お芋さん太郎
2022-07-26 21:11:55
38092文字
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僕のヒーロー

#ツイステ×映画ベイマックスのクロスオーバー
#シュラウド兄弟
#設定捏造
#オリキャラ・モブキャラ
#爽やか読後感
#最後にオマケあり





 クレイテック社の事件から数か月後、サンフランソウキョウにて。大通りを人とぶつかりながら一人の男が走る。帽子にサングラス、手には銃と大きなカバン。見るからに銀行強盗だ。

「行かせないよ!」
「観念しな!」

 その実、本当に銀行強盗。しかし彼はすぐに行く手を阻まれる。
 黄色い高速移動のヒーローが前方に、後方からは緑のヒーロー。連日テレビや新聞を賑わせている奴らだ。
 男がチッと舌打ちを残して右に曲がると怪獣のような着ぐるみ男が火を吐き、左に曲がれば水色の液体が足を滑らす。赤い巨体がと青い炎が空から舞い降り、男はそのままあっという間にご用となった。

「今回も良いチームワークだったな!」
「この調子よね!」
「オルトもいつもありがとう、でもこんなに頻繁に来て大丈夫?」

 チーム全員でハイタッチを交わし、健闘をたたえ合う。ヒロがオルトに聞くと、オルトは「大丈夫」とにっこり笑った。

「実は、僕の部活の先輩のお友達がこの近くに別荘を持ってるんだ!その敷地内では何故か魔法が使えて、鏡も繋がってる。それを使わせてもらえることになったから、前より行き来に時間がかからないんだ」

 オルトが「学園長には兄さんから説明してあるから許可ももらってるよ」と続ける。
 先輩のお友達はボーテの一言で快諾してくれたし、学園長は最初こそ渋ってはいたものの、良いことをしたら積極的に学校名を出すこと(悪いことをしたらその限りではない)を条件に承諾した。情報を武器に脅すなどイデアはしていない。断じて、していない。
 オルトの答えに納得した面々は、言葉の端々から感じる文化の違いに目を白黒させた。

「鏡で移動って見たことも無いけど」
「やっぱり魔法もすげーよな!」
「体験してみたいね」
「今度こっちにも遊びにおいでよ。新しいベイマックスさんも!」

 ベイマックスはあれから華麗な復活を遂げた。最後のロケットパンチにはタダシのディスクが仕込まれており、後日それに気が付いたヒロが新たに身体を作成したのだ。
 ほんの少しの間行動を共にしただけだったが、ベイマックスも確かにヒーローとしての仲間だった。だから彼の復活はチーム全員にとって喜ばしいことだった。

「あ、そういえば今日はこれから部活の集まりなんだ。じゃあ僕、行くね!」
「おう!気を付けて帰れよ~」
「またね!」

 手を振り、オルトは踵を返した。
 ハント家の別荘までほんの数分、鏡をくぐってあっという間に学園だ。何時間もかけて飛んで移動したあの頃が嘘のように思えた。
 部活だから、カレッジ・ギアに換装し直す必要がある。オルトはイデアの部屋へと急ぎ足で向かった。

「兄さん、入ってもいい?」
「お、オルト?エ、ちょっと今日は早くない?あ、部活って言ってたっけ。ちょっと待って、まだ駄目、っと、ギャ!」
「兄さん⁉ごめん、入るよ!」

 慌てた様子の兄の悲鳴にビックリしてオルトが部屋に入ると、目を疑う光景が広がっていた。
 イデアが、ベイマックスの腹に顔を突っ込んでいるのだ。
 きっとイデアはつまずいて転んだんだろうと予想はつく。しかし問題はベイマックスだ。先ほど別れたばかりなのにどうしてここにいるのか。

「これ、どういうこと?」
「え~っと、その、これは………召喚しますた」

 バツが悪い様子でモジモジと言うイデアに、オルトが小首を傾げた。

「あっちで魔法は使えないんじゃあアッ、ヒロに連絡しなきゃ!きっと困ってる」
「待って待ってオルト!誤解だよ、誤解!」

 混乱していたオルトだったが、ベイマックスの所有者の存在を思い出し、弾かれたバネのように動き出す。イデアはワタワタと慌ててそれを止め、手でベイマックスを指し示す。彼は稼働スイッチが入っていない様子で、静かに頭を伏せたままだ。

「彼は『前の』ベイマックスだ」
「亜空間に投げ出された、あのベイマックスさん?」
「そう、そのベイマックスさん」
「嘘でしょ、どうやって?」

 クレイテック社の事件の日、キャラハンの娘アビゲイルを救うためにヒロとベイマックスはポータルの中へと飛び込んだ。しかし戻って来たのはヒロとアビゲイルの二人だけ。ベイマックスはスラスターが故障し、ヒロとアビゲイルを確実に救うために彼だけが亜空間へと残されたのだ。壊れたポータルはもう二度と開かず、ヒロの相棒は永遠に出てこられなくなった。
 誰もがそう思っていた。
 イデアがどこから話そうかとウンウンうなり、やっとのことで口を開く。

