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吾妻
2021-10-31 17:49:07
112283文字
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戦争と平和
はるか昔に運営していたSO3夢サイトの、更にオレ設定を元にした三次創作(未完)。自分で読むためにもってきました。ほぼオリキャラ若手漆黒兵から見た戦争。
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悪魔【あくま】
――
残虐非道で、人に災いをもたらし、悪に誘い込む悪霊。また、そのような人間。
9.ディアボロ/Diabolo
「悪魔だ!」
拳が叩きつけられ、テーブルが揺れた。
「あんなの悪魔の力としか思えない! あいつら、やっぱりバケモノだったんだ! あの力で、俺たちを
――
この国を、滅ぼすつもりなんだ」
フォスは、詰所の端でその言葉を聞いた。
夜半の、交代制の、見張り。
テーブルの上に置かれたランタンの炎が、人々の影を奇妙に引き延ばす。
足元まで伸びて、招くように揺れるそれを、じっと見つめた。
シーハーツが、戦場に新兵器と思しきものを投入してからというもの、アーリグリフに傾いていた戦況は、一気に覆された。
アーリグリフが最も恐れていた、施術の力。
シーハーツ王族の血が伝える、摩訶不思議な能力。
得体が知れぬ、だから恐ろしい。秘術であるから、攻略法がわからない。
不可思議な力を使う国に、それでも戦端を開いたのは、ある種の楽観があったからだ。
"施力は、シーハーツ王家の血を引くものにしか伝わらない"。
しかも、濃度がモノを言う。
現女王などは素養も血筋も抜きんでていて、有機物に宿る施力の動きを、その目で捉えられるほどだと言う。
しかし、いくら王族とはいえ、一握り。女王の懐刀であるクリムゾン・ブレイドなどは強力な施術を使うとも言うが、所詮戦など物量でするものだ。
ひとりふたりなら、押し勝てる。
けれどそれが、量産が可能な兵器になったとしたら?
主戦派は叫ぶ。そんなもの、まだ完成しているかどうかもわからない。取るに足らぬ。
そんなもの、見ていないから言えるのだ。
あの力を目の当たりにしたからわかる。
シャレにならない。
うつくしくて、あまりに無慈悲な光だ。
一瞬で、なにもかもを焼き尽くす。
その恐ろしさを肌で味わった者たちが、『悪魔』と呼びたがるのも、理解できる。
抵抗の余地が、あるのだろうか。例え我々に、ゲート大陸一の軍事力があり、誇り高き三軍を持ち、竜の力があるとして。
戦に勝ち、そして生き残ることができるのか?
漣のように押し寄せた不安は、あっという間に兵士たちを飲み込んだ。
戦意と士気を押し流し、動揺だけを残した。
「でも、本当に兵器を作ってるのかどうか
……
」
気の弱そうな男が、か細い声を絞り出す。うろうろと視線を泳がせ、詰所のなかに立ち込めた不穏な空気に、首をすくめている。
「バカ野郎! 王都の騒ぎ、知らないのか!?」
どすん、ともう一度、拳がテーブルに叩きつけられた。
「謎の物体が空から降ってきたって話だろ? 何でも、グリーテンの技術者が乗っていたとか」
「しかもそいつらをみすみす、シーハーツに奪われたって話だ! どうしてあいつらが技術者を欲しがる? 新兵器を作っているからだ。グリーテンは謎の多い国だが、技術力は飛び抜けていると聞くからな」
「技術を手に入れて、新兵器が量産できるようになったら? 更に、空でも飛んだらどうする?」
「
……
一気に分が悪くなるな」
「いくら施術士の力が強力で、隠密どもが身軽でも、アーリグリフにはドラゴンの力があった。空からの攻撃が可能なら有利になる。相手へのプレッシャーにもなるだろうしな」
「
……
施術兵器は飛び道具だ。ドラゴンが狙われたらヤバい」
「はっ、疾風の野郎ども、いつもデカい面していたが、そう踏ん反り返ってもいられなくなったってことか」
「お、おい
……
そんな話、大声でしたら
……
」
