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望月 鏡翠
2026-01-22 20:21:07
30877文字
Public
庭師は何を口遊む 霊山班
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やばい店に潜入捜査するパロ その2
自陣の二次創作/庭師通過済み前提/
https://privatter.me/page/696cf10600785
の続き
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取り押さえられた比叡は、地下に案内されると思っていた。
人を殺す設備があるならそこだろうし、この店にはただこの店で働いているだけのキャストも、ただの客もいるはずだ。人間を拘束しておいておくのはリスクが高い。
だが、連れて行かれたのは店舗の二階だった。
拘束はされていなかったが、常に銃を突きつけられており、彼らがいざとなればその引き金を引くことに躊躇いがないということは、知っていた。
店舗の中二階には、ホールを見下ろすことができる位置に、VIP専用の個室がある。店に通うようになってからまだ日の浅い比叡は入ったことがないから、霊山からの情報だ。
同じくらいの日数しか立っていないというのに、霊山は比叡よりもうまく店に馴染んでいた。
不仲を装っていたから店で会うことはほとんどなかったが、だからこそその情報はよく耳に入ってきた。気遣うふりをして、あの男はお前よりも金払いがよくいい客だ、それに対してお前はどうだと囁きかけてくる。
対抗心を刺激するつもりだったのだろうが、その噂話を聞く度に、比叡は彼が自分よりも安全な場所にいることに安堵していた。
彼ならば、うまくやる。自分よりも、もっと、ずっと。
比叡は結局ゲストとしてその部屋に足を踏み入れることはなかった。
扉を開けた後、部屋に蹴り込むように突き飛ばされて床に倒れる。
ローテーブルにぶつかり、手をついて体を支える。
視界に見覚えのある革靴があった。
「落札した商品と違うようだが?」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、眼帯で隠した片目が比叡を見下ろしていた。
霊山は比叡から視線を外すと、隣の黒服を見た。
「申し訳ありません」
慇懃無礼な態度で微笑む黒服は、自分たちが優位な立場にいることを疑わない。
俎上に載せた獲物の腹をこれから暴いて、もがき苦しむ様を楽しむつもりでいるのだろう。
人質を取り外部とつながる比叡すらも捕えた彼らにとって、これは悪趣味な解体ショーでしかない。
「新たに仲間に加わっていただくあなたへの最初のお願いです」
「俺は、すでにお前らに十分なものを支払ったはずだ。強欲は身を滅ぼすぞ」
仲間を前にしても、霊山の顔色にも声にも動揺は見られない。仲間でいても、時々その内心が読めずに戸惑うことがあるほどだ。
「あなたの支払いに対する品はもちろん用意しています。しかし、そこに案内する前に、一つ解決しなければいけない問題があります」
なるほど。地下に案内されなかった理由に、察しがついた。
懐に入れる前に、霊山を試すつもりなのだ。
捕えられた仲間にどんな反応をするのかを見て、信頼に足る相手なのかどうかを見定めるのだろう。
連れてこいと仲間に指示を出す。
呻き声が聞こえた。引きずるように部屋に運ばれてきたのが誰なのか分かって、比叡は咄嗟に顔を背けた。霊山ほどポーカーフェイスに自信がなかったのだ。
興味がない風を装ったあと、呻き声がようやく耳に入ったような顔をして、そちらを見やった。
後ろ手に手錠をかけられて拘束された上で、猿轡をされている。キャストとして働いているときの薄い服のままだったので、大きな怪我をしていないことは一目でわかる。口を塞がれたままなら、尋問もされていないのだろう。
拘束されたあとは体力を消耗するだけの抵抗を諦めたのか、ぐったりとしていたが、霊山と比叡の姿を見た瞬間に瞳に光を取り戻した。
二人がかりで押さえつけられ、椅子に体を固定される。
比叡が拘束されていないのは、抵抗しても簡単に制圧できると思われているのか、あるいは巩心が人並み以上に脅威だからなのかもしれない。
「昨晩、倉庫を荒らすネズミがでましてね。何事かと思えば彼だったわけですが、何か心当たりは? 比叡様は、親しかったのでしょう」
一応まだ、礼の形を取るつもりがあるらしい。人を床に這いつくばらせながら口にする敬称は白々しくていっそ笑えてくる。
「心当たりと言われても、僕には答えようがないな。彼は僕のお気に入りですが、それ以上のものではありません。店の中で起こったことは、そちらの責任では?」
「無関係。ならば、彼をどう処分するのかは、我々で決めさせていただいても問題ないでしょうか」
比叡に向けられていた銃が、巩心に向いた。
じわりと嫌な汗をかく。ここで撃つのか。いや、そんなわけはない。防音だって十分ではないはずだ。しかし、確信はない。リスクを取るわけにはいかない。
「困りますね、人のお気に入りを勝手に壊されては」
声が上擦った。
黒服は銃口を下げると、判断を仰ぐように霊山を振り返った。
「彼らが本当にただの客と店員なのか。それとも、よからぬことをする仲間なのか、どこの組織の人間なのか、確かめていただけますか? 彼らの尋問。それがあなたに任せる最初の仕事です。どう使っても構いません」
もしその行動に不審があれば、いつでも殺すつもりでいるのだろう。そのために彼らは部屋を戦える人間で固めている。
