お芋さん太郎
2022-07-26 21:11:55
38092文字
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僕のヒーロー

#ツイステ×映画ベイマックスのクロスオーバー
#シュラウド兄弟
#設定捏造
#オリキャラ・モブキャラ
#爽やか読後感
#最後にオマケあり





 動かし慣れていない足が悲鳴を上げる。口が渇いて喉の奥が痛い。肺が痛い。お腹が痛い。周りからの視線も痛い。

 なんでこんなことになった?とイデアは後悔の真っただ中にいた。

「も、もう無理、だって。オルトに、任せ、よう」
「イデアさんもう疲れたの!?ア、見つけた!あっちあっち!」
「もーーーーー!!!!!話っ、聞けって!」
「兄さん頑張って!」
「これ、だから、子供はっ、嫌い、なんだ!」

 息を荒く上げながらヒロに引っ張られて走るイデアだが、たった数分でもう足がもつれそうになっている。美しい桜並木を見る暇などまるで無く、行き交う人々や自動車の間を右から左に駆け回ってマシュマロちゃんを追いかける。息も絶え絶えなイデアの横を滑るように飛ぶオルトが恨めしい。インドア派なイデアにとって、この状況はまるで地獄だった。

 話は数分前に遡る。
 ヒロの「痛い」という声に反応したのは部屋の奥に置いてあった真っ赤な箱と、その中に入っていた超絶ふわふわのマシュマロちゃんだ。彼はベッドと壁の細い隙間をヨチヨチと歩いてヒロに近づき、自分はケア・ロボットのベイマックスだと男の声で流暢に自己紹介をした。
 さて、そこで調子が爆上がりしたのが異端の天才である。ヒロへ問診し「思春期特有の情緒不安定」と診断を下すベイマックスに近づき、触ったり抱き着いたり中身を覗いたり。ブツブツと呟き一心にメモを取る様子はまるで何かにとり憑かれたよう。スキャン一つに奇声を上げてはオルトと共に意見を交わす。
 そのうちヒロが小さな黒いロボットが動くのを見つけ、ベイマックスはそのロボットの指し示す方向、つまり外へとヨチヨチピヨピヨ歩いて行ってしまった。それぞれの話で盛り上がり、少しだけいやかなり目を離してしまったその隙の出来事だ。

 というわけでベイマックスを回収するために思わずヒロが走り出し、彼を追いかけイデアとオルトが部屋を飛び出し、そのすぐ3秒後には後悔をすることになるイデアだった。だから長い階段を駆け上がって人込みを抜け、臭い路地を全力疾走したその先、古い倉庫のような建物の前でベイマックスが立ち往生しているのを見たときは嬉しさのあまり思わず拍手をしそうなほどだった。もちろんそんな元気は無かったのだが。

「ハァっ、クソッ!あいつは、ハァ、マシュマロゲホ、なんかじゃなく、て、悪魔、だッ!」
「兄さん大丈夫?こんなに激しい運動するなんて、16日と23時間ぶりだよ」
「ベイマックス!勝手に何をしてるんだよ」

 寄り添う二つの青い炎をしり目にヒロがベイマックスに駆け寄る。するとベイマックスは体ごと振り向き『小さなロボットの目的地です』と言った。確かに彼の持つシャーレの中でカツカツと高い音を響かせるマイクロボットが指し示しているのはこの建物だった。
 ベイマックスが「小さなロボット」と呼ぶマイクロボットはヒロの発明品であり、彼が大学への飛び級の切符を手にしたきっかけだ。そして、タダシに見守られて作った最後の発明品でもある。
 マイクロボットは大きさは3センチ程ととても小さく、球に円錐がふたつくっついているような形をしている。実にシンプルな形であるが、円錐は球を中心に自在に動き、たくさん集めることで様々な形を作り出すことができるのだ。頭に特殊な装置を付けることで、その人間の思うが儘、足場や建造物も簡単にできるし、手を作って動かすこともできる。必要なのは操作者のイマジネーションのみ。まさに魔法のような代物だ。
 しかしこのマイクロボットは先の大学の火事で、ヒロの持っている最後のひとつ以外は全部焼けてしまったはずだった。だからシャーレの中にあるマイクロボットが他のものと「引き合う」反応を示しているのは、かなりおかしな話なのである。