「構うもんか。どうせ漆黒と疾風はソリが合わねぇんだ。団長同士が犬猿の仲だろうが。そもそもこんな夜中に、お貴族様がわざわざこんな辺鄙なところに来るかよ」
表がにわかに騒がしくなったのは、そのときだった。
兵士たちは口を噤み、息を殺して腰を浮かす。ひとりが、見張り窓から顔を出し、誰何した。
「何者だ。このような時間に何用か?」
「俺の姿も見忘れたか、馬鹿者め!」
叩き返されたのは、低く野太い声だった。
その声には聞き覚えがある。見張り窓から外を窺った兵士が、顔色を失くして居住まいを正した。
「も、申し訳ございません、シェルビー様!!」
フォスは、なにが起こったのかわからぬうちに、慌てた先輩兵に首根っこを掴まれ、詰所から引きずり出されていた。そのまま、入口の傍まで連行され、闇におぼろげに浮かぶ、屈強な影を迎える列にくわえられる。
やがて、ずしりずしりと、重量感のある足音が近づいてきた。
漆黒兵の一団だった。きっちりと兜まで装備したその姿は、闇とほとんど同化してしまって、遠目には見えない。ただ時折、よく磨かれた鎧に松明の明かりがぬるりと跳ね返る。
身のこなしに隙がない。おそらく上級兵だ。
そして、先頭を歩むのは、岩のように鍛え上げられた体躯を持つ男だった。
(副団長
……
)
勿論フォスも、何度も見たことのある男だった。
平素ほとんど表に出てこない団長よりも、よほど馴染みのある顔だ。漆黒騎士団副団長、シェルビー。
こんな夜更けに、どこへ行っていたのだろう?
「ご無事の帰還、何よりです!」
「うむ。留守の間、変わりはなかったか」
先輩兵が背筋を伸ばして敬礼をし、一瞬遅れてフォスも倣った。
うなずき返すシェルビーは、アルベルよりも格段に団長らしい振る舞いをする。
『シェルビーは、団長の座を狙っている』。
もはやそれは噂の域を越え、漆黒内での一般常識になっていた。
確かに、修練場をはじめとして、漆黒を取り仕切っているのはシェルビーである。アルベルが自発的にやりたがらないことに加え、長の座を狙うシェルビーが、自ら買って出るからだ。
剛腕のシェルビーと呼ばれるこの男は、叩き上げで今の地位を得た。根っからの武人気質で、よく猪に例えられる。曰く、直情型で融通が利かぬ。
元来漆黒自体が、そのような男どもの集まりであるから、実のところシェルビーの豪胆さは、得体の知れぬアルベルよりも部下に好かれているように見える。
しかし、この副団長の、何事も腕力で押し切ろうとする強引さを、疎ましく思う者もいないわけではない。
アルベルへの評価と同じように、素直に上官として好かれ、讃えられているわけではなかった。
フォス自身、あまり得意な人物ではなかった。この男の振りかざす、いっそ原始的なほどの猛々しさに、どうしても気後れしてしまう。
シェルビーは、自分の信念や欲望を、包み隠したりはしない。
よく言えば裏表がなく、あからさまに言うなら、謀や駆け引きができない。すべて顔や態度に出てしまう。だからこそ、シェルビーがアルベルを疎ましく思っていることが、フォス程度の下級兵にも筒抜けなのだ。
たぶん、隠すつもりもないんだろうけどね、とロイあたりは肩をすくめていたけれど、機嫌すらも筒抜けになるから、側近の部下たちは気苦労が絶えないとも聞く。
そんなシェルビーが今宵は、一目でわかるほど上機嫌だった。
珍しいことだ。近頃は戦況の悪化も相俟って、基本的にご機嫌斜めだったはずなのだが。
「松明と警備の数を増やせ!」
じっとりと、夜闇に暗く沈んだ修練場の壁を見回して、シェルビーが声を張った。
元来は古代の砦である。あちこちにアーリグリフ軍の旗や装飾用の鎧がが飾られてはいるが、壁面の装飾や石像などは太古のままだ。等間隔に設置された松明が、うつくしい女性像の無機質な白さを際立たせる。
「ネズミ一匹、見逃さないように目を光らせろ」
揺れる炎を眺めるシェルビーの横顔は、獲物を前に舌なめずりをする獣のようだった。
「
……
一体、何が」
「とっとと歩け!」
「
……
う、く!」
女の声がした。事態を飲み込めずにいた見張り兵たちは、いっそう混乱した。
どうしてこんなところに、女がいるのか?
