mishiadd
2025-12-30 10:49:07
45542文字
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BROTHERHOOD:ひとでなしの恋

【現パロ】兄弟同然に育った伊織さんに恋慕してしまったヤマトタケルさんと「いつか満足して諦めるだろう」と思ってかたちだけ付き合ってるフリしてくれる伊織さん【剣伊】


五、

いつもの喫茶店で待ち合わせたタケルは、伊織が席に着くなり「次は遊園地へ行こう」と言った。

「既にいくつかよさそうな行先を調べたのだ。――中学の、同級生にも訊いて回って」
「? 俺は構わんが……だがおまえ、この間はあまり楽しくなさそうだったろう?」

そう率直に言い、注文を取りに来たウェイトレスに「ホットコーヒーを」といつも通りに頼む。それから伊織が向かいに座ったタケルに目線を戻すと、愕然と――呆然自失とした顔で、タケルが伊織を見つめていた。心なしか蒼褪めているように見えた。

……そう……思ったのか、きみ」
「あ、ああ……あまり元気がなさそうだったからな。具合が悪いのかとも思ったが食欲はいつも通りあったし」

おしぼりで手を拭いてから、伊織が改めてタケルに向き合う。他意も悪意も一切ない、ただ心から純粋に、タケルを思い遣るただそれだけの気持ちで――伊織は、慈しむような目つきでタケルに言った。

「無理をして俺と過ごそうとすることはないよ、セイバー。おまえが何を気にしているのかは知らないが。遊園地へはもっとおまえと歳の近い――もっと話の合うような、たとえばおまえの同級生達と行ってきたっていい。俺には、おまえの土産話を聞かせてくれれば」
「そう、思わせていたのか。私は、きみに」
「うん?」

テーブルに両肘をついて両手を組んだ上に軽く顎を乗せていた伊織が、小さく小首を傾げる。わなわなと唇を震わせていたタケルはしかし、きゅ、と口許を引き締めて言った。

「そう、思わせていた。――そう。そうか。……ならば尚更、私と一緒に遊園地に行ってほしい」
――うん?」
「この間は――私は」

「私は」とタケルが繰り返す。――ふう、と大きく息を吐いた後、意を決したように言った。

「私は、ひどく緊張していたのだ」
「緊張? ……何故?」
「『初デート』だからだ」
……うん?」

以前も思ったが――タケルがそういうことにしたいらしいのでそういうことにしていたが――伊織にとってはタケルとふたりでの外出に今更『初デート』も何もない。――事実、今日だってこうしてふたりっきりで喫茶店で会っている。
おまえは一体何を言っているのだ、と言わんばかりの困惑の中で伊織がタケルを見たが、幸か不幸か伊織は表情に乏しく、伊織の心中はタケルの目には見えていないようだった。

「きみの目に、私が楽しそうに見えていなかったのならば謝罪する。――私は、きみをうまくエスコートできなかった。もう子供ではないのに
「『エスコート』」

きょとん、と伊織が切れ長の月夜の瞳を丸くする。「いや、」とゆるゆるとタケルが頭を左右に振り、テーブルの上に置いた己の握りこぶしを見下ろして言った。

「エスコートどころか、きみにそんなふうに思わせていたなどと。……本当に、私は自分が情けない……

くしゃり、とタケルの大きな瞳がひしゃげる。――その表情に、ひどく大人びたものを感じて伊織がわずかに感銘を覚える。知らぬ間に、この子供はこんな表情をするようになっていたのかと

タケルが顔を上げて伊織を見た。夕陽色の瞳に、哀しみと後悔の念が色濃く滲んでいる。見覚えのない表情に、うん、と伊織がわずかに怯む。

「イオリ。どうか、挽回する機会が欲しい。……『初デート』できみにそんなふうに思わせていたなど、きみの恋人失格だ。――次の『デート』は、すべて私が計画するよ。きっときみを立派にエスコートしてみせるとも」
「う…………

伊織には、元来流されやすいところがあった。タケルが何に後悔し、何を挽回しようとしているのかすべては把握できていないにせよ、このように強い感情をぶつけられて主張されてしまえば、伊織自身はよくわからないままに一旦すべて呑み込んで承諾してしまう。――要するに、ひどく押しに弱いのだ。

「わかった、セイバー。――おまえがそんなに行きたいというのなら、行こう」
「うん。……きみと、行きたい。今度こそ、きちんと『デート』をしたい。――デートらしい、デートを――きみと」

そう言ったタケルの声が、わずかに震えているのを聞く。――その夕陽色をした瞳が、燃えるような熱を孕んでいるのを、見る。

あるいはそれは、憧れというものに近かったかもしれない。あるいは、ロマンスというもの――恋愛ロマンスというもの、それ自体に対する憧れ。――甘やかで大人っぽい、ロマンティックな雰囲気の中に身を置くということ、それ自体への――『憧れ』。

あるいはそれは、伊織でなくてもよかったのかもしれなかったし、あるいは伊織でなければタケルにとっては何ひとつ意味などないのかもしれなかったけれど

伊織は――弟妹に甘かった。彼らが望むのならば与えるまでだ。

「うん。……おまえがそう言うのなら。楽しみにしている」
「! ――うむ、うむ、イオリ! ……楽しみに、していてくれ」

タケルが何度も激しく頷いた。やがて、口許に柔らかな安堵の笑みを浮かべて伊織を見た。大きな双眸の縁に、わずかに涙が滲んでいるように見えた。

「いつものホットコーヒーです」と言ってウェイトレスが伊織のコーヒーを運んでくる。タケルが、「チョコレートパフェをひとつ頼む!」と晴れ晴れとした声で言った。