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望月 鏡翠
2026-01-22 20:21:07
30877文字
Public
庭師は何を口遊む 霊山班
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やばい店に潜入捜査するパロ その2
自陣の二次創作/庭師通過済み前提/
https://privatter.me/page/696cf10600785
の続き
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死ぬことも覚悟はしていたが、そうなっても証拠は集まり神童が動けるようになっている。あの状況から意識が戻って、現場のサポートができただけで奇跡のような幸運だった。巩心が連れ出してくれたからだと聞いている。
ゼロの仲間が全員無事に戻ってくるのを見届けた後、そのまま意識が落ちた。
起きてくださいと何度も揺さぶられ、耳元で鳴る大声を振り払うように泥に沈む意識を何度も引き上げた。そもそも何が起こるか想像してヤマを張っていたこともあり、輸血の準備も含め諸々を整えられた上での搬送だった。
結果、幸いにも生き延びた。
病院のベッドで、記憶の連続性が途切れた状態で目が覚め、口に管やら何やら突っ込まれている状態に動揺し、看護師に面倒をかけた。
処置の際に喉に傷がついたし、そもそも毒で焼けている。意識が戻ったのなら、しばらくは声が出ないだろうと言われていた。
褒められると思っていたわけではない。比叡が死んでも自分たちが助かればいいなどと思う人は、チームの仲間にはいない。むしろ仲間がそれを誰よりも望まないことは知っていた。
それでも、誰かを選ばなければいけないのなら、比叡は自分を選ぶ。これはただのエゴの押し付けだ。
喉の性質から言って、口にしたら声が出なくなることは分かっていたから、事前に合成音声で発話ができて無線も使えるプログラムを用意しておいたのだが、それが仲間を怒らせることになるのは想定外だった。
片手を折られた状態で、ベッドで横になったままキーボードを打ち込むので、言い訳もままならない。いっそフリック入力にしようかとも思ったが、指先の細かい動きを制御するのはまだ難しかった。
意識を取り戻したと聞いて見舞いに来てくれた仲間は、各々無傷というわけではなかったが、重症者はいない。
病室に入ってきた井伏が元気そうであることに安堵したのも束の間、その表情から怒りを見てとり思わず目を逸らした。
「どうしてこんな作戦通した。こんな無茶させるな作戦なんていくらでも変えりゃあええ。明治は替えがおらんのじゃぞ」
最終的には、怒りの矛先は一緒に来ていた霊山に向けられた。
入念な準備は、それくらい前から今回のことが起こることを予期していたことを彼らに知らせてしまった。
――
でも、あれが一番確実にみんなの安全が確保できたので。
ノートパソコンが平坦な声で比叡の言葉を代弁する。カーナビに似たどこかで聞き覚えのある汎用的な男性の声がする。
「お前の安全が担保されとらんかったじゃろうが⋯⋯賭けみたいな選択肢をとるな。お前が死んだら責任取らされて獄はクビ、よくて降格、ゼロも解散になるのわかっとるんか」
それに関しては、本当に申し訳ないと思っている。仲間を守りたいと言いつつ、霊山を巻き込んだ。仲間さえ生きてくれればいいというのは、比叡のわがままだ。だが霊山ならそこに必要な理屈を乗っければ、仮に身内に犠牲が出るような作戦でも実行の決断を下すことができるという悪い方面での信頼があった。
もちろん、全員が無事で仲間も救出、ゼロの立場も守られるのが一番いい。そうでないなら、刑事で亡くなったとしても、せめて生きていてくれればいい。
――
君たちが生きてさえくれればいい。
「じゃあ、俺も同じことをするぞ」
それだけは絶対に許容できない。
井伏を説き伏せる言葉が思い浮かばないが、だからこそ作戦の全容を知らせたのが今でよかったと思った。自分の存在を使って、捕まった仲間に人質としての価値を与えるなんて、延命工作でしかなくその選択肢が脳内にあれば誰でも切ることができるカードだ。