シェルビーの部下が、篝火の明かりの元へ、その何者かを引きずり出す。
後ろ手に戒められた人影が、ふたつ。
若い女だった。特徴的なその装束は
――
「シーハーツの、隠密!?」
「ああ、しかもあの、クリムゾン・ブレイドの直属の部下らしい」
息を飲む見張り兵に、シェルビーの部下のひとりが下卑た笑いを浮かべた。
「グリーテンの技術者と行動を共にしていた
――
な」
「こんなガキみてぇな娘が、ですか?」
見張りのひとりが、薄ら笑いを浮かべて捕虜に歩み寄り、しかしすぐに、怖じて後ずさった。
下がった先輩兵の肩越しに、紫の髪を持つ娘の顔が見えた。
殺意に満ち満ちた、赤い双眸。体格では圧倒的にこちらが優位のはずなのに、足がすくんだ。
「おいおい、あんまり刺激するなよ、大事な人質だ。捕まえるまでも散々てこずらせてくれたんだぜ」
「へえ
……
悪魔ってやつは、随分キレイな顔をしてるもんなんですねぇ」
あからさまな揶揄に、兵士たちが笑う。シェルビーが一際高い笑い声をあげた。
「丁重に扱えよ、シーハーツとの取引材料だ。技術者どもを確保するまでの人質だがな。もしもそれ以外に潜り込むネズミがいたら、一匹残らず殺せ」
「あの! 団長は
……
?」
大股に修練場の奥へ踏み込もうとするシェルビーの背に、ひとりが声を投げた。
ぴたりと足を止めたシェルビーが、肩越しに振り返る。
「
……
アルベルのやつがなんだ?」
返ってきたのは、低い声だった。
炎を受けて、シェルビーの双眸が剣呑に光る。
「い、いえ!
……
この件を、ご存知なのかと。その、団長が
……
」
「"団長殿"は」
殊更慇懃な猫なで声で、シェルビーが口の端を歪めた。
「まだ所用がおありのようで、陛下のお膝元におられるさ。俺が指揮を執る」
「
……
」
「
……
不満か?」
「い、いえ!」
「ならば、さっさと散れ!」
「はっ!」
片手で部下を追い払うそぶりを見せ、今度こそシェルビーは修練場の奥へ消えた。
*
「正直、無駄だと思うけど」
グラナ丘陵の半ばまで出たところで、ロイがぼそりとつぶやいた。
夜明けの光に浮かび上がる修練場を振り返る。
内も外も、虫一匹通さない警備体制だった。人質を取り戻しにくるであろう、シーハーツの隠密に備えるために。
「
……
無駄?」
「罠として、見え透いてるよ。リスクが高すぎる。よほどの重要人物でもない限り、切り捨てられるはずだ。軍人に、人質としての価値なんてない」
「
……
」
「いくら慈悲深いアぺリス教の教徒たちだと言ったって、何もかもに情けをかけていたら、勝てるものも勝てなくなる」
「
……
そんな、もんか」
戦時は、何よりも国益を優先すべし。
フォスも、訓練中にそう教え込まれた。
捕虜など屈辱の極みである。国の不利益になるのであれば、自ら舌を噛むほうがマシだ、と。
「僕なら、この状況で助けを期待はしないな」
「うん
……
」
確かに、捕えた隠密がどれほど有能であろうと、戦の行方を決定づけるかもしれぬ人材との交換に、敵は応じないだろう。
深く考えるまでもない。
大のために小を切り捨てる。おそらくそれが、最も正しい選択だ。民を守るとはいっても、国が立ち行かなくなればそれも叶わない。
わかる。けれど
