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mishiadd
2025-12-30 10:49:07
45542文字
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BROTHERHOOD:ひとでなしの恋
【現パロ】兄弟同然に育った伊織さんに恋慕してしまったヤマトタケルさんと「いつか満足して諦めるだろう」と思ってかたちだけ付き合ってるフリしてくれる伊織さん【剣伊】
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十一、
さまざまなヨーロッパの街並みを再現することにフォーカスしたテーマパークは、遊園地側に比べると随分とゆったりと時が流れているように感じられた。
園内に流れているBGMも、それぞれのエリア
――
イギリスであるとか、フランスやドイツ、あるいはチェコなど
――
に合わせた民族音楽をジャズ風にアレンジして流している。アトラクションらしいアトラクションもなく、精巧に再現された各国の街並みやランドマークを眺めて回り、現地の店構えを模した売店でエリア毎の飲食を楽しんだり、土産物を買ったりするのが主だった。
時折、広場で民族舞踊のショーがあったりするので立ち止まって見学する。昨日とは違い、特にあてもなくふらふらとしながら偶然の出逢いを楽しむのが、パーク自体の設計思想であるようだった。
スペインエリアでチュロスを買い、そのままイタリアエリアを歩いている。遠くにコロッセオとフォロ・ロマーノが見えるが、遠近法を利用した模型だ。
「ピッツァが食べたい」と漏らしたタケルがふるふると頭を左右に振った後、傍らの伊織を見上げて言った。
「今日は私がきみになにか買ってやるのだ」
「うん?
――
と言うと?」
「言ったろう、
私は今多少の銭を持っている
。
……
今日は私がきみに、なにか記念になるものを買ってやりたいのだ」
フウン、と伊織が目を眇めてタケルを見る。
――
やはり、
大人ぶりたいお年頃
、というやつなのだろうか。自分で稼いだ金なのなら伊織のことなど気にせず自分の好きに使ってほしいものなのだが、きっとタケルの中では『誰かのために使う』ということが大人の証であるのだろう。
「
……
うん。なんだかわからんが、楽しみにしているよ」
「『なんだかわからん』では困るのだ。きみが欲しいものを言え。きみが欲しいものを、私がきみに買ってやるのだ」
「
……
う、ん」
ぽり、と伊織がすっきりとした頬を指先で掻く。突然無理難題を押し付けられたものだ、タケルの想定している金額もわからないのに。
百円かそこらの小物でも見つけたら、適当にそれにしてみるか
――
などと漠然と思いながら、伊織が周囲の街並みを見渡した。いつの間にかイタリアエリアを抜けてフランスエリアに入っている。
ノートルダム大聖堂を模した建物を見上げながら、タケルがぽつりと言った。
「いつか、きみと本物を見に行ってみたいものだ」
「うん?」
「うむ。
――
コロッセオも、ノートルダム大聖堂も、サグラダ・ファミリアも
――
」
伊織がタケルを見る。
――
タケルは、目の前のノートルダム大聖堂など見ていなかった。真っすぐに、伊織を見つめていた。
「万里の長城も、タージ・マハルも、アヤソフィアも。きみとふたりで、世界中のいろんなものを見てみたい。
……
きみが、いろんなものを見ているところを、きみの一番近くで見ていたい」
「う
――
ん、セイバー」
困ったように肩を竦め、伊織が言った。
「次こそは、俺とではなく、おまえの同級生たちと行った方がいいんじゃないか。あるいはそう
――
」
柔らかい、まるで菩薩のような
――
あるいは、
聖母
ノートルダム
のような慈悲深い笑みを浮かべて、伊織が言った。
「おまえの恋人、とか」
――
タケルが、言葉を失う。完全に沈黙していた。それに気づかぬまま、伊織が再び視線をノートルダム大聖堂へと向けた。
「おまえがいつか、
本当の恋
を知ったとき
――
その時のために、大切に取っておくといい。今回は、その予行演習だ」
「
……
――
イオリ」
ようやく絞り出されたタケルの声が震えている。「うん?」と優しい声で問い返した伊織を遮って、「ア、アレ?」とタケルが焦った声で呟いた。
がさがさと肩から下げたポーチを振り回し、ひっくり返さんばかりの勢いで何かを探している。
「セイバー? どうした?」
「な、ない。ないのだ。
――
そんな筈はない、なぜ」
