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望月 鏡翠
2026-01-22 20:21:07
30877文字
Public
庭師は何を口遊む 霊山班
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やばい店に潜入捜査するパロ その2
自陣の二次創作/庭師通過済み前提/
https://privatter.me/page/696cf10600785
の続き
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もしものときのため、班員の装備一式を車内に用意しておいたことが幸いした。なぜか巩心は腹を立てていたが、折れた指は応急手当てだけして、現場に戻っていった。
交戦中なのか、それとも骨折が痛むのか、巩心の息は乱れている。
『大丈夫なんですか?』
その合間に、インカムの向こうから問いかけがあった。
笑いの代わりに、ゴボと喉から血が溢れた。無理やり胃に流し込まれた液体を吐き戻す。良くなっているのか、悪くなっているのか、比叡の知識では判断できなかった。
音が聞こえにくい。油断をすると眠りそうになる。それは眠りではなく死というやつなのだろう。
体を起こそうとすると、医者に押さえつけられる。喉を詰まらせないように、集中しろを言われるが意識を向けているのは、ここではない場所で戦う仲間の方だった。
今、自分が生きているのは、ついでのようなものだ。
防犯カメラから、霊山がいる位置を確認し、巩心に共有する。彼はマップが見えているわけではないから、サポートが必要だ。
なるべく敵が少ない道を見つけ、応援が到着するまで持ち堪える。
タイミングを合わせ、敵が使っている周波数に大音量の不愉快な高音波を流し込む。
比叡が毒を飲んだ時点で、もう目的は達していた。
警察が武力を行使するには、大義が必要だ。ゼロも然るべき理由がなければ、拳銃の携帯は許可されない。今回の捜査もかなり限定的な装備で当たる必要があった。
捜査員が、現場で連絡が取れなくなっている。
それだけでは、警察は武力を行使することができないのだ。
どこの誰に捕まったのか明らかで、相手が武装した組織であり、今現在命が脅かされているということが明らかになれば別だ。しかし、そう推理されるという状況証拠だけでは、まだ弱い。
公的組織は基本的に責任を避ける。今の状況では警察が武力で介入したことで、却って人命を危険に晒すかもしれないという判断が下されてしまうことは、想像に難くなかった。
しかし、敵は簡単に人を相手を殺すことができる組織だと知っている。今のままでは証拠を掴むことすらままならない。
つまり、今回の件で応援を頼むことができるのは、被害が出たあとだ。
身内の死体が上がれば、武力によって捜査員が傷つけられれば、相手が銃や毒物を持っていることが証明できれば、それを突きつけて組織を動かすことができる。
たった四人で、組織犯罪に対抗する方法はない。組織に対しては、組織の武力をぶつけるしかない。
組織を動かすために必要な死体を、誰のものにするのか比叡はずっと考えていた。
だから、霊山に今後の捜査の方針を相談するときに頼んだのだ。
「巩心くんが捕まった場合、僕をその仲間として密告してください」
「心中でもしたいのか?」
「違いますよ。生存の確率を高めるために必要なことです。これは延命工作だ」
密告者を口封じをする組織だ。
一番危険なのは、潜入している巩心や井伏で、捕まった時点で命が危ぶまれる。どこに捕えられたのかなどと悠長に探っている間に、殺されているか、そうでなくても情報を引き出すために拷問されるのだろう。
懐に飛び込んできた敵を捕まえたときの反応は、何通りか考えられた。
一、排除 通報者のスタッフを殺したときのように、まず口を封じる。
二、逃走 事件の事実を隠匿し証拠を消して、今いる拠点を捨てて身を隠す。
三、懐柔 身の安全を引き換えに脅す。あるいは薬で依存させるか洗脳して、自分たちの味方につける。
四、尋問 敵組織の実態が掴めていなければ、痛めつけて聞き出す。
五、反撃 報復あるいは見せしめとして処刑する。