「鍵がかかっているね」
「魔法が使えたら秒で開くのに。ホント不便極まりない」

 オルトが扉に巻き付いている鎖と南京錠に触り、それがジャラリと重たくて冷たい音を立てた。いつもならイデアの開錠魔法か、オルトの出力を弱めた魔導砲でちんけなカギはすぐに開く。しかしここは非魔法地域で魔法も使えなければ、オルトの魔導砲も使えない。オルトは高出力で魔導エネルギーを使えるバースト・ギア式典服のような形状のギアを装備してあるものの、それを使ったとしても宙に浮くのがやっとの状態だ。イデアは「詰みかな」とぽつりと呟いて、マジカルペンで頭をガリガリと掻くのであった。

『窓があります』

 辺りを見回していたベイマックスが上を差し示す。開いた窓だ。しかしそれはかなり高い位置にあり、空でも飛べない限りは届かないだろう。
 そう、空を飛べない限りは。

「わかった!僕に任せて!」

 イデアと目線だけを交わしたオルトが、自身気に胸を張った。



 木造の倉庫のような建物の中は酷く殺風景で、当たり前だが明かりなど一つもない。イデアの髪の毛だけが光源となり、影が無機質にふわふわ揺らめいた。金属製の足場がそこかしこに組まれており、倉庫というよりも何かの工場のようにも思える。

 オルトに1人ずつ持ち上げられて忍び込んだイデアは、その雰囲気に少しだけ弱気になった。
 勇んで乗り込んだはいいが、もしも何か恐ろしいものがあったら?隣に立つヒロよりもずっと年長者なイデアがなんとかしなければならない。オルトはパワーを存分に使えず、魔法も無しなこの状況で。子供らしく無謀で陽キャなヒロと常識知らずなマシュマロちゃんを庇わなければならないのだ。
 イデアの胃がフロイドに絞められた時みたいにキリキリと痛んだ。

「マ?探索にマップが無いとかクソゲーすぎる。まずは静かに、落ち着いて行動を」
「あれ?入らないや。ベイマックスさん、つっかえてる?」
「ちょ、ベイマックス
『少し空気を抜きます』
「静かに、」

ピィ〜〜〜〜〜〜〜
プス〜〜〜〜〜〜
ブブブブ、ブ

「完了?」

プィ〜〜〜〜〜〜
ボボボボボ、ボボ

『完了です』
「やった!良かったね、ベイマックスさん」

 窓に押し込まれても入らなかったベイマックスは、自らの空気を抜くという英断を下した。しかしその音の大きいこと大きいこと。建物内に引きずり上げるまでの約10秒、高音から低音までありとあらゆるマヌケな音を立て続けたのだ。
 これにはイデアも頭を抱え、

「はァ、もうヤダ」

 天を仰ぐのだった。

 その間にヒロは階段を降りて下へと向かう。マイクロボットとガラスのぶつかる小さな音だけが静寂に溶け込んだ。

 そもそもマイクロボットは神経伝達装置を通して指示を出さない限り、勝手に動くことは無い。ただのカーボン製のゴミくずのようなものだ。そしてそれが動く様を人に見せたのは大学で発表した1度きりである。
 ヒロの頭では「嫌な予感」が泡のように次々浮かんでは弾ける。

 思考をグルグル巡らせながら倉庫の奥まで進んだヒロは、そこに不可解な空間を見た。半透明のパーテーションで区切られた空間だ。その中は煌々と光で満ち、暗い倉庫で一際異質に思えた。
 その中には直線的に動く影が見える。ロボットだ。腕だけのロボットはその指先で精密な作業を疲れなく淡々とこなし、ノロノロと動くベルトコンベアに合わせて往復している。
 そしてチャリ、チャリ、とベルトコンベアの動きに合わせて起きる音がその存在をヒロに明かした。

「マイクロボット?」

 目線を上げるとベルトコンベヤの向こうが暗闇に浮かび上がった。

嘘でしょ」

 何十何百もの大きなドラム缶が綺麗に並べられていた。中身はすべてマイクロボット。もちろん発明者であるヒロは把握などしていない。誰かが複製しているのは明らか。完全に違法の代物だ。