――
「このあたりにはいないな。とりあえず戻ろうぜ」
先導していた先輩兵のひとりが、まるで警戒をしていない緩慢さで振り返った。
別に、彼が怠惰なわけではない。漆黒兵たちには油断があった。ここは本拠地で、圧倒的に、優位だからだ。
しかし
――
ごう、とその兵士の背に、火球が炸裂した。
一瞬で視界が紅蓮に染まり、フォスとロイは後ずさる。
鎧はすぐには燃えない。けれど、物陰から飛び出してきた影が、炎を受けた兵士の背をあっけなく蹴り飛ばす。
兵士の体はそのまま崩れ落ち、黒い影は宙で体を返して、猫のように着地をした。
「て、敵しゅ
――
」
ロイが声を張ろうとした。しかし、一気にロイの頭を飛び越えて背後に回ったその影が、ダガーの柄をロイの項に叩きつける。
「そこを退きな!」
赤い髪の先と襟元のマフラーをたなびかせて、"女"が怒鳴った。
女のまとっている装束は、昨晩見た人質のものとよく似ている。
「シーハーツの
……
!」
フォスは、兜の内側で両目を瞠った。
隠密
――
動きが速すぎる。以前にカルサアで対峙した少女とは、格が違う。
真正面からぶつけられる、敵意のない殺意は同じだ。しかし、気迫が違っていた。
手に掛けた少女はまるで人形のようだったけれど、目の前の女には、生きものの熱がある。
「
……
まさか」
「退く気はないってわけかい? 悪いけど、時間がないんだ。寝ててもらうよ!」
低く構えて、隠密が地を蹴った。次の瞬間、懐に鋭い殺気を感じて、フォスは反射的に剣を抜いていた。
顔の前に掲げた大剣が、隠密のダガーをかろうじて阻む。
初めから、喉を狙って来ていた。鎧の隙間から、やわらかい生の肌を。
「どうして
……
! あの隠密たちを、助けに来たってのか
……
!?」
リスクが高すぎる。軍人に人質の価値はない。
そのぐらい、フォスにもわかる。わかっているのに。
女は恐ろしく手練れだ。昨晩見た娘たちより、おそらく格上に違いない。
そんな人間が、こんな罠にどうして!
「答える義理なんてないね! あの子たちを返してもらうよ!」
体重も、鎧の重量もあるのに、呆気なくフォスは押し返された。
よろめいたフォスの腰を、女のしなやかな脚が横薙ぎに蹴り飛ばす。
背から地面に倒れ込み、したたかに頭を打った。
一瞬意識が遠のき、手から大剣が離れたのがわかった。
詰めた息を吐き出すと、仰向けに倒れた自分の傍らに、人の気配がある。
かすむ視界に、赤い髪が見えた。
「
……
中に入ったら、死、んじまうぞ」
口の中に、血の味が広がる。どこか切ったのかもしれない。
正直息をするのも苦しかった。けれど、口が勝手に動いた。相手は敵で、侵入を阻まねばならぬ相手だというのに。更に今、殺されるかもしれないというのに。
「そんな脅しで怯むとでも?」
「脅しなんかじゃ
……
!」
「たとえ罠でも、あの子たちを死なせやしない。
……
あたしが言うのもなんだけど、あんた、軍人向いてないよ」
次の瞬間、女の肘が振り下ろされ
――
腹部に強い衝撃を受けて、フォスはとうとう意識を手放した。
【つづく】
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