仮に銃を奪うことができても、切り抜けることは困難だっただろう。
緊迫した沈黙の中に、呆れたようなため息が漏れた。
「くだらんな」
事の次第を退屈そうに眺めていた霊山は、少しも表情を変えることなく、煙草に火をつけた。
「尋問の必要がどこにある。疑わしいから捕まえ、証拠を隠滅する手段があるから、銃を持っている。なら、そのまま殺せばいいだろう」
その答えは黒服の想定外であるらしかった。
「ですが、敵の正体を掴むチャンスをみすみす逃すことになりますよ」
「だから、その必要がどこにあると聞いたんだ。どの道この店は警察にも目をつけられている。拠点を移したいから、資金が欲しいという話だったんだろう。俺はそれに同意している。任せるというのなら、こいつらを消し、早いところ逃げればいいというのが、俺の答えだな」
黒服は黙り込んだ。
彼らは霊山を揺さぶるつもりでいた。そして比叡か巩心を尋問し、答えを得るつもりでいたのだろう。二人ともを切り捨てるという答えは、彼らの想定外だ。
それは、仲間だったら絶対に出てこないであろう答えだからだ。
黒服の沈黙を嘲るように、どうすると言葉を重ねる。部屋の人間を順に見回す霊山の顔には、少しのためらいも焦りも見えない。
代わりに、比叡が口を開いた。
「
……
それは、理不尽だ」
余計なことを喋るなと、後ろから押さえつけられる。だが、口を閉じなかった。
「彼が、侵入者だったとして、懇意だっただけで僕まで巻き込まれる謂れはないですよね」
「ならこいつだけ殺して、お前から口止め料でも払うか」
巩心を顎で示す。
比叡の顔を見て、霊山は唇を歪めて笑みをつくった。
「正直者だな。これが全ての答えだろう。この手の連中はくだらん忠義と仲間意識でがんじがらめだ。痛めつけたところで、まともな情報など吐かんだろうさ。使い所がないなら、始末すればいい」
黒服が霊山の耳元で何事かを囁いたあと、部屋を出て行った。
戻ってきた男は、普段はトレンチに小瓶を乗せていた。中に入っている真っ黒い液体は見たことがないものだ。
「試してみるのはアリだがな。どうする。命乞いでもするか、それとも美しき仲間意識とやらを見せてみるか。
……
だが、確かに本当にこいつが無関係だとしたら、哀れだな。生き残るチャンスをやろうか。ちょうど面白いおもちゃもある」
霊山は、トレンチの上にある小瓶を指差した。ちょうど五本。手作業で詰めたらしく中身は微妙に差があるものの、概ね20mlずつのサイズ感であるように見える。
「ここに毒薬がある。この小瓶一本で十分致死量だ。お前が飲まなかった方を、あの男が飲む。これでどうだ。無関係なら、そのまま席を立って帰ればいい」
「考える時間を」
「それは無関係ではないと、言っているようなものだな」
「僕にはあなたの提案に従う必要がありませんね。どうせ、殺すつもりでしょう」
「だとして、お前に拒否権があるのか? くだらん話に付き合わされて、俺は退屈しているし、機嫌が悪い。せめて興の乗る死に際を見せてくれたら
……
そうだな、末期の願いくらいは聞いてやるかもしれん」
身元不明死体の末路を思い出す。結局あの死体からは、この店につながる証拠を見つけられていない。毒の成分はわからない。解毒剤はない。
巩心を見る。うめき声は言葉にならない。名前を呼ばれたような気がする。
気づけば、比叡は笑っていた。
「
……
僕がこれを全部飲んだら、彼に手を出さないでください」
「ほう。
……
どうする。できるか? お前に」」
霊山が面白そうに声を跳ね上げた。
「
……
約束をしてください。僕がこれを全て飲んだら、あの子達には手を出さないと。それが確約されるなら見せ物にでもなんでもやってあげますよ。
あなたはそこで〝煙草〟でも吸いながらゆっくり見物していたらいい」
「ああ、約束してやろう」
それでいいなと周りの男たちに尋ねる。
腕を掴まれた。無理やり立たされると、ソファに体を押し付けられた。
「最期に、煙草をいただいても?」
霊山は肩を竦めた。それは、許可の意だったのだろう。
「駄目です」
懐に手を入れると、やり取りを静観していた黒服、比叡の手首を掴んだ。テーブルの上に押し付けられると、手にしていた煙草の箱が落ち、霊山のところまで滑って行った。
「この男は手癖が悪い。インカムもあのUSBもお前の仕込みだろう。小細工はなしです」
テーブルの上には、毒薬の他に霊山が飲んでいる途中だった酒が残っている。それを酒瓶を手に取ると、彼はためらいなくそれを比叡の手の甲に振り下ろした。
最初は、衝撃しか感じなかった。
だが、骨の折れる音を聞いた瞬間に、痛みが脳天まで突き抜けて体が跳ねた。腕を掴まれているから暴れることもできず、体を捻る。全身から汗が吹き出した。
巩心の声が大きくなった気がしたが、意識を繋ぎ止める縁に、無意識でその声を求めただけかもしれなかった。
息を求める。体が言うことを聞かない。痛みに慣れるのに時間がかかり、歯を食いしばると生理的涙が押し上げられてきた。
「これからショーが始まるのに、壊すなよ。離してやれ」
霊山が呆れた顔をする。
落ちた煙草の箱を拾うと、中から一本取り出す。
差し出された、それを唇に挟む。
懐からジッポが探り出されて、煙草に火がついた。息が乱れていて、吸う余裕はなく、結局咥えたあと吸うことはできずに、テーブルに落とした。
「ほら、つまらんだろうが。どうした、こいつに毒を飲ませたくない事情でもあるのか?」
黒服は霊山を睨んだが、瓶の口を開くと比叡の前に並べた。
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