柩木
2025-11-15 17:28:24
18035文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|ワンライ企画参加作品まとめ

ワンライに参加した時の小説をまとめました。文字数の上限いっぱいになるまで追加していきます。




ネットの海を泳いでいたら見つけてしまった美味しそうな鍋。仙舟羅浮で話題となっている店をレポートする動画を観てしまった穹は、もう口の中が鍋になっていた。
白湯ベースに唐辛子を効かせたスープはある狐族の顔を思い出させたが、水餃子と野菜、茸がグツグツと煮込まれて次第に赤く染まっていく様子からは目が離せない。くたくたに煮込まれた具材の中で、水餃子はつるりと輝いて見える。
そんな鍋を実際に食べてリポートしている演者はそんな水餃子をぱくりと一口。はふはふと熱そうにしていたが、次の瞬間には顔を綻ばせて美味しいと驚嘆の声をあげた。もちもちつるつるとした餃子の皮がスープを吸って辛さと旨味を含み、中からは肉汁が溢れ出てくる。しっかり辛いのに旨味も感じるので、また次を食べたくなってしまう――らしい。
穹は生唾を飲み込み、資料室へと駆け出した。

「鍋食べに行こう!」

ノックも省略して乱暴に扉を開けたからか、丹恒はまずはそれを咎める。しかし、穹の第一声をしっかり聞き逃さなかったらしい彼は「構わないが随分と急だな」と返答しつつも、少し呆れているようにも見えた。
そんなことがあった数日後。穹と丹恒の姿は動画で紹介された店にあった。評判の通り繁盛しているらしく、店内は多くの客で賑わっている。料理に舌鼓を打つ以外には談笑に興じる声や、はしゃぐ子供。それを嗜める親の声等が聞こえてくる。
穹と丹恒も例に漏れず美味しい鍋を囲んで談笑を――している筈が、なぜだか穹は黙々と小皿の中身を口に運んでいた。

「なんか丹恒めっちゃ食べさせてくる」
「そうか?」
「俺のことはいいから食べなよ」
「それには及ばない。俺もちゃんと食べている。……穹、そこの水餃子が食べ頃だ。周囲の白菜も煮えている。一緒にすくうといい」
「お、おう」

テーブルの中央に置かれた鍋は今、丹恒が支配していると言っても過言ではない。菜箸とお玉を自由自在に入れ替えて鍋の中を最適に保ち、具材の煮え方を完全に把握した上で穹に食べることを勧めてくるのだ。それも穹の小皿が空になる直前の、丁度いいタイミングで。
そのため、穹はずっと鍋を食べ続けている。鍋を見つめる丹恒の瞳が真剣で、なかなか談笑する隙がない。

「丹恒がこんなに鍋奉行だったなんて……

とりあえず、丹恒が食べ頃だという水餃子と白菜をおたまですくい上げた。確かに丹恒が言う通り、水餃子はつやつやとしていて美味しそうである。くたくたに煮込まれた白菜もスープをよく吸っていそうだ。そうしながら他愛のない話題を振る。すると丹恒は新たに鍋へ茸を追加しながら答えた。

「実は予習したんだ。お前がこの店を見つけた時のように俺も動画や資料を見て、この鍋をより美味しく食べるための知識を身につけた」
「俺それ知らないんだけど」
……言ってないからな」

つまり、この鍋奉行っぷりはこの日のため。この日限定で見られる新しい丹恒の一面ということか。秘密の特訓をしていたらしい丹恒の姿をこの目で見られなかったのは悔しいが、おかげで穹は美味しい思いをしている。ただでさえ美味しいと評判の鍋を、丹恒のお陰で更に美味しく食べられているのだ。

「なんだよー。俺を太らせて食べる気かよー」

テーブルの下にある丹恒の足を爪先でつつく。丹恒が自分のためにしてくれたという事実に嬉しくなってしまったのだ。なんてことないじゃれ合いのつもりだった穹だが、丹恒はそうは受け取らなかった。
いつの間にか小皿に自分の分を入れていた丹恒は、煮込まれてつるつるぷりぷりになった水餃子を齧る。あふれ出る肉汁がついたのか舌で唇を舐め取り、最後に親指で拭った。

「そんなつもりはなかったんだが、……それもいいな」

ちら、と穹に視線が向けられた。射抜かれるような強い眼差しに体を揺らしてしまい、気まずくなって小さく縮こまる。それから足を軽く小突くと、珍しく丹恒は声をあげて笑った。