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望月 鏡翠
2026-01-22 20:21:07
30877文字
Public
庭師は何を口遊む 霊山班
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やばい店に潜入捜査するパロ その2
自陣の二次創作/庭師通過済み前提/
https://privatter.me/page/696cf10600785
の続き
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アラームが鳴った。
それはギリギリの時間に用意した最終通告で、本当は三十分ほど休んでから目を覚ます予定だったのだが、体が言うことを聞いてくれなかった。
起きがあろうとして、うめき声をあげて体を横にしてから腕の力で上体を持ち上げる。
インカムを持ち込んだときの痣がまだ残っていて、腹筋に力を入れると痛みが走った。歳をとると傷の治りが遅くなる。状態を見ると痛みが増すから、視界に入れないようにしている。
ベッドサイドに置いた眼鏡を手探りで探し、仮眠室を出る。
オフィスに戻った瞬間に、いい匂いがした。
職場にいくと家庭の匂いを感じるというのは、ゼロに馴染んだあともいまだにシュールに感じられる。
部屋にはすでに比叡以外の全員が揃っている。
井伏はキッチンにいた。
「すみません、遅くなりました」
「どうせ寝起きで胃ぃも動いとらんじゃろ。スープにしとるけぇ、そこ座っとけ」
いつもならコーヒーが注がれるカップに、とろみを帯びたポタージュが注がれた。胃に配慮してバターは少なめらしい。
「いいんですか、こんなに手のかかるもの」
「いいも悪いも、もうできとるじゃろ」
井伏は手際よくキッチンを片付けると、自分もテーブルについた。いつもと同じ場所の同じ照明の下に来て、班員の顔色を見た彼は眉間に皺を寄せる。
「なんで潜入しとらんお前らの顔色が悪くなっとるんじゃ」
「なんでだろうなぁ」
「お恥ずかしい限りです」
年長者二人は片方他人事の答えを返し、他方は肩身を狭くした。
二人ともが、ワークライフバランスなどという言葉が馴染む前の世代の生まれだからに他ならない。
話を逸らすように、ジャガイモのポタージュを飲みながらテーブルの上の資料を手に取った。
「それで、司法解剖の結果も出ているんですよね」
井伏が取りに行ってくれたはずだ。医術に詳しい彼が実際の死体を確認しながら、話を聞いてきてくれる手筈である。
「飯時にする話じゃなかろ」
「慣れてるだろ。死体の写真くらい」
「そがな問題か?デリカシーなさすぎじゃろ」
「言われてるぞ」
いつもその言葉を向けられている人間に肘で突かれ、比叡は頭を下げた。
「すみません」
「明治サンも班長も仕事人間だから」
「まあええわ。死体の状況からでええんじゃね。死因は窒息。肺に流れ込んだ血液で息ができんようになっとる。爪に入ってた皮膚片は本人のもの。首のかきむしった傷の件じゃね。あんたらの最初の見立て通り、首を掻きむしって死んだあと、首に傷をつけて血を抜かれたらしい。体格に対して体重が相当減っとったけぇ、血ぃはほとんど抜かれとるじゃろ。比叡が気にしとった首を切った刃物やけど、傷口は綺麗なもんじゃったから特殊な刃物ではないということだけはわかっとるね。冷凍でもされとったんだか、死亡時期は正確にはわからんそうじゃ。身元がわかれば、そっちから行方不明になった時期を推測できるかもしれんね」
思い込みは、事実を都合のいい真実に導く。今回の死体が、カルトとは無関係という可能性も常に念頭に置いておかなくてはならない。その上で、もし関係があったのなら、どうやってそれを明らかにし、連中の罪を暴く証拠としてどのように役立てるのかを考えなければならない。
血抜き。死んだあとに行われたということは、そこには何か意味があったはずだ。
例えば彼らがカニバリズムを行っていた場合、それには肉の保存性をよくして味をよくするという意味合いがあったのかもしれない。今は行われなくなった局地的民俗学の中でなら、それは倒した敵の強さを己の中に取り込み征服するという儀式であり、死者の魂や肉体の一部をその血族の中に中に戻して、共に生きていくための葬送の儀礼だ。
前者であれば、確かに体格に恵まれて鍛え上げられた肉体を持つ男たちは確かに、取り込みたい力の象徴として機能するかもしれない。後者は犯人が被害者の身内であった場合でしか成立し得ないが、カルトが全体を家族とする精神的結びつきを謳っているのであれば、ありうる。
(いや、違うな)
遺体は爪が剥がれたり首を引っ掻いたりというような、軽微な傷はあったが肉はどこも欠けずに体がそのまま残っている。それに肉の保存性を高めたいというのなら、まず排泄物が入ったままの内蔵は抜くはずだ。
用があるのは、むしろ血液の方か。
人間の血を必要とする魔術的な儀式を実行している、あるいは自らを吸血鬼と思い込んでいる連中という線の方が見えやすい。
儀式の贄に相応しい人物を選出し、外見を損なわぬように殺し、逆さに吊るして血を抜く。
あり得そうだが、少なくとも比叡の記憶にある限り、過去の事件で類似のものはない。非実在の話でいいのなら、エリザベート・バートリの伝承をはじめとして類似したものがいくらでも出てくるだろう。
「毒殺と見ていいのか?」
その質問を投げかけたのは霊山だった。
「肝心の薬物は検出できとらんけぇ断定はできんが、その可能性が高いじゃろ」
気になることがあり、比叡は思考の海から意識を浮上させた。
「窒息
……
ということは呼吸器に作用する毒ですか」
「いや、肺と気管支には炎症も血腫もない。出血は内臓からのもんじゃ。運が悪うて肺に流れ込んだ。どっちにせぇ出血で死んどったじゃろうが、あの男は先に息ができんようになっとる」
内臓ならば経口接種。毒ガスの類でないなら、まだ防ぎようがある。
「可哀想になぁ」
そう言って事件資料を見つめる霊山は、おそらく比叡とは別の切り口で事件を検討しているのだろう。あるいは、今後の捜査方針を詰めているのかもしれない。
「毒の種類については、期待せん方がええ。猪狩が調べとるけど、少なくともヒ素ではなかった。もし生体由来の毒なら胃液と反応したあと、分解されたか変質して消えとる可能性もある」
「ああ、そうか。そのために一旦冷凍保存したという線もありますね」
血液が目的なら、血を抜いたあとの死体はなぜ保存しておいたのか、という矛盾が生じてしまう。そう思っていたのだが、証拠隠滅のために必要な手順だったという可能性もあるのだ。
急激な温度変化、あるいは時間経過や、反応したあと自然分解によって変質していく類の毒ならば、もう検出は難しい。
「いずれにしろ、今回の事件と同じと考えるなら、死体の数が足りない。血抜きをするにしても、殺したあとの死体の置き場にしても、それなりにでかい設備が必要になる」
「東京は不用意に人の死体を転がしておくと目立ちますからね」
「明治、例のセキュリティに穴を開けるための仕掛けとやら、どのくらいでできる」
「
……
大枠はできているので、一週間頂ければ」
「よし、ならお前らはこれから一週間以内で、あの店でバックドアを仕掛けられる端末と侵入ルートを探ってこい。こいつの見立て通りなら、店で使っている表向きの端末とは独立した、顧客データとセキュリティを管理しているネットワークがある。そこに繋がった端末があるはずだ。同時並行で、あの店に図面にない空間がないかの調査だ。儀式をしているならそれなりにでかい場所が必要になるはずだからな。地下への隠し通路か何かがあるのかもしれん」
「ハイ!」
「わかった」
井伏と巩心が頷いた。
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