柩木
2025-11-15 17:28:24
18035文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|ワンライ企画参加作品まとめ

ワンライに参加した時の小説をまとめました。文字数の上限いっぱいになるまで追加していきます。



歯磨き


「またか」

パーティ車両のバーカウンターに穹が突っ伏している。これは特段珍しい光景ではない。全力で遊んだ子供が突然眠るように、穹もぱたりと眠ってしまうことがあるというだけのこと。パーティ車両の他にはラウンジのソファでも同様の光景が見られる。
大抵の場合体力を必要とする依頼を終えたか、ゲームをしていて力尽きたかの二択だ。

『こんばんは、丹恒さん。何か飲まれますか? もしご注文がないのでしたらオススメをご用意いたします』
「いや、今はいい。穹は?」
『先程までスマホとにらめっこしていましたが、何か……終わったと叫んだかと思ったらあの状態に』
「なるほど。分かった」

シャラップの話を聞く限り、今回はどうやらゲームの方だったらしい。
体調不良じゃないことは夕食の席で確認が取れている。幸いにも部屋は近いので、起きてくれたらいいのだが。穹の部屋まで連れて行くことは出来るが、完全に脱力した人を運ぶのには神経を使うのだ。特に階段は気を張る。

「穹。起きろ」
……むり。眠い。……寝たい」
「寝るなら身支度を整えろ。歯を磨かないと虫歯になるぞ」
「んんー。……やだ」
「嫌ならきちんとすることだ、ほら」

まるで子供に言い聞かせるみたいなやり取りだと思いつつ、肩を貸してゆっくりと立ち上がらせる。のそのそと起き出した穹の足取りは覚束ない。眠いというのは本当なのだろう。

「歯磨きしたら、何か、ご褒美くれる……?」
……歯磨き程度で何をねだるつもりだ」

これは半分寝ぼけているなと思いながら、寝かせないためにとりあえず会話を続ける。穹の部屋に向かう為の階段はまだ始まったばかりだ。

「んー……。おやすみのちゅー……とか?」

ここがまだ階段が始まったばかりで良かった。一瞬膝から力が抜けそうになったものの、ぐっと堪えて再び階段を登る。穹も階段を登ろうという意思はあるようで、ゆっくりではあるが着実に彼の自室が近づいてくる。

「ダメ?」
…………歯磨き程度ではしてやれないな」
「俺にちゅーするの、嫌?」
「なぜそうなる。歯磨きをしてきちんとベットに入ること。そうでないと寝る前のキスにならない」
「そっか……。確かにそう、かも……?」
「分かったら――
「ふふ。良かった」

穹が笑い、その呼気が耳にかかる。そんな距離で声を潜め、内緒話でもするように続きを囁いた。

「俺にちゅーするの、嫌になっちゃったのかと思った」
…………はぁ」

ここが階段でなければ――。そんなことを思う瞬間が来るとは思いもしなかった。
ある種の精神攻撃を受けつつ階段を登りきった丹恒は、穹の歩みに合わせていた歩調を一気に早め、受けた攻撃を返すようにベッドへ穹の体を放るのだった。