mishiadd
2025-12-30 10:49:07
45542文字
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BROTHERHOOD:ひとでなしの恋

【現パロ】兄弟同然に育った伊織さんに恋慕してしまったヤマトタケルさんと「いつか満足して諦めるだろう」と思ってかたちだけ付き合ってるフリしてくれる伊織さん【剣伊】


十二、

――それでもやっぱり、タケルは間違っていると思う



花火もイルミネーションも待たずに、まだ日が傾いてすらいないうちに、ふたりは帰路についた。
帰りの電車の中で隣同士に座りながら、会話は一言もなかった。――伊織は、道中のおやつにと思い持参していたタケルの好きな菓子をタケルに差し出そうとしたが、少し考えてやめた。

伊織がタケルを家の前まで送り届け、自分もまた自宅へと向かう。別れ際、「ではまたな、セイバー」と声を掛けたが、「うむ……」と生返事があっただけだった。

――それでもやっぱり、タケルは間違っていると、伊織は思う。

これがタケルの初恋だというのならば尚更だ。そんな大切な想いを、叔父に――親戚の兄などに、抱くべきではない。そんなところで浪費するべきではない。
きっと、いつか後悔する日が来る。「あんな一時の気の迷いのために、貴重な青春を無駄にしてしまった」と、そう思う日が必ず来るのだ。



――そういうものだと、聞いている。



伊織自身は、初恋らしい初恋というものを経験したことがなかった。彼自身、成長する過程で同世代の周囲の皆が艶めき始め、色恋の話題が会話を席巻するようになったのを見ていた。伊織にもたまに話が振られたりすることもあったし、きっとそれが人が成長していく上での自然な興味の向かい方なのだろうとも思った。――だから、いつか自分にもその時が来るのだろうと、漠然と思っていた。

――来なかった。

結論から言うと、二十歳を迎える今になっても、伊織自身にはそういった経験がなかった。
別段、それを不都合に感じたことも、劣等感を覚えたこともない。そういう時代であるということなのかもしれなかった。

伊織自身にそれが理解わからないからといって、燃えるような恋に身をやつす人を軽んじたりするつもりは毛頭ない。誰にだって命を懸けてもいいと思えるようなことはきっとある。伊織にもある。伊織の場合、それがたまたま恋愛ではなかった。それだけの話だ。

ただ、伊織には恋愛が理解らない。――人の心に寄り添い、理解することは伊織の本能的な性分であったが、こと恋愛感情に関しては、まるで自分には決して中を見通すことのできないブラックボックスのようなのだ。……だから、恋愛に関してだけは、人づてに聞いた話や、一般論を用いるしかないのだ。

伊織の、他者の気持ちを察する能力を買われてこれまで周囲から受けてきた恋愛相談の内容と、映画や小説などで伝え聞いた『人の成長過程』と『初恋』と『一時の気の迷い』に関する知識を総動員した上で、それでもやっぱり伊織に言えることは――『タケルはやっぱり間違っている』、ということであったのだ。

年長者として、彼の叔父として、そしてなによりも彼の兄貴分として伊織がタケルにしてやるべきことは、彼をうまく諭してやることだ。――たった一度しかない彼の人生の中で、彼が後悔しないように。

そうしようとして、前回は泣かれてしまった。そんなつもりはなかった。――あるいは、泣かれても叫ばれても、彼にとって正しいことを教えてやるのが伊織の責務であるのかもしれなかった。良薬は口に苦いものなのだ。

――とはいえ、伊織は骨の髄まで『兄』という生き物であった。――妹の、あるいは弟の、泣き顔にひどく弱い。

「もう一度、ふたりで会ってみて――

ぽろり、と伊織が口にする。――会ってみてどうする、という想像もつかない。前回は失敗した。同じように諭したところで、同じように泣かれるだけなのかもしれなかった。

――それでもきっと、そうしてやるのが『兄』の務めなのだ。

スマホでタケルにメッセージを送る。――三十分程待って、既読がついた。