mishiadd
2025-12-30 10:49:07
45542文字
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BROTHERHOOD:ひとでなしの恋

【現パロ】兄弟同然に育った伊織さんに恋慕してしまったヤマトタケルさんと「いつか満足して諦めるだろう」と思ってかたちだけ付き合ってるフリしてくれる伊織さん【剣伊】


八、

タケルの『デートプラン』を聞いた伊織が「一体いくらかかるのか」と眉根を寄せかけたところで、「ペアチケットとホテル宿泊券を手に入れたのだ」、とタケルが言った。

「本家筋の金持ちの伯父さんワカダンナが、『株主優待で貰ったものが余っている』と。……豪邸の庭の芝刈りと日用品の買い出しのおつかいの対価にくれたのだ」

つまり、若旦那相手にアルバイトをしてタケルが自ら稼いできたらしい。素直に感心して伊織がぽんぽんとタケルの頭を撫でてやると、照れくさそうな顔をしたものの「……子供扱いはやめよ」と唇を尖らせて言われてしまった。

「いや、本当にすごいよ。……では、ここはおまえの御相伴に預かろう」
私の奢りだ。デートなのだから当然だな。今回は私がきみをエスコートするのだから」

うん、と伊織が小さく首を傾げる。どうやら、タケルは『エスコートをする』ということにひどく固執しているようだった。もしかしたらこれも自立心の芽生えというものなのかもしれない。
幼かった『甥っ子』の成長を微笑ましく思いながら、「ああ、そうだな」と同意する。

「そして、」とタケルがテーブルの上に広げたタブレットを弄りながらA4サイズの印刷物をぺらぺらとめくっている。よく見るとさまざまな筆跡で手書きのメモが書き込まれており、どうやらどこかの公式サイトをプリントアウトしたものに、ワンポイントアドバイスやミニ知識が付記されているようだった。

「隣県にあるヨーロッパの街をモチーフにしたテーマパークでな、絶叫マシンなどのある遊園地と、博物館やショーなどが観られるテーマパークが隣接しているのだ。ペアチケットは二日間有効だから、どちらにも一日ずつ行けるという」

同級生の誰かがタケルのために書いてくれたのだろう説明文をまるっきりそのまま読み上げるようなぎこちない口調で言い――実際、タケルの目線は印刷物のメモ書きに釘付けだった――ちらり、とタケルが伊織を見る。ん、と伊織が口許に柔らかな笑みを浮かべて先を促すと、タケルが慌ててタブレットに目線を落とした。

「そして旅費だが、これも私がワカダンナのところで働いて稼いできたのだ。これは、皿洗いの対価だ」

伊織の知る限り、彼らの伯父は家政婦を雇っているし、洗い物はすべて据え付けの巨大な食器洗い機で行っている。――なので、これはわざわざタケルのために作り出された雑用であった。
「フフン!」とタケルがやや胸を張るようにして誇らしげに言った。

「二人分の旅費だ。……だから、いつもとは違うのだ。――きみに連れて行ってもらうのではない。私が、きみを連れていく」
「うん。……楽しみにしているよ、セイバー」

テーブルに両肘をつき、大きな両手を組んだ伊織が、ふわりと微笑んでタケルを見た。――柔らかく細められた月夜の瞳が、タケルの夕陽色の瞳と逢う。
「あ、」とタケルが小さく声を洩らして、怯む。居たたまれないような顔でさっと目を逸らし、それから首筋から顔にかけてをぱっと紅潮させた。みるみるうちに茹で上がったように赤くなったタケルが、伊織から目を逸らしたまま、恥じらうように俯いてしまう。――それを、「?」と眺めていた伊織が言った。

「ホテルで泊りがけ、になるのだな。若旦那がくれた宿泊券の部屋のタイプは――ああ、ダブルルームか」

テーブルの上に置かれていた宿泊券を見てさらりと伊織が言う。――「ン、ンン!?」と一拍遅れてタケルが素っ頓狂な声を上げた。

「『ダブル』!? ――とは、ダブルベッドというやつか!? ベッ――ベベベベ、ベッドが部屋にひとつしかない――
「二人用のベッドがひとつの部屋だ。うん、俺は構わないよ」
「ダダダダダダメだダメだダメに決まっておろう! ワ――カダンナのやつ、一体何を考えて――
「ん、おまえは狭いと嫌か。俺は、寝相は悪くない方だと自負しているが」
「そういう問題ではないッ!」

がるるるとがなり立てるように吐き捨てて、タケルが宿泊券を手にそわそわと立ち上がる。
いつもの喫茶店のいつものテーブルである。――あてもなくただうろうろとそのあたりをしばし歩き回った後、顔を真っ赤にしたままタケルが不機嫌そうに頬を膨らませて言った。

「これは、ワカダンナに直談判してツインの部屋に換えてもらってくる。――まったく、とんでもないものを掴まされたものだ」
「おまえにそこまで強く拒否されると、俺も寂しいものがあるが」

特に深い意味もなさそうにさらりと伊織が言うと、タケルが伊織に背を向けた姿勢でぴたりと足を止めた。そのまま、伊織に顔を向けることなく、静かな口調で言った。

「私も――少し、悔しいよ。きみがなんとも思わないのなら……ほんの少し、な」

「うん?」と伊織が小首を傾げる。すっかり赤みの退いていつもの顔色に戻ったタケルが振り返り、席に着いた。

「来週の土日、でよいか? イオリ。……私と、デートに行こう」
「うん。行こう、セイバー」

伊織がそう頷くと、タケルの頬が再びほんのりと赤くなった。――眩しそうに大きな瞳を細めて、笑った。