お芋さん太郎
2022-07-26 21:11:55
38092文字
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僕のヒーロー

#ツイステ×映画ベイマックスのクロスオーバー
#シュラウド兄弟
#設定捏造
#オリキャラ・モブキャラ
#爽やか読後感
#最後にオマケあり




 とある国のとある大学。広い広い講義室がこれでもかというほど連なる廊下に、大声をあげて忙しなく走り回る一人の男の姿があった。
 ジャケットはもはやどこへ置いたのかわからない。ネクタイは緩み、皺ひとつなかったシャツはヨレヨレ。廊下を歩いたり談笑しているかしこまった装いの大人たちは、どうにも場違いな彼に驚愕し目を見張った。あからさまに向けられる嫌な顔や容赦のない舌打ちなど、言葉こそないものの嫌悪と侮蔑の空気が容赦なく彼を刺す。
 しかしそんな視線を受けてでも彼にはやるべきことがあった。なにせ彼は仕えている名家の御曹司のお目付けという重大な仕事の真っ最中。だから職務をまっとうするために声を張り上げて、迷子になった坊ちゃんの捜索を続けるよりほか無かった。彼の首が飛ぶか繋がるかという瀬戸際なのだ。

 廊下に設置された休憩スペースを横目でチラリと確認して通り過ぎる。が、5mほど進んでピタリと止まり、ちょっと戻る。群がるスーツの大人の隙間を「すみません、すみません」と小さく呟きながら紙コップを一つ取り、給水機で水を汲んだ。一口飲むと冷たい水が乾いた体に染みわたり、ここまで喉が渇いていたのかと彼自身ですら驚くほどだった。コップの中身を一気に飲み切り、ホッと一息。恵みの一杯に感謝を込めて、彼はまた捜索に向かう。

「坊ちゃ~~~ん!イデア坊ちゃん!返事してくださ~~~い!」

 響く声が、遠くに消えた。

 さて、彼が水を飲んだ小さな小さな休憩スペース。長机に乗ったコーヒーメーカーと給水機の背中には観葉植物の鉢植えがあり、注目すべきはその根元と壁に挟まれた僅かな隙間だ。廊下からも休憩スペースのどこからも見えない完全な死角に、青い炎がふわふわと揺らめいている。
 そこは大人にとってはこの隙間に入ることは難しいが、10歳に満たない痩せっぽちの子供が一人入るには十分なスペースだ。小さな膝小僧をキュッと縮めて隙間に身体をねじ込み、耳には高性能ヘッドホンで外部の音を完全にシャットダウン。明かりは青く燃える自らの髪の毛で事足りる。細くて小さな手に大きすぎるほどの携帯ゲーム機を持ち、ボタンというボタンの上を白魚の指が滑るように動き回った。
 追っ手を振り切り早15分、青炎の少年の楽園がそこに誕生していた。

 しかし、どんな楽園も最後には失われる運命にある。
 観葉植物の隙間を縫って突然現れた手は青炎の少年のヘッドホンを容易に外し、それによって青炎の少年は顔を上げた。その瞬間にカチリと出会う目と目。輝くイエローと出会ったのは落ち着いた深いブラウン。そのイエローの持ち主、つまり青炎の髪の少年はやっと事態に気が付く。

「ヒッ!な、なに⁉き君、だれ⁉なんでここがバレたの?っていうか本当に誰⁉ここ先に見つけたの僕なんですが⁉」

 青炎の少年はパニックを起こすが、ブラウンの眼の少年が口に指を当てて「シー」っとそれを制す。青炎の少年もこれでお付きの男にバレてはたまらないと、彼の示すとおりにいったん呼吸を落ち着けた。

「探してたんだよ。君と、話がしたくて。イデア君」
「僕、君に名前言ってないんだけど」
「胸のネームプレートに書いてある」
プライバシーの侵害だ」

 思わず手で押さえたネームプレートには『世界科学技術学会・魔導工学部門 イデア・シュラウド』の文字が堅苦しい字体で書かれてある。自分の意図とは反して勝手に名前が知られたことにイデアが顔をしかめた。
 しかしイデアよりも少しばかり年上であろうブラウンの眼の少年は、気にしない様子でにこやかにイデアに話しかける。

「そうでなくても知ってるよ。『魔導工学の天才』はその筋の雑誌やネットニュースなら載らない日は無いよね」
「僕をそう呼ぶのは僕を利用しようとする大人だけだよ」

 ブラウンの眼の少年が持つイデアのヘッドホンから、かすかにゲームオーバーのBGMが流れる。イデアはゲーム機の画面をチラリと確認し、チッと舌打ちをした。

「こういう学会ってのは楽しいけど大人ばっかりしかいないだろ。僕は工学の話しか分からないし、休憩時間はつまらないよ。君もそうじゃない?」
べつに。そもそも学会で集まる意味なんてある?学会誌を配ってハイ終わりで良いと思うけど」

 ブラウンの眼の少年がイデアの隣のスペースに入り込んできたので、イデアは視線の行き場を無くして目を伏せた。壁を背にして、二人で膝なんて抱えて、傍から見たら滑稽だろうなとイデアはゲンナリした。

「偉い先生と直接話ができるのはとても勉強になるけど、そんな先生方はいつも話しかけられないくらい忙しそうだし」
「なんでわざわざ集まって人前で口頭発表だなんて非効率なことをするのか理解不能。別に読めば分かるでしょ」

 ブラウンの眼の少年が不満そうに口を尖らせ、イデアが左右に首を振る。

「やっぱり同じ分野の研究者が集まると一体感があるし意見交換もできるし、自分の研究の刺激になるよね」
「僕の研究は僕自身が一番よく分かってる。他人の意見なんてネットに溢れてるダイエットサプリくらい信用できないね」

 お互いチラリと横目で目が合った。

「やっぱり君と話すと楽しいや」
「僕は楽しくない。ヘッドホン返して」

 嚙み合わない会話にイデアはけっこうイライラしていた。その一方でブラウンの眼の少年はたいそう楽しそうにしており、それがまたムカついた。だからイデアはスッと目の前に差し出された手を冷たい目で睨んだ。

「なに、君の手で音楽が聴けるって言うの」
「それは無理。知らない?これ握手だよ。僕の国では挨拶だ」
「ああ、だろうね。でもあいにく僕の常識ではそうじゃない。名前も知らないやつと握手するなんてありえないね」

 イデアがぶっきらぼうに言うとブラウンの眼の少年は一瞬だけきょとんとした顔をし、すぐに困ったように眉を八の字にして笑いをこぼした。

「ハハ、そうだよね。ごめんごめん。僕の名前はー