はしびろこう
2026-01-29 21:30:58
25104文字
Public
 

メカクレ特異点

メカクレ特異点再録
アシュヨダと、ちらっとパーバソが香るかも
バーソロミュー、アシュヴァッターマン、ドゥリーヨダナ、カルナ、岡田以蔵、最後にパーシヴァルがそっと出てきます

メカクレ特異点

 「あんな素敵な船団を率いたことはないが?!」
 
 特異点について、バーソロミュー・ロバーツの第一声である。ここにきてしばらくは感動で言葉を失っていた彼が、港で降りてきた船乗り――否、自分の生前率いていた海賊たちを望遠鏡でのぞいての言葉であった。
 海賊船から船員が降りる様を見るが、全員メカクレ。片メカクレに両メカクレ、また髪が伸び切っておらずメカクレになっていないものもいるが、誰もがメカクレを目指しているのは明白。
 
 そしてこの街について、右を見ても左を見ても、老いも若きも男も女もすべからく、隠せるものは皆メカクレ。
 
 世はまさに、大メカクレ時代。

 ▪︎

「微小特異点?」
「そう。1720年――カリブ海近郊の港町だ」
 ははぁ。今回レイシフトに適性があったサーヴァントに目をやる。
 バーサーカーのドゥリーヨダナ、ランサーのカルナ、アーチャーのアシュヴァッターマンのマハーバーラタのカウラヴァメンツ、そしておそらく時代の船旅要因、ライダーのバーソロミュー。そしてアサシンの岡田以蔵の5人である。
「ああ、それで私が選ばれたのかな」
「君の生前の庭だろうからね、現地での困りごとは任せたよ」
「ああ、大船に乗ったつもりで任せておきたまえ」
「そん時代にもうまいお酒があるとえいねや」
「ふふ、メカクレを肴に私も一杯楽しもうかな」
 微笑みながら距離を詰めるバーソロミュー。ひく、口の端をゆがめて鯉口に手をかけた以蔵さんの手を掴み止める。
 すっかり忘れてたけど以蔵さんもメカクレ判定が入るのか。
 後ろにいるアシュヴァッターマンがドゥリーヨダナの髪を耳にかけてやっている。
 オールバックを検討するべきか、の顔であるが、実際はアシュヴァッターマンも前髪が長いので守備範囲であろうことは黙っていてあげたほうが幸せだろうか。
「マスター、こいつ連れてって平気か?阿片でもやっちゅーがやないか?」
「ごめん以蔵さん、その人それが通常運転なんだ」
 しあしまあ、それさえ差し引けば、よく通る声、そしてゆったりとした優美な立ち居振る舞い。
 海賊稼業というよりオペラ歌手と言っても差し支えないような動きをするが、彼はあの時代きっての有名海賊である。
「さて、細かく必要なことは現地で調べるかバーソロミューに聞いてもらうとして、少しだけ時代背景の情報をいれておこう。」
 ダヴィンチちゃんが細い指先でポンポンと資料を出してくれる。
 産業革命前夜。三角貿易で、奴隷貿易による労働力と原材料、絹織物が海路において活発に行き来した――海賊時代の斜陽期である。
 1970年は、ちょうどインドの綿花より織られ、風通しもよく軽く、色鮮やかで華やかな刺繍が施されたキャリコという布が東インド会社より安価で出回り、英国の織物産業を圧迫するという理由でキャリコの輸入禁止令が出た年だ。
 ここから英国内で安価な布の需要爆増により機械化、産業革命を駆け上り、三角貿易は崩れていく。その一角を担うアメリカ大陸近郊で何があるのか、それの調査と解決に俺たちは乗り出した。

 ▪︎

 ――乗り出した、わけなんだけど、レイシフト先にて秒速で謎が解けてしまった。
 レイシフトして街に降りたあと、視界に収まる人間全てがメカクレであり、任せておきたまえ!って大見得きったバーソロミューが餌を与えられすぎた猫なのか宇宙猫なのかわからない顔をして固まってしまった。
 とりあえず時間が遅いので、今夜の宿をとろうとした矢先、宿の受付のおばさまからの言葉である。
「お客さん旅行者?」
 魔術の認識阻害で、少しばかりの違和感は視界から外されるはずなのに気づかれてしまい、曖昧な笑顔を作る。
「おのぼりさんなのが、でてました?」
「いや、メカクレじゃないから」
 メカクレじゃないことによって地元民でないことが身バレすることある?
「三角貿易が行われている地域では気候が関係しているのか、メカクレは健康にいいってことが証明されてね。今この地域では空前のメカクレブームなのさ。だからメカクレじゃない奴がいたらそいつは旅の人か、奴隷船で売られてきたばかりの奴。だから滞在してる間だけでもメカクレにしときなよ」
 メカクレは健康にいいことが証明ってどんなコペルニクス的展開と研究が為されて着地したらそうなるのか。
 バーソロミューの口から出たトンチキ名言ではない。メカクレと気候により健康にいいと本気で信じている宿のおばさまからの言葉で、完全なる善意で前髪をそっと片側に寄せられた。
 俺の知らない常識が、ここにはある。
 もちろんおばさまもメカクレであった。
 
 いまだにばーソロミューは固まっているし、俺もその場で固まらなかったことを褒めて欲しい。
 なおほぼ石像と化したバーソロミューはカルナが担いで割り当てられた部屋まで階段で登ってやっている。
 夏から新しくできた友達を大事にしてるみたいでよかった。
 さて、と。
 ぶっ倒れては危ないので、バーソロミューをベッドに座らせる。
 他のみんなはさまざまで、全員が全員似たような髪で気持ち悪いな、を隠そうともしない以蔵さんとドゥリーヨダナ、個人の嗜好はかまわねえけどこれみんなやってるとさすがに不気味だな、のアシュヴァッターマン、カルナさんはいまだ固まって壁に斜めに寄りかかるバーソロミューを見つめている。猫ちゃんかな?
 どうしたものかな、と思いながらまどのそとをみれば、あっ、港に船がついたのが見えるよ!少しでも正気に戻すために言ったつもりだったのだが――光の速さで望遠鏡引っ掴んでのぞいてからの冒頭のセリフである。
 平地なのに声がこだましてきた。
 
 ――すごいな、これだけで誰が聖杯手に入れたのかわかる。
 
 間違いなく、この時代のバーソロミュー・ロバーツが聖杯を手にしている。

 .