柩木
2025-11-15 17:28:24
18035文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|ワンライ企画参加作品まとめ

ワンライに参加した時の小説をまとめました。文字数の上限いっぱいになるまで追加していきます。



上目遣い


プライベートルトロに戻ってきた丹恒は、バルコニーのカウチで座っている穹の姿を見て訝しんだ。何をするでもなく景色を眺めている後ろ姿があまりにも静か過ぎる。丹恒が戻ってきたと気付けば全身を使っておかえりと声を掛けてくるのに、今回はそれがない。

「穹」

単純に戻って来た丹恒に気付かなかった可能性を考慮しつつ、彼が座るカウチの側まで移動してから名を呼べば、灰色の頭がゆっくりと振り向いた。その緩慢な動きと顔色を見た瞬間、概ねの事情を察した丹恒は大きく息を吐き出した。調子が悪い訳ではなさそうだが、場合によってはもっと面倒な事態かもしれない。

「お前、また飲んだな」
……飲んでない」

酔っぱらいほど酔っていることを指摘すると酔ってないと言う。それと同じように穹も顔を背けて丹恒の指摘を否定した。その際、視線は合わなかった。

「ネクタールはもう飲むなと言ったはずだが」
「飲んでないもん」
……せめてその赤ら顔を自覚してから誤魔化すんだな」

ぼんやりとしたまま単調な台詞を繰り返す穹は一向に視線を合わせようとしない。仕方なく穹と向かい合うように立ち、両手で包み込むように頬を覆って無理矢理に上を向かせた。それでも視線は明後日の、遠くを眺める。

……だって、丹恒怒ってる」
「約束を反故にされたんだ。お前だって立場が変われば怒りもするだろう」
「うぅ〜……

本格的に泣き出した穹の目尻からポロポロと涙がこぼれる。今日の酔い方は比較的大人しいが、まさか泣き上戸な側面を見る事になるとは思わなかった。くしゃ、と表情を歪めて泣く穹はあろうことか手袋を付けた手で乱暴に目元を拭おうとするので、そこへ割り込むように自分の手を差し入れ、代わりに優しく拭う。

「話をしよう、穹。何があってネクタールを飲んだ? そのくらいは教えてくれないか」
……怒らない?」

穹は顔の向きをそのままに瞳だけを丹恒に向けた。酔いと泣いたことで赤くなった顔。泣いたことで潤んでいる瞳。普段の彼より幼くなった言葉遣い。そんな上目遣いの穹に見つめられた瞬間、頭がくらっとした。
本音を言えば、穹が語った理由の内容によっては追求するつもりでいた。酔って高いところに登ったり、他にも大変なことをしでかしかけたのだから事前に注意すべきだ、と。しかし、これは――

……分かった。怒らない」

そんな気力など容易く削がれてしまった。
そもそも穹は酔っている状態だ。そんな正気とは言い難い穹に注意をしても右から左に抜けていってしまうだろう。記憶に残るかも怪しい。であれば、酔いが冷めた穹に対して注意した方が効果的なように思う。

「本当? へへ、丹恒やさしい。すき」
……ぐっ」

今はまだ怒るべきではない。――これは合理的な判断か、それとも自分への言い訳か。それについては深く考えないことにした。