六、交渉 捕まえた敵を人質として、敵組織から情報や便宜を引き出す。
捕えられた捜査員が無事でいられるのは、相手が交渉をしようとした時だけだ。
「僕の存在を匂わせることで、彼に人質としての価値を与えてください」
彼らの処刑方法には、儀式的な意味がある。
血を抜きたいだけなら、眠らせて心臓を動かしている間に血を抜いた方が効率がいい。死体に特徴を残してしまうのに特定の薬であえて殺し、逆さに吊るして血抜きする。
それには意味があるはずだ。
生贄にする手順には決まりがあり、彼らは巩心の体を気に入っている。カルトが犠牲者に選ぶ人物の特徴に合致する。可能な限り、儀式を行うその瞬間まで肉体は損なわずにとっておきたいはずだ。
ならば拷問をする相手は、比叡の方が都合がいいはずだ。
「腕時計から僕のバイタルデータを観測しておいてください。その状態で僕が暴力をふるわれるか殺されるかすれば、それを根拠に突入できる」
「そううまくいくか?」
「いくように、班長が彼らをうまく誘導してください。口先で丸め込むのは得意でしょう」
当然、同時期に店に入った霊山も疑いの目を向けられているだろう。しかし、ヤクザならともかく仮にも公職にあるものが、仲間を死なせて終えばいいなどという提案をして、それを実行するはずがない。
この策を実行することで、霊山は彼らの信用を得る。
あとは、内部でUSBを仕掛けてもらえば、情報が外に送られるようになっている。比叡はそれを煙草の箱に隠し、持ち込んだ。
渡す方法は何通りか考えていたが、今回は彼らの嗜虐心が片手を潰してくれたおかげで、自然にそれは霊山の手に渡った。
「それでお前はどうする」
「
……
儀式の生贄にふさわしくないと思われることを祈っていてください。首を切られたら、正直死ぬと思います。銃で頭を打たれてもおしまいでしょう。ただ毒なら、服毒後すぐに処置をすれば助かる可能性がある。もう僕が死んだと思って彼らが死体を捨てでもしてくれれば、あるいは」
身元不明死体の死因は窒息だった。喉をかきむしった後があった。少なくとも苦しむだけの時間がある毒なのだ。即死級の毒性ではない。
そして消化器に対してだしか作用しないのであれば、胃洗浄か活性炭の投与で無毒化できる可能性もまだ残っている。
そして、神童には絶対に告げることができないことだが、比叡はもう一つ仕込みをしていた。
未知の毒が効果を発揮するほど肉体を蝕んだ場合、そこから生還できる可能性は低い。だから、効果と対処がわかっている毒を死なない程度の分量、煙草に仕込んであらかじめ摂取しておいたのだ。
これをすると比叡の自殺であるということになり、敵に害されたので武力で介入するという機動隊を動かす大義が成り立たなくなる。だから神童にも霊山にも告げなかった。
実際に毒は飲んだ。運良く死ななかった。成分は、未知の毒であるため、検出されなかった。それで、通す。
死んだふりをするだけなら、仮死状態をもたらす別の毒をあらかじめ飲んでおくという選択肢もあった。しかし、それは毒の効果を知っている人間の前でやると、工作が露見するリスクがあるものだし、その手の毒は確実に意識を失う。
目が覚めたときには、全てが終わっているだろう。
うまくいかなかったら、全てを失っている可能性がある。
最後まで現場に立ち続けるためには、血反吐を吐いてでも、本物の毒を飲む必要があった。
こんな策とも言えないわがままを、きっと巩心は許してはくれない。
だから霊山にしか教えていなかった。
想定外だったのは、巩心が比叡を救出したことだ。もし仮に生きていたらとかなり可能性の低いもしもを思っていたが、迅速に処置を受け意識を呼び戻された。
おかげで、仲間を助けることができる。
――
施設内、全てのドアを解除します。敵を封じ込めたい場合や隠れたい場合は扉のロックします。随時状況を教えてください。
喉が塞がれている比叡の代わりに、機械が告げる。
『了解』
――
三十秒後、撹乱のため施設内の照明を全て落とします。暗視装備を装着してください。
無機質な音声が、カウントを開始する。
血に濡れた指が、キーボードを叩いた。
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