心の闇が見透かされるような気持になるのだ。オルトにだけは知られたくない憎しみや絶望。支払った代償。後悔。見せたくないものすべてが掘り起こされる気持ちになって、岩戸の奥に身を隠したくなる。
それと同時に未来や希望さえもその眼に感じ、泣き出したい衝動に駆られる。どちらも『オルト』には与えてやれなかったものだった。あの小さな手に溢れるほど、握らせてやりたいものだった。
イデアには3人の弟がいる。オルトと、「ORTHO」と、『オルト』だ。限りなく近く、それでいて全く違う3人の弟である。
もしも。もしもの話だ。もしも、「このオルト」に光を与えてあげられたら?「ORTHO」と『オルト』にも届くだろうか。自分が一歩を踏み出すことで、それができるのだろうか。いや、でも。
世間から天才のラベルを貼られたイデアでさえ、どの選択しが正解なのか全くわからない。ぐちゃぐちゃになった心を無理やりかき集め、そしてイデアはゆっくりと歪んだ唇を開いた。
「ハァ
…
許すわけないだろ」
「兄さん⁉」
イデアがオルトを冷たく見下ろし、髪の毛先に赤が散る。
間違えた!とオルトは思った。彼は今までのイデアの行動パターンから58通りの行動を予測し、許してもらえる可能性の1番高い「本音を伝える」を実践したのに、それでもダメだったのだ。とはいえ、その「本音を伝える」も成功確率はほんの3%。目標値には遠く及ばない数値だった。それでもオルトはその3%に縋った。縋らずにはいられなかったのだ。どんなに確立が低くとも何もせずにはいられなかったのだから。
オルトは今まで感じたことのない焦燥に、全身の回路が焼き切れてしまうのではないかと思った。これも、初めて感じる感覚だ。
イデアがオルトの肩を強く押す。背にしていた自動ドアがヒュンと風を切って開いた。真暗闇の小部屋のようだった。オルトでさえも把握していない、イデアの秘密の部屋だ。イデアも部屋に入り、扉を閉める。互いの頭の炎以外、周りは完全に闇である。
「やめて兄さん!ここから出してよ!」
「あのさ、オルトは何もわかってないよ」
「あ」
イデアがオルトの腕を引っ張り、部屋の奥へと連れ込まれる。ほんの少し進んだところで投げ出されるように腕を離された。オルトの背中に壁が当たる。痛みは感じないが、背中ではない場所がギシギシと軋むような気がした。
オルトは小さな頭の中で急いで計算をする。今までのデータからイデアがこの部屋に引きこもる確率は76%、オルトが閉じ込められる確率は83%。でもそんなのダメだ。手荒になった場合イデアに怪我をさせずに部屋を出られる確率は29%。これも却下。
「行かせられるわけないんだ」
ゲームの話で気を逸らせる確率は8%、これもダメ。駄菓子の献上で買収できる確率は9%、猫の話をする、17%、誰かに助けを
…
0.3%。
「無理だよ」
「兄さ」
イデアがオルトの顔のすぐ横の壁に手をつく。バンと大きい音が鳴り響き、オルトは肩を強張らせ、縮み上がった。そして思わず瞑ってしまった目を恐々開くと。
部屋がいつの間にか明るくなっている。オルトの顔の横にはイデアの病的なまでに白くて骨ばった大きな手。そしてその下には電気のスイッチがある。イデアは照明をつけただけだったのだ。
そしてイデアの背の向こう、部屋の中央にあるものに目を止めた。そしてオルトのクリクリぱっちりとした眼は、驚きのあまりまん丸に見開かれる。
「そんなチープなボディで行かせられるわけないだろッ!!!」
頭を抱えてシャウトするイデアの後ろにはガラスケースに入ったピカピカ新品みたいに綺麗なボディが鎮座していた。深くシックなロイヤルブルーを基調としたマットな質感の装甲はこれほどなくクールに見える。頭をすっぽりと覆うヘッドガードの前面には、鳥の嘴を連想させる流線形のレモン色のフェイスシールド。腰のツールボックスからは自由に動くアームが尻尾のように伸びている。
オルトでさえ、初めて見るボディだ。
イデアは呆然とするオルトにお構いなしに早口でまくし立てる。
「君に与えたすべてのギアは日常生活に支障が無いレベルの機能があるとはいえ、それはあくまで日常レベル!燃料効率も悪いし、見た目がシンプル過ぎる!そもそもどのギアも戦闘用に作ってはいないし!とにかくダメだ!ダメダメダメだよ全ッ然ダメ!」
「に、兄さん?」
「オルトは分かってないんだ。ヒーローになるならヒーローらしい恰好ってものがあるだろ。クールなデザイン、どんな攻撃にも耐えられる丈夫な装甲、イカす必殺技、かゆいところに手の届く機能性
…
」
イデアが両手を居心地悪そうにわさわさと動かしながらオルトのもとを離れ、ガラスケースを指し示すようにバンと叩いた。ぎらつく目は座っている。
「そしてそれらを全部兼ね備えた新ギアがこちらッ!ボディ素材はつい最近国際錬金開発機関が発表した新素材、金属の固さとゴムのようなしなやかさを兼ね揃えたイロンジウム!超小型リチウムイオン電池を複数搭載しているからワンダーランド内でも電気式でここと同様に長時間の活動が可能!魔導式で動いてるときに発生するエネルギーを電気に自動変換するから充電もいらない!さらに!ナビ、通信、自動洗浄機能はもちろん、医療ツール、工具各種もバッチリ!6種類の魔導砲で戦いを勝利に導き、加えて耐熱、耐寒、耐圧、防水、防塵、
…
」
「兄さん」
オルトが兄を呼ぶ声は蚊の鳴くような、ごくごく小さな声だった。しかしイデアはスイッチを切られたかのようにピタッとしゃべるのを止め、じっとオルトの眼を見つめる。表情からは何も読み取れない。しかし揺らぐ炎の前髪がダラリと顔に影を作り、それがイデアの心を表しているかのようだった。
「なに?」
「
…
行ってもいいの?」
イデアは顔をくちゃくちゃに歪めて「それいま聞く?」とため息をひとつ吐いた。
「
…
正直嫌だけど。心配だし。絶対危険だし。単身で宴寮に飛び込むくらい、嫌だけど。でも」
聞きながらゆっくりと、オルトがイデアの方へと歩を進める。
「オルトの夢だったんだ。ヒーローになるの。君もそうなんだろ?」
「うん」
「弟を応援するのも兄の務めだし」
「
…
うん」
「君の
…
オルトの心はオルトのものだから」
オルトはイデアにあと一歩の距離まで近づいた。随分と身長が違うから、オルトがイデアを見上げる形になる。イデアが眉を歪ませて、必死に言葉を繋いでいるのがよく見えた。
「だから、だから
…
本当に嫌だけど、でも」
イデアが肺を絞るような長い息を吐いた。
「行っておいで」
オルトがイデアの胸に飛び込む。兄を潰してしまわない程度にギュウと強く抱きしめると、オルトにまわった細い腕も同じように力を込めた。顔は上げない。見なくたって兄がどんな表情をしているかなんてオルトには手に取るようにわかるからだ。きっと「行かないで」と言いたいのに、それを堪えるために下唇をギザギザの歯でキツく噛み締めているはず。オルトが見ると兄は恰好をつけて無理して笑うから、だからオルトは顔を上げなかった。
そしてそんな兄の大きな覚悟が揺らがぬように、これが正しいのだと自身に言い聞かせるように、オルトは元気いっぱいに声を出す。
「うん!行ってきます、兄さん!」
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