最終的に彼の怒りは、ベッドの上で喋ることができない比叡ではなく、作戦を承認した霊山に向いた。
「俺と明治で済むなら釣りが来るくらいだ。事実お前と山穂の安全は守られてるだろう」
当の本人はどうして怒られているのかわからないと言わんばかりの顔で、肩を竦めている。その胆力は羨ましいほどだし、そういう人だから、比叡が死にかけても顔色を変えずにやり遂げてくれるという確信があった。
逆の立場を比叡がやれと言われても、絶対に不可能だっただろう。
「お前の使い方はいつか取り返しがつかんくなる! 信じるのもええが、守ってやるのもお前の役目じゃろうが!」
「守ってはいただろう。明治の作戦の不確定要素は山穂を動かしてフォローした。そこまで言うなら、こいつならできるだろうと思っただけだ」
やはり巩心があの場で比叡を連れ出したのは、謀のうちだったのだ。
敵対を装っていたが、彼には手を出さないで欲しいといった約束が守られなかったことに対する不満はある。
当の巩心が病室の中に見えないのが、少し寂しくはあった。
彼の心からの願いを裏切った。きっと腹を立てているのだろう。
怪我をしているが無事だと聞いているから、ひとまずはそれでいいと思うことにしよう。
そのとき、視界の外にある病室のスライドドアが開く音がした。
医療関係者かと思ったが、のそのそのと無言で病室に入ってきたのは巩心だった。
目があった。無事のアピールに気楽に手を振ってみるべきだろうか。言葉を尽くして何か謝った方がいいだろうか。
決める前に、眉間に皺を寄せたあと、眉尻を下げて壁にもたれた。
彼の喉は動くだろうに、何も言わず俯いていた。
折れた指はギプスで固定されている。それ以外にも、傷があることは知っている。細かいものは交戦の結果だが、拘束から椅子の砕けた木片が刺さったとも聞いている。
――
怪我をさせて申し訳ない。
パソコンが喋る。
巩心が顔をあげた。
息を吸う。じわと体温が上がったのが分かったが、吸い込んだ息をそのまま唇を閉じて止め、しばらく何かを迷ったあと、そのままため息として吐き出してしまった。
「山穂が怒っとるのは、そこじゃないじゃろ」
井伏が呆れたように首を振る。
分かっていないわけではない
……
つもりでいる。
しかしこの件に関しては譲れない。同じことが起こったら、やはり比叡は彼らを最優先にするだろう。
――
必要なことでした。
――
死人がやむを得ないとしたら誰にするかを、僕は選んだだけです。
巩心が大股の一足で比叡の横に来る。
ベッドサイドに置いてあったラップトップがバタンと乱暴に閉じられる。
指を挟まれないように慌てて引く。
怒りを抑えている。何かを内側には抱えているが、言葉にはならないようで、大きく肩で息をしていた。
「それがほんまに、どうにもならんかったんなら、俺も山穂も受け入れる。全員で、全員が助かる作戦、考えとってもええじゃろ」
「死なせない手段は考えはするが、万が一からは逃れられないぞ」
比叡の代わりに霊山が答えた。
万が一を考えてしまう。仲間を信じきれない瞬間がある。それは比叡の弱さなのだろう。それでも考えずに取り返しがつかなくなるよりは、マシだと思えてしまうのだ。
パソコンを押さえつけるために、ベッドサイドに身を屈めた巩心の顔は、ベッドの上からでもよく見えた。霊山の言葉を聞いて、サングラスの向こうで、悲しげに眉尻を下げたのが分かった。
手を伸ばした。
撫でてやろうと思ったのだが、振り払われてしまった。
『どうしたらいいですか』
霊山に視線で訴える。パソコンを封じられてはいよいよ意思疎通の手段がない。顔を背けられたらおしまいだ。
「お前の反抗期はどうやって治ったっけ」
「誰が反抗期じゃボケ!」
脛を蹴り上げられ、霊山がどうして蹴られたのかわからないという怪訝な顔をする。
結局一言も発さないまま、病室から出ていく巩心を、見送ることしかできなかった。
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