『ヒロ』
「うわッ!」

 ベイマックスだ。その後ろにはイデアとオルト。
 マイクロボットに気を取られて完全に失念していた。ヒロの肩がビクっと跳ねた。

「心臓が止まったぞ!」
『電気ショックが必要ですか?』
「大げさに言っただけだよ!」
「あれ、ヒロ・ハマダさん。そのドラム缶は
「近づかないでオルト、なんだか様子がおかし

 手をこすりあわせて電気ショックの準備をするベイマックスをなだめるヒロをしり目に、オルトがドラム缶に近づこうとした。しかしイデアが手でそれを制す。
 ジャラジャラと硬いものが擦れる音がした。暗闇の奥でジワジワと立ち上る影が感じられる。
 その影はみるみるうちに高さを増し、大きな波のように迫ってきて。

「に、逃げて!」
「ななな何なの⁉」
「ヒロ・ハマダさんのマイクロボットだね!」
「ベイマックス!何してるんだ!」
『走れません』
「ノロすぎだよ!」
「早く!急いで!」

 カチャカチャと迫りくる音を背に受けながら、ヒロがよちよちあるきのベイマックスの手を引き、オルトが後ろから押す。外から鍵のかかった扉を蹴破ろうとイデアが奮闘するもビクともしない。

「ダメだ!拙者みたいな引きこもりには無理!」
「あっちだ!」

 扉を諦め、別の道を探す。と同時にマイクロボットの波が扉に激突した。間一髪だ。しかしなおも引きずり込もうと手を伸ばしてくる。

「こっち!」
「早く早く!」
「がんばって、ベイマックスさん」

 ベイマックスは高速移動できるような造りではないため、押したり引いたりしながら必死で走る。息が上がって喉が痛いほどだが足を止めることはできない。すぐそこまで迫ったマイクロボットが今にも飲み込もうと押し寄せてきているのだ。
 別の空間に出て扉を閉めても小さな隙間から次々と現れ悪夢のようにその数を増やす。とことん追われて弾き飛ばされ、その先に見えたのは人の影。
全身を黒に包まれた男のようだった。黒いコートがマイクロボットの動く風圧でふわりとはためき、彼が顔面に着けた白いお面がやけに不気味だった。
 ヒロは一瞬、目が合い時が止まったような感覚になったが。

「窓だ!」
「ヒロ・ハマダさん!」
「う、うん!」

 足場の向こうの窓に全速力で駆ける。

「えッ嘘!」

 しかしベイマックスの巨体がつかえてしまう。男とマイクロボットがすぐそこに迫ってきた。

「押して押して!」
「出てよ!ッうわ!」

 びくともしないベイマックスを3人でギュウギュウに押し込んだ瞬間、ベイマックスは一回転して前後が逆転、その勢いでヒロが外に投げ出されてしまった。ベイマックスにつかまってはいるが長くはもたないだろう。

『ヒロ?』
「ヒロ・ハマダさん!」
「やばっ!来た来た来た!」

 ベイマックスが頭を傾げているその間にマイクロボットが迫る。大量に押し寄せるそれはもはや躱すこともできない。
 オルトが咄嗟にイデアを抱え、そのまま全員押し出され。

 勢いよく宙に投げ出された。

「ウワーーー!!!」

 オルトはイデアを抱えたまま地面スレスレで減速して着地。ヒロはベイマックスがクッション代わりになった。跳ね返って再び宙に投げ出されてしまったが、オルトが危なげなくキャッチして事なきを得た。

「バイタルサインが乱れているよ、きっとビックリしたんだね。怪我は無い?ヒロ・ハマダさん」
「あ、大丈夫その、ヒロでいいよ」
「え?」
「名前。ヒロでいいよ、長いし」
「うん、分かったよヒロさん!」
「『さん』もやめて!なんだかムズムズするんだ」
「むずむず?」
「ちびっ子二人!早く逃げよう!」

 イデアがほんわかしているオルトとヒロの手を引き、ヒロがベイマックスと手を繋ぐ。「保育園かよ」とイライラしながら、運動不足でプルプルする足を引きずるのだった。