mishiadd
2025-12-30 10:49:07
45542文字
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BROTHERHOOD:ひとでなしの恋

【現パロ】兄弟同然に育った伊織さんに恋慕してしまったヤマトタケルさんと「いつか満足して諦めるだろう」と思ってかたちだけ付き合ってるフリしてくれる伊織さん【剣伊】


七、

学校で一番の美少年には、好きな人がいるらしい。

都会とは言い難い小さな街で、少し離れたところにある田舎の土地一帯は古くから続いている『名家』が所有しているような土地柄だった。
『名家』の親類はたくさんいて、この街の至るところに溶け込んでおり――言ってみればこの地元の世界観における貴族や武士階級のような存在だった。

タケルは昔から目立つ存在で、『名家』の出身――しかも比較的本家に近い血筋であり、その上一族の中でも飛びぬけて見目麗しかった。言ってみれば白馬の王子様のようなもので、小学校の頃などはバレンタインの日にはチョコレートの集中攻撃に遭っていたりしたものだ。

中学校に上がると、チョコレートの数は四分の一程に減った。というのも、小学校最後の六年生のバレンタインの折、タケルがきっぱりと言ったのだった。



「悪いが受け取れぬ。……私には、好きな人がいる」



元々、お祭り気分でチョコを渡していた女子が大半だった。本気でタケルに恋をしていたわけではなく、「タケルにならチョコをあげても実害がない」という打算の上での恒例行事だった。
タケルに本命がいる、となると、彼にチョコをあげていた女子たちはむしろタケルの恋に協力する側に回った。実際に相手の名前を訊き出すことは叶わなかったが――タケルが頑として口を割らなかった―― 一般論として、どうすればうまくいくか、について雑誌やネットの知識を総動員して高説を垂れたり、あるいはタケルと一緒に悩んだりなどした。

大抵の場合は煩わしそうにしていたタケルも、たまに自身が有用だと感じたり、あるいは『好きな人』の興味に合致していそうなアドバイスがまぐれであったときは、ぴくりと耳をそばだてて話を聞いたりなどしていた。
そういったタケルの反応や、何かの折に彼がぽろりと零した断片的な情報から、どうやら相手は年上で、剣術に興味があるらしいことだけはわかった。――が、それ以上は何もわからなかった。

「タケル、年上が好きなんだね」

給食後の昼休みのことだった。
珍しくタケルが自分から助言を求めてきたことに盛り上がっている女子の集団から少しだけ離れ、こそこそと女子のひとりが言った。

「でも確かに、あんまり同い年とか年下には興味なさそう。……子供っぽいところあるし」
「どんなひとなんだろー?」

別の女子が頭を捻る。「ね、」と同意してから、最初の女子が言った。

「いくつ年上なんだろ。……相手に、してもらってるのかな」
……どういう意味?」
「タケル、可愛いけどあんまり男の子っぽくないし、可愛い分見た目も幼いでしょ。……相手の女の人が高校生の先輩だったとしても、ちゃんと男として見てもらってるのかな」
――なにそれェ」

二番目の女子の顔が引き攣る。残酷な想像に、心が痛んだようだった。

きゃああああ、と嬉しそうな歓声が上がる。ふたりが振り向くと、タケルを取り囲んでいた別の女子たちが両手を叩いて楽しそうに拍手していた。

「じゃあ、遊園地、本当に行くこと決まったんだ!」
「この間は『誘うのだ』って言ってすごく緊張してたもんねー、準備も念入りにして。学校のコンピューター室でこっそり印刷してさ、皆から集めた行先候補リスト」

盛り上がっている女子たちの背後から顔を出すと、タケルがひどく赤面しているのが見えた。ぎり、と歯を食いしばって羞恥心を噛み殺そうとしている。「まあまあ」と女子のひとりが言った。

「それで、結局どの遊園地に行くことになったの?」
「これから決める。――すべて、私が決める。どこに行くかも、どうやって行くかも、行って何をするかも、何を見るかも、何を食べるかも」
「すごい、完璧な『エスコート』だ」

フフフ、と女子たちが楽しそうに笑う。照れてどうしようもなくなるかと思われたタケルはしかし、「うむ」と殊更真面目な顔をして、深く頷いた。

「完璧に『エスコート』をする。……私は、してもらってばかりだったから。それを当然のことだと思っていたから。――これからは、私が彼の手を引いていけるようになりたい。彼に私のことを考えてもらうばかりなのではなくて、私が彼のことを考えて、彼の喜ぶことをしてあげられるようになりたい」
――』?」

ん、と皆一様にわずかな違和感を覚えつつも、タケルの言葉の切実さに気を取られる。
ぐっと両の拳を強く握りしめたまま、タケルが決意を口にした。

「彼に――弟ではなくて、ひとりの男として見てもらえるようになりたい。……我儘で、聞かん坊で、自分が無理をしてまで面倒を見なければならない弟分などではなくて――我儘を言ったり、甘えたり、自分の弱さを曝け出して、頼っても大丈夫なのだと思ってもらえるような、ひとりの対等な大人の男として」
……タケル……
「そうしたら」

「そうしたら」とタケルが俯いた。それから、顔を上げた。一度は退いた頬の赤みが、勢いを増して燃えるように戻ってきていた。



「彼は、私と――恋を、してくれるだろうか。私と、恋をしてもいいと――思って、くれるだろうか」



言って、タケルが俯く。――ややあって、ざわ、と女子たちが一斉に口を開いた。

「大丈夫だよタケル、きっとうまくいく」
「こんなに頑張ってるんだもん」
「相手のひと――ひとも、きっとわかってくれるよ。好きな人のために頑張ってるタケル、かっこいいよ」

顔を赤くしたまま、その言葉にぴくりとタケルが反応する。――恐る恐る、完全にはまだ自信のないままに――にこ、と嬉しそうに、照れたように笑った。
「可愛いな」と反射的に女子たちは思ったが、今言うべき言葉ではないと思い、ぐっと口を噤んだ。

「よし、じゃあ、完璧なデートプランを立てよう」
「待って、あたしたちの意見だけじゃダメだ――ねえ男子! ちょっとこっち来て!」

大声で声を掛けられ、教室の隅でアニメの話をしていた暇そうな男子たちが「なんだどうした」と近寄ってくる。――ああでもないこうでもない、と昼休みの時間が過ぎていく。