mishiadd
2025-12-30 10:49:07
45542文字
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BROTHERHOOD:ひとでなしの恋

【現パロ】兄弟同然に育った伊織さんに恋慕してしまったヤマトタケルさんと「いつか満足して諦めるだろう」と思ってかたちだけ付き合ってるフリしてくれる伊織さん【剣伊】

一、

彼は伊織に「月が綺麗ですね」とは言わなかった。ただ、恨みがましいような口調で、「月が眩しいのだ」と訴えた。
その言いようが、まるで夜空に浮かぶ満月が欲しいのだとぐずる子供そのものであったので、「だから言わんこっちゃない」と伊織は内心で思ったのだった。

――タケルは、まだ子供だ。

幼子がサンタクロースを信じるように、誰もいない子供部屋でのおもちゃ達の密会を信じるように、あるいは乳歯の妖精トゥースフェアリーを信じるように――ただ無邪気に、素直に、それが世界の当然の理であるとして、当然、この胸に巣食うむず痒いような未分化の想いはなんらかのかたちで満たされて然るべきなのだと。

タケルはまだほんの子供で、まだ分別も区別もついていない。――自分が抱いているこの感情の正体も、それを誰に向けてしまっているのかも。

端的に言ってしまえば、それはほんの気の迷いで、若気の至りだ。それはきっと人格の成長過程において誰にでも起こり得ることで、それをいたずらに否定することは、きっとタケルの将来のためにならない。
「大きくなったら兄ちゃんと結婚する」と真剣な眼差しで主張する小さな男の子のいじらしい真心を、その場で心無い現実を突きつけることによって粉々に粉砕してしまうような大人はいないだろう。

子供はいずれ、おのずと夢から覚める。サンタクロースはいないし、おもちゃ達は動かないし、枕の下に隠した乳歯は乳歯のままだ。それは伊織が敢えて突きつけなくともいずれ学ぶ世界の真理であって、そしてそれは今でなくていい。

「月が眩しいのだ」とタケルは伊織に訴えた。――「あまりに月が眩しくて、他の星など一切何も見えないのだ」と。

それは、愛の告白というよりももはや苦情に近かった。だから言わんこっちゃない、と伊織は思った。――やはりタケルは、なんにも理解っていない

「いいよ」と伊織は言った。――少しの間、試してみたらいい。それできっと、おまえにも理解る、と。



――だから、それはまったき善意であったのだ。



あるいは、甘やかし、と言った方が正しいのかもしれない。伊織はただ、子供であるタケルを、子供のように慈しみ、子供にするように対応しただけだ。
「大きくなったら兄ちゃんと結婚する」と真剣な眼差しで主張する小さな男の子に、「ああ、それなら約束だ」と答えてあげた、ただそれだけのことだ。――伊織はなにひとつ、酷いことも間違ったこともしていない。

――何かが間違っていたとすれば、ただひとつ。

タケルは、伊織が思っている程分別も区別もついていない子供などではないという、ただその一点のみであった。






ひとでなしの恋