望月 鏡翠
2026-01-22 20:21:07
30877文字
Public 庭師は何を口遊む 霊山班
 

やばい店に潜入捜査するパロ その2

自陣の二次創作/庭師通過済み前提/https://privatter.me/page/696cf10600785 の続き

 身元不明の死体が上がった。
 平生、それだけのことでゼロが呼ばれることはない。今現在追いかけている事件には、行方不明者が何人か出ている。だから、関連性を探れということなのだろう。
 オフィスにいた霊山と比叡が、現場に向かうことになった。
「二人は、呼びますか」
 昼まであれば、仮に自宅とした場所にいるはずである。
「呼んでいいのか?」
 含むような言い方に、考えが及ばない部分があるのだと悟り、比叡はしばし沈黙した。
……それを言うなら、班長もそのままの顔で現場に出入りしていていいんですか」
「二重スパイということにでもしてもらうさ」
 それでうまく相手を言いくるめそうなところがあるのが、ゼロを纏める班長としての優れた手腕でもあり、油断ならない部分でもある。
 とはいえ、巩心と井伏を二人を呼ばないという判断は正しい。
 自宅を監視される可能性を危惧して、仮の住居を用意したのだ。オフィスに来るときは尾行に最新の注意を払い、いくつか煩雑な手順を踏んでもらっている。
 ただ今日出たのが、もし調査中の事件に関わる遺体なら、現場そのものを監視している可能性もある。このタイミングで死体が出てきた意味が、わからないからだ。沈んでいた死体が、何かのきっかけで浮上したというのではない。今日この時に、河川敷の葦原の中に放棄されていたのだ。
 警察の動きを見るため、という可能性も大いにある。
 通報時はただのホームレスか無鉄砲に飲みすぎて橋から落ちた大学生ではないかと思われていたが、遺体の傷から他殺の可能性が浮上した。
 現場には規制線が張られているし報道対策の目隠しもされているが、現場周辺は見通しもよく、車で横付けすることもできない。
 店の関係者が現場を監視していたら、すぐに警察関係者だとわかってしまうだろう。
「せめて、帽子くらい被ったらどうです」
「マスクもするか?」
 揶揄う霊山の頭に、問答無用で帽子を被せる。
「心配性だなお前は」
「必要なことをしているだけですけど」
 危険が避けられない仕事ではあるが、手を尽くした程度で危険を遠ざけられるなら、どんなことでもしたい。
「ああ、どちらかというとトラウマか」
 煙と共に霊山が余計な一言を吐き出す。
 睨み上げるが少しも効果がないどころか、比叡は視界に入ってもいない。
……それ、後輩たちの前では止めてくださいよ。趣味が悪い」
「だから今言ったんだろうか」
 煙草を吸う霊山をおいて、比叡は先に規制線を潜る。現場の刑事たちの視線が冷ややかなのは、いつものことだった。
 倒れている男には当然見覚えはない。
 潜入調査を開始してから一月ほど経っている。
 客はともかくスタッフ側に人員の入れ替わりはない。可能性があるなら客か、通報前に消えた人たちの誰かだ。
 体つきや顔立ちは黒服や客よりも店のキャストがふさわしいように思う。うつ伏せの死体は巩心と同じくらいの体格がある。地面に伏せた方の顔は血で汚れているが、眉や髪は整えられていて髭の剃り跡もない。
 しかし、特徴的な職業を示す外見的特徴があるわけではない。
 日焼けのない肌と不釣り合いに鍛えられた体も、生前は身だしなみに気を遣った人間なのだろうということがわかる。
 しかし、そこまでだ。
 死臭に煙草の匂いが混ざる。
 霊山が後ろに立った。
「全く無関係の遺体という線は?」
「それは一課の連中が担当する。俺たちの仕事はあくまでカルトとの関連の調査と儀式殺人の可能性の検討だ」
「コレですか?」
 首の傷を見る。曰く生活反応はなく、死後につけられた傷だ。体は異様に白くなっていて、血の気がない。血液は首の傷から顔の半分と髪の毛を濡らし固めており、傷をつけられたとき遺体が逆さにされていたことを意味する。
「血を抜いたのか」
「血液を使った儀式はいくつかありますが、こう言うのもなんですが、ありがちで絞り込めませんね。傷口から刃物の形の特殊性が明らかになるとかなら、話は別ですが」
「解剖待ちだな」
「身元がわかるものはないんですよね。でも身元の隠匿が目的なら、顔や指先をそのままにしているのはおかしい」
「ただ、着替えさせてはいる」
「着替え?」
 振り返る。
 霊山は死体の足元を指さした。言われてみれば靴下の長さが左右異なっているし、一部が膨らんでいる。
「なんです?」
「脱がせてみればわかる」
「僕にやれって言ってます?」
 言っているのだろう。
 仕方がなく靴を脱がせてみると、つま先が余っている。
「歩きにくそうだ」
 自分で着替えたのであれば、確かにこうはならない。
 鑑識を呼んで写真を撮らせたあと靴下を脱がせると、白い鱗のようなものが出てくる。
 それは爪だった。出血はみられないが、死体の足から取れたものに違いない。親指の爪がなくなっている。
「この死体、腐ってはいないがだいぶ熟してる。無理やり履かせたときに、脆くなっていた爪が取れたんだろうな」
「死後、着替えさせた。それも死後硬直が取れたあとってことですよね」
「手が込んでるな」
 濡れて汚れているが、服の布地はまだ糊が効いているし、靴底に汚れはない。
「死体のきている衣服が遺体の所属を示す可能性があったとか」
 例えば、あの店の舞台上の制服であれば目立つことだろう。
「だとしたら、連中は一月程度こいつを大事に抱えておいたことになる」
 儀式として一ヶ月待つ必要があったのか、あるいはそろそろほとぼりが冷めたと思って、死体を遺棄したのか。
「でも殺害したのは、少なくとも一月前のはずです。それ以降、キャストに行方不明者はいません。彼は髭も生えていないし、拘束された痣もない。捕まったのなら、死に物狂いの抵抗をしてもおかしくはないはず」
「抵抗らしい抵抗といえば、こいつくらいか」
 血を抜いた首の傷の他に、喉元に擦過傷が残っている。爪に皮膚片が挟まっており、自分で引っ掻いたのだろうと想像できた。
 口や鼻から血で汚れているが、首の血が垂れたわけではなさそうだ。内部で血液が固まっている。
「毒を飲まされて喉を掻きむしりながら死亡したあと、血を抜かれ、遺棄された。今回の事件とあえて結びつけるなら、そういう見方になりますか」
「従業員リストは見られないのか?」
「難しいですね。セキリュティが固くて。それだけで、何かがあるということは確信を持って言うことができます。ただの飲食店にしては堅牢すぎる」
 発注など店頭業務に使っているPCとは別に、顧客情報や従業員情報を管理しているネットワークがあるはずなのだ。
「内側から細工してバックドアを作ってしまえばなんとか。通常の回線と切り離されたシステムが内部にあるはずです。ただ僕達ではそこまで入れないでしょう」
「潜入捜査官の出番だな」
 確かに遺体の写真を持って店に聞き込みをするよりは、リスクが少ない方法だろう。今回の死体が事件と無関係だった場合、警察の手が入ればまだ相手に警戒されてしまう。
「仕込めるような形で、用意します」
 きっとインカムよりも持ち込むのが簡単だろう。