「そもそもワンダーランドで魔法が使えないのはこの惑星の特殊な電磁波のせいなんだ。でも亜空間なら?星の磁場には影響されない。だから

 魔法でアナログのノートを呼び出した。オルトがパラパラとめくると、どのページにも文字や数式や魔法陣がみっちり書かれている。
 オルトの知らない公式ばかりだ。
 最後のページ。オルトにも理解できるシンプルさで、それでいて綿密な計算のもとに成り立っているだろう、まったく新しい魔法陣が書きなぐられていた。
 亜空間に繋がる陣だ。

「あの空間は僕らが手出しできる領域だ」

 ポカンとした顔のオルトに、言い切ったイデアが口角をニヤリと吊り上げた。

「兄さん、すごい」
「フヒ、知ってるw」
「ヒロに知らせなきゃ」
「待ってオルト!待って。いいんじゃない?知らせなくて」

 イデアが長い髪を揺らしてオルトを止めた。

「でも、ベイマックスはヒロのでしょう?」
「そうは言うけどね、ヒロはもう新しいベイマックスと新しい人生を歩んでるわけで、とっくの昔に別れた元カレが今カレの前にいきなり顔を出しても修羅場にしかならないというか、タダシの研究に口出した拙者にもベイマックスを所有する権利はあるというかなんというか

 オルトはやっとイデアの真意が掴めた。どおりで言いにくそうにしていたわけだと納得し、キュッと眉を吊り上げる。

「兄さんただベイマックスをいじってみたいだけでしょ」
「ん」
「ダメだよ!連絡だけでもしておかないと」
「拙者が責任もって面倒みるから!」
「ダメ!」

 駄々をこねるイデアを突っぱねるオルトだが、イデアはそれに屈しなかった。これではどちらが兄かわかったものではない。
 イデアが、チラリと時計を気にしたオルトに気が付く。

「オルト、そんなことしてるヒマないでしょ。部活の集まりだって言ってたよね。遅れたらヴィル氏は怖いんだから。さあさあ換装完了、ハイ行ってらっしゃーい!」
「もう!兄さんってば!」

 イデアがテキパキと流れるように強引にオルトの換装作業を行い、オルトは口を挟む間もなく部屋を投げ出されてしまった。こういう時に無駄に張り切るのがイデアなのだ。
 オルトは頬を膨らませ、寮の廊下でプリプリと怒る。

「喧嘩か?オルト」
「あ、ダミアン・ホーキンスさん。こんにちは」
「はい、こんにちは」

 声をかけたのは短い金髪が爽やかな、イグニハイド寮2年のダミアン・ホーキンス、通称ホークだ。彼は寮で一番のドローンの名手で、彼自身も飛行には自信があるためマジフト部に所属している。陽キャともそれなりにコミュニケーションが取れるため、イグニハイドには無くてはならない貴重な人材でもある。
 この廊下の奥には寮長室しかないため、彼がイデアに用事があるのは明白だった。

「兄さんに何か用だった?」
「研究用に新しいパーツの購入申請に来たんだけど、もしかして寮長いま込み入ってる?」
「そうだったんだね。込み入っているというか

 そこまで言ってオルトは一瞬、ホークにすら気づかせないほどの僅かな時間、ニヤリと彼の兄によく似た笑みを浮かべた。そしてすぐに悲し気に眉を八の字にし、弱弱しい声でホークへ語る。

「いま兄さん、僕に内緒で連れ込んだふわふわマシュマロボディさんに夢中で」
「え?ふわ?マシュ?」
「体の全部を細部まで確認するために大興奮しているから」
「カラダ確認
「忙しくて対応できないと思う。3日くらい」
「3日3日!?」
「ごめんね」
「いや、ちょっと待て、オルいやオルトに聞くことじゃないないや、嘘だろ寮長
「じゃあ僕、部活だから。またね」
「裏切り処さねば

 オルトが立ち去った後も、ホークはその場で呆然と立ち尽くしていた。しかしすぐに情報は巡るだろう。研究に没頭している3年生や、部活に励む2年生、宿題やレポートに追われる1年生。人々の身体に血が巡るように、隅から隅までこの情報がいきわたるはずだ。
 悠々と廊下を進むオルトが耳にしたのはそれぞれの部屋から聞こえる阿鼻叫喚。趣味の悪いBGMにオルトはニコリとほほ笑んだ。

「どうだ兄さん、仕返しだい!」

 イグニハイド専用スレが大炎上し、すぐに寮生のほぼ全員がイデアの部屋に押し掛けたのは言うまでもない。