「うん?」と伊織が眉を跳ね上げる。事情を察して、言った。
「財布か、それともスマホか? 遺失物として届いているかもしれないな、入り口のインフォメーションセンターに戻ってみようか」
「梅むすびだ」
ん、と伊織が一瞬要領を得ない顔をする。ひどく焦燥した様子で、「あの梅むすびのぬいぐるみだ、この鞄に下げていたのだ」とタケルが言った。
「なんだ、そんなものか」
ひどく安堵したようにほっと溜息をつき、伊織が言った。
「おまえがあんまり蒼褪めているから、もっと大切なものを失くしたのかと思ったぞ、セイバー」
「
……
『
そんなもの
』?」
問い返したタケルの声が低く掠れ、震えている。ん、と伊織が小さく首を傾げてみせた。
「うん。大したものでなくてよかったよ。まあ、いずれにせよ拾った誰かが届けてくれているかもしれない。入り口まで戻ってみるか」
「イオリ」
既に入り口の方面へと足を向けかけた伊織がタケルに呼び止められ、「うん?」と振り返る。ふるふると
――
両の拳を握りしめたタケルが、大きな両の瞳にめいっぱいの涙を堪えて伊織を見据え、睨みつけていた。
「私の大切なものなのだ」
「
……
うん?」
「
私の
、
大切なものなのだ
。
……
なかったことにするのはやめてほしい」
声が震えている。その震えで表面張力が耐えきれなくなったように、つう、とタケルの瞳から涙が一筋零れ落ちた。
驚いた伊織が、完全に足を止める。タケルに向き合い、「う
……
ん」と戸惑ったように言った。
「おまえがあれをそんなに気に入っていたとは知らなかったよ。
――
インフォメーションセンターへ行こう。きっと届いている」
「私はきみが好きなのだ、イオリ。勘違いなんかじゃない」
タケルが俯く。ぽたぽたと、赤い煉瓦を敷いた地面が濡れ、そこだけ赤みが濃くなった。
「きみが、私を大人の男として意識してくれていないのはわかっている。
……
だから、いくらだって背伸びをする。きみに意識してもらえるためなら、私はなんだってする。
――
でも、でもな、イオリ。
……
私のこのきみへの想いを、なかったことにするのだけはやめてほしい。若気の至りだと、勘違いだと、偽物だと
――
」
「セイバー」
「きみが私の想いを受け取ってくれなくても構わない、それなら私はまだ頑張れる、でも」
「セイバー、
……
セイバー」
伊織が宥めるように名前を呼ぶ。俯いたタケルの長いサイドの髪をあやすように指先で揺らし、頭を撫でる。タケルが顔を上げると、伊織が悲しげに眉尻を下げて言った。
「でも、おまえのそれはやっぱり、恋愛感情とは違うものなんだよ」
タケルの赤らんだ大きな瞳が、絶望に見開かれる。その瞳を真っすぐに見据えて、伊織が言った。
「おまえが俺を兄と慕ってくれていたのは知っているよ。俺も、おまえが弟みたいに可愛いと思う。
――
でもそれは、恋とは違うものなんだよ。いつかきっと、おまえにも本当の恋をする相手が現れて、『あれはやっぱり違ったのだ』と理解る日が来るよ」
「
……
きみになにが『理解る』? イオリ」
大きく見開かれたままの夕陽色の瞳から、瞬きもせずに次々に涙の筋が零れ落ちる。いっそ笑みのように口許を歪めて、タケルが言った。
「きみに一体なにが理解る? きみにはなにひとつだって
理解
わか
っていやしないのに、私に知ったふうな説教をするのか」
「
――
セイバー」
「きみは恋をしたことがあるのか?
――
この身が灼けるような想いに眠れなくなったことがあるのか? 相手にただ指先が触れることにすら身体が竦んで、畏れたことがあるのか。なんでもない笑みを向けられただけで動けなくなって、
私を見てくれている
というただそれだけの事実に、泣きたくなるような喜びを抱えたことが」
「
でも
、
おまえは俺とはキスできないだろう
?」
宥めるような口調で、伊織が言った。身を屈めて、伊織がタケルの顔を覗き込む。
「俺とはキスできないだろう。
……
そういうものだよ。だからやっぱり、おまえのそれは恋愛感情とは別のものなん」
「だ」という音を伊織が発する前に、ちゅ、と軽い音が鳴った。伊織が切れ長の瞳をわずかに瞠る。タケルを見る。涙でくしゃくしゃになった顔に諦念のような笑みを浮かべながら、タケルが言った。
「これで満足か?
叔父上
」
「帰る」とタケルが踵を返す。ひとりで入り口の方面へと歩いていくタケルの後姿を見ながら、伊織が自分の唇に手を当てた。
――
涙に濡れたしょっぱい味が、まだ唇に残